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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 ダレン編
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そうして俺は失恋した


 恋人あるいは家族、女友達の服選びに付き合う時間がこの世で最もつまらないという男性は多いだろう。

 女の服なんて違いがわからないし、なんか白かピンクでフリフリしてれば可愛いんじゃないか。そんな浅ましい考えを持っていたのが昔の俺だ。

 しかし今の俺はそうは思わない。くすみピンクとパステルピンクの違いを踏まえて、レイを積極的に服屋へと連れ出したい。

 なぜならウルトラハイパー美少女のファッションショーが見れるからだ!!


「いいねいいね! グレート! エクセレント! ブリリアント! ファビュラスッッ!!」


 服屋にて。試着室に立ち、フェミニンからセクシーデンジャラスまで様々なジャンルの服を着こなすレイを前に、俺は歓喜しながらエアカメラを連写していた。いつになくテンションの高い客に店員が引いているのがわかる。


「ミモザ柄がとっても似合うね! さっきのオフホワイトのチュニックとどっちが良いかな!?」

「ん……白、かな」


 オッケー、オフホワイト。俺はオフホワイトもとい白色のチュニックを陳列棚の上の「買うかもしれない服置き場」に置いた。

 すると店員が近づいてきて、無造作に置かれたそのチュニックを畳んだ。店員が俯き、長い髪が横顔を隠すカーテンを作る。俺は店員とレイを見比べて呟いた。


「ロングヘアーも似合いそうだな……」

「じゃあ伸ばす」

「えっ」


 何の気なしに呟いた言葉が道端の金貨を拾う勢いで拾われてしまい、俺は唖然とした。物凄い即断即決。


「いっいいいいよ、そのままでも超絶可愛いし俺の好みに合わせる必要はないから……!」

「……好み」


 レイは自身の黒髪の先をつまんで弄り始めた。短い髪を穴が空きそうなほどに見つめて何かを考えている。

 その様子をぼんやりと見つめる俺に、服を畳み終えたらしい店員が歩み寄ってきた。その手には一着のブリオーが握られていた。


「彼女さん、これも似合いますよ」


 白い生地にシロツメクサ(クラブ)の柄が映えるブリオー。それを見るなり俺は慌てた。


「いえそれは結構です!!」


 流石にそれは……ライン越えだ。



 数着の服を買い、カフェのテラスでオシャレな食事を味わった後、俺達は櫛屋を訪れた。ここまで数時間。なんとか引き延ばせた方だと思う。

 俺達の前の陳列棚はさながら宝石箱のようで、色とりどりの櫛が輝きを放って並んでいた。

 流石に女性向けの櫛が多いな。華やかな装飾のものからシンプルな単色の櫛まで揃っている。買うならシンプルなものだろう。


「レイ、どの櫛が好き?」

「あの花柄のやつ」


 そう言ってレイが指差したのは百合の模様が描かれた櫛だ。俺はその櫛を手に取ろうとしたが、手首をそっとレイに掴まれてしまった。


「あなたの櫛を買いにきたのに」


 わかってるさ。でも、レイの分も買ってやりたいと思ったんだ。

 しかし正直なところ、俺は先程の服屋やカフェですっかり金を使い果たしてしまっていた。だからレイに櫛は買ってやれない。俺は渋々手を引っ込め、自分用の櫛を探し始めた。

 せっかくなら思い出に残るものが良い。見ているだけで……レイの居ない世界でも……レイのことを思い出せるようなものが良い。

 俺はこの旅の果てで、千年前の真実を知ったレイに嫌われる。いや、きっと嫌われるじゃ済まない。いずれにせよ決別して、二度と会うことはないだろう。それでも俺はレイを想い続けたいし、彼女の贈ってくれた櫛を眺めて、彼女の愛を死ぬまで反芻していたい。それが二度と戻らない愛だったとしても。


(よし、レイっぽい櫛を探すぞ)


 俺は内心で意気込み、陳列棚を睨み始めた。オレンジ。違うな。緑も違う。百合の柄はレイの可憐さを思わせるが、どこかしっくりこない。

 ふと、薄ピンクの櫛が目に止まった。レイの顔を見る。そういえば彼女の血は青色だったな。青い血が通っているとは思えない、ほんのり色づいた薄ピンクの……唇……


「すみませんこの黒い櫛を下さい。箱つきで」


 びっくりした。自分がキショすぎて。

 櫛屋を出た俺達は大通りをあてもなく歩いていた。俺のザックの中には櫛の入った木箱が一つ。大事に大事に布で包み、そっと他の荷物の間に入れた。前を歩くレイの背中を見つめながら、俺はどうしようもない実感を抱いていた。

 観念するしかない。俺はやっぱり、レイのことが恋愛的に好きなのだ。

 ただ、恋愛的な愛情の他に親のような愛情もあるし、兄妹のような愛情もあるし、友達のような愛情もある。それは嘘じゃない。俺はそれらを総合して、「崇高な愛情」なんてラベルを貼ってしまいたかった。だが、何よりも強いのがときめく気持ちで、俺は彼女とどうこうなりたいという思いを抑えられない。


 俺は、彼女の最愛の人を殺したのに。


 ……ああ、やっぱり悍ましい。自分が醜くて仕方なくて、吐き気がする。親を殺した人間を愛せるか。兄弟を殺した人間に愛されて嬉しいか。そんな訳がない。

 家族愛や友愛に比べて、恋愛感情は特に鋭いものだ。さくりと人の心を刺して、素敵な刺青を入れるように、あるいは命を狙うように跡を刻む。俺のこの想いは後者で、彼女に深い後遺症を与える毒付きのナイフだ。

 彼女とどうこうなろうなんて、全くもって過ぎた願いだ。俺は片手を背に回し、親指と人差し指の腹を擦り合わせた。彼女に知られてしまう前に、こんな想いは擦り潰してしまおう。


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