俺は、お前の
……ダレンは何も答えない。俺はダレンの目をじっと見つめた。
「ジョージに憧れたなんて嘘だ。幼馴染のお前が、あいつの信仰心の篤さを知らない筈がないからな」
あの野営地でジョージに呼び出され、二人きりでワインの封を開けたとき、彼は俺にこう語った。
『実のところ、我はゴッズランド及びノースゴッズへの反乱を考えているのだ。
我はテオドア様を信仰している。しかし、ゴッズランドのやり方には賛同できない。彼らはテオドア様の名を借り、支配と略奪に溺れている。それに倣う聖テオドア騎士団も我としては許せぬ。
我はいずれ反乱軍を率い、正義の為にゴッズランド及びノースゴッズに牙を剥くだろう。……例え、友人と剣を交えることになっても』
そのときの彼は、悲しそうな目をしていた。彼の纏う不滅の大火のようなオーラが、ほんの少し削がれていた。
「ジョージはお前が騎士団に入ることを望んでいた。だけど、彼本人はゴッズランドや騎士団のことを気に入っていなかったんだ。
それでもお前を騎士団に入れようとしたのは、正義より、友人の生活を大事に思ったからだろう。……『武人の尊さを教える』なんて言っておいて、案外人間臭い奴だよな。だけど、そんなジョージでも——『聖テオドア騎士団の名にかけて』なんて、嘘でも言わなかったと思うぜ」
「聖テオドア騎士団の名にかけて」。ダレンがあの路地で言い放った言葉だ。俺はその言葉を聞いた瞬間、彼の纏う白色のベールが酷く薄っぺらく、透き通ったものに見えたのだ。
俺の言葉を聞いたダレンは、長く嫌味ったらしい睫毛を伏せた。満月のような瞳から放たれる、月光のような視線がゆっくりと床の上を彷徨い、やがて彼はぼそりと呟いた。
「そんなの知ってるよ。だって……
反乱軍の先頭に立つ彼を殺したのは、俺なんだから」
ダレンは俺を見つめ返した。諦め、恨み、悲しみ、全てが午前四時の冷めた眼差しに込められている。
「ジョージみたいになんか、なれる訳ないだろ」
「つまり?」
「俺の振る舞いは全部、ただの処世術だ。それと、彼女を惚れさせる為のものでもある」
「……ん?」
彼の言葉の前半を聞いたとき、俺はさして驚かなかった。「この野郎」と内心で吐き捨て、小賢しい処世術を妬ましく思ったぐらいだ。だが、後半は……なんだって?
「——俺はレイが好きなんだ。十五歳の秋から四年間、俺はずっと彼女に恋焦がれていた。だから広場で再会した時は嬉しくて、信じられなくて、絶対に彼女を逃さないと決めた。
俺は彼女に素敵な人だって思われたかった。だから路地で嘘をついた。俺は彼女に、せめて真人間になる努力をしてる奴だって思われたかったんだよ」
「……レイのことが好きだから、『ジョージに憧れた』なんて嘘をついたのか!? レイの前で!?」
「だからそう言ってるでしょ。彼女の前じゃなかったら、あそこまで取り繕わなかったかもね」
「な……な……」
俺はわなわなと震え、勢い良くダレンを指差した。
「こっっっっの二重底嘘野郎が!! パクチー大盛りのグリーンカレーみたいな野郎!!」
「何とでも言えばいいよ」
「レイに告げ口してやる!」
「そうしたら俺は彼女にありったけの悪口を吹き込む」
突然ダレンの声のトーンが低くなった。さらりと垂れた長い前髪が、彼に陰気な影を落とす。
「君の悪口だ。真偽なんてものはどうでもいいさ。彼女にあることないこと全部吹き込んでから俺は君達の前から消える。そうしたら彼女は君が苦手になるだろうね。君を見ると、俺に朝から晩まで悪口を吹き込まれた思い出が蘇るだろうから」
い、陰湿だ……
誰だ、この男をフラワリング王子だのスフレパンケーキだのと呼んだ奴は。森の陰気なジメジメ這い回りミミズじゃないか。濡れた石を裏返したら居そうな感じが気色悪い。
「……決めた。いいや、最初から覚悟は決まっていた。——俺は!!」
俺はへたりかけていた指先に力を込め、もう一度ビシッとダレンを指差し直した。
「俺は、お前のライバルになる!! 俺もレイのことが好きだ! 恋愛、親愛、全てひっくるめて彼女のことを愛している!! ぽっと出のお前なんか認めてやらない。全力でお前と渡り合ってやる!! ……覚悟しろよ」
俺は声に凄みを利かせて、全力で彼を牽制した。無力な自分のベールを脱ぎ捨て、獅子の子のような心を晒し、強大な存在と真正面からやり合う覚悟を決めた。それは記憶ある限り初めての勇気。弱者としての自分を覆す勇気だった。
俺は、レイの愛する人を殺した。確かにそれは間違いない。動機だって、「本当に自分がやったのか」と疑うほどのクソなものだ。だけど、それでも。
——自分の気持ちに素直にならないと、今一番大切な人を守れないと思ったから。
ダレンはたてがみを貯えた獅子のように、余裕綽々の笑みを浮かべた。
「『渡り合う』、ね。大見得を切ったつもりでその程度か。何とも弱々しいことだね」
「そうだ。俺はあくまでお前と『渡り合う』つもりで、『打ち負かす』つもりはない」
ダレンは目を丸くした。お前からしたら異様だろうな。俺はレイと結ばれる気はない。彼女の愛する人を殺した俺が、彼女と結ばれるなんてことはあってはならないのだ。
これはあくまで彼女を守る為の恋心。俺が、彼女の為に死んでもいいと思う為の恋心だ。ダレンとの競り合いはそれを鍛える為の稽古に過ぎない。利用させてもらうぞ、ダレン。
ひたすら睨みつける俺に、ダレンはなぜかにやりと口角を上げた。
「——なるほど、君は随分と小心者のようだ。俺は違うよ。必ず君を『打ち負かす』。逃げられるとは、思わないことだね」
ずいと彼の顔が近づき、俺達は至近距離で睨み合った。彼の視線が俺の瞳孔に突き刺さり、俺も負けじと視線を送る。……だが、やがてダレンは目を細めると、困惑したように身を引いた。
「本当に君の目は細いね」
「やかましいわ!!」
——第一部完!!!! なんとここまでが導入でした。
レイを愛する決意を固めたクラブ。ダレンを加え、どのように三角関係が発展していくのでしょうか……?
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ボルスキより




