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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 ダレン編
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【日常編】楽、恋、爪弾くはリュート②


「……クラブは、音楽が好きなの?」

「え?」


 予想外の問いに俺は戸惑った。音楽……音楽。


「嫌いでは、ないけど」

「そう」


 俺の答えに何を思ったのか、彼女は俺の抱えるリュートをじっと見つめてきた。音探しを続けてもいいのだろうか。俺は戸惑いつつも、再び弦を弾き始めた。そして……


「できた! これがリュート版のコード表だ!」


 数十分後、俺とレイはタブラチュアに七つのコードを書き上げた。試しに順番に弾いてみると、多少変な感じはしたが、耳馴染みはまあ悪くはなかった。

 よし、これでレイを楽しませる準備ができたぞ。俺は意気揚々と彼女にリュートを差し出した。


「この和音を組み合わせて曲を作るんだ。さあ、やってみて!」

「ううん、クラブに作ってほしいな」

「えぇ?」


 予想外の返答だ。少し戸惑ったが、彼女のおねだりをどこか嬉しく思う自分が居た。

 俺の表現が求められている。創造性が求められている。それが嬉しいのか? いや、彼女に可愛くおねだりされたのが嬉しいのだ。俺はそう自分を納得させて、リュートを弾き始めた。

 すると俺は夢中になった。柔らかな音色に、たちまち屈託や言い訳を忘れた。ネガティブな感情を忘れた心に、音を組み合わせ、伸びやかに表現することの嬉しさが染み渡った。次第に俺は歌さえも歌い始め、久しぶりに心の底から「楽しい」と感じた。


「変わった演奏が聞こえるから来てみれば、君達か」


 そう言いながら現れたのは、俺達が早朝に出会った壮年の騎士だった。彼は穏やかそうな笑みを湛え、ベージュの石畳の上を歩いてくる。


「リュートはもっとしっとりと弾くものだよ」

「……そうですね。でも、型破りも楽しければ良いと思います」


 さしもの俺も、優しそうな年上(と恐ろしいヤカラ)相手には敬語を使う。どちらでもなければ、例え竜が相手でも敬語は使わないのだが。


「はは、そうだね。じゃあ、もっと型を破ってもいいかい?」

「というと?」

「あちらのあれで」


 彼が指差したのは、中庭のやや東寄りにあるガゼボだった。柱に薔薇やツルが絡んだロマンチックなドームの中に、一台のピアノが置かれている。


「セッションをしても?」

「……曲が完成したら」


 そんな約束を交わしてしまった。


 そうして俺は、しばらくの試行錯誤の末に曲が完成してもなお、セッションという名目で演奏を続けたのだった。リュートを独占してしまい、レイには申し訳なかったが、話の流れ上仕方がなかった。仕方がない……ことだった。



「あげるよ」


 セッションが終わると、彼女は俺にそう言った。俺はリュートを差し出したまま固まり、ぽかんと口を開けた。


「あげるよ、って……リュートを?」

「そう」

「俺が贈ったものなのに!?」

「あなたにリュートを贈るのは変?」


 可憐に首を傾げる彼女に、俺は言葉を詰まらせる。


「変っていうか、贈ったものを返されても……」

「でも、リュートを弾きたいのはクラブでしょ」


 ——心を矢で射抜かれたような感覚がした。心の錠前を砕かれて、閉じ込めていたものが露わになる。それは、「リュートが弾きたい」という感情。俺の「楽」の感情だった。

 俺は、俺なんかが何かを楽しむだなんておこがましい、恥ずかしいと思っていたのだ。それはもうずっと昔から。


「クラブはもっと、自分の気持ちに素直になるべき。いつも私のことばかりだから。

 私だって、クラブを幸せにしたいと思ってるの。常識も考えも足りていなくて、変な方法かもしれないけど……それでも私は、あなたに素敵なものを贈りたいの。

 だから、あなたにリュートをあげる。これはあなたのリュートだよ」


 手のひらでそっとリュートを突き返され、俺は強い抵抗を感じた。こんな自分がリュートを弾き、暖かく丸い音色を奏でるところを想像しただけで、ぞわぞわとした嫌悪を覚える。ゲジの這い回るような感覚だ。

 でも……


(ちゃんと素直にならないとな……)


 どういう訳からしくもなく、そんなことを思った。俺はもう一度リュートを抱いて、りんと弦を鳴らしてみた。優しい音がして、心が柔らかくなる感じがした。


「綺麗な音」


 普段よりも低く落ち着いた声。俺はどきりとして、俯いたまま顔を逸らした。


「聴かせてくれてありがとう」


 そんな彼女の囁きに、俺の顔は熱くなった。


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