賭博師ジョージ・カークウッド
俺は杖に魔力を込めた。するとジョージの身体がふわりと浮き上がった。彼はにいっと不敵に笑むと、小鳥のように怪鳥の群れへと突っ込んでいった。そして俺は後を追おうとするレイを手で制した。
その様子にダレンは二度見をした。
「なんでっ、君達……」
「『なんで弟を助けに行ってくれないんでちゅか』ってか?」
「そんなことは言ってない!!」
ダレンは顔を赤くして反論した。しかし図星なのだろう。俺は彼の疑問に答えてやることにした。
「俺とレイはさっきの攻撃で重傷を負った。手負いの俺達が戦いに行くより、ジョージただ一人が行った方が勝率は高い」
なお、これは嘘だ。俺とレイが重い攻撃を食らったのは事実だが、戦えないほどの重症ではない。驚いたようにこちらを見るレイの耳元に俺は口を寄せて囁く。
「ジョージに頼まれたんだ」
そう、俺は先程ジョージに頼まれたのだ。「我が一人でグレンを奪還する。貴殿らはただ見守っていてくれ」と。その言葉の意味はすぐにわかった。
勇敢に牡鹿に立ち向かった王の伝説。ジョージはその再現をしようとしているのだ。王の伝説が彼の心を動かしたように、彼は今この瞬間に自らを伝説にしてダレンの心を動かそうとしているのだ。
行動は言葉よりも雄弁で、命を賭けた戦いは言葉では語れない神聖さを纏う。ジョージが賭けるはグレンの命、手札はあえて自分のみ。ジョージはよりハイリスクな状況を作り出して、己の勝利でダレンが感じるだろうカタルシスを高めているのだ。ダレンの興奮した脳はジョージの戦いを、武人を、騎士を素晴らしいものと感じるだろう。
しかしそれはただの演出だ。彼の演出はフィナーレの瞬間、とんでもない感動を生み出すだろうが、中身がなければ後日ほとぼりの冷めたダレンは狐につままれたように感じるだろう。中身はないがなんとなく演出で感動したように感じられるミュージカルほど最悪なものはない。彼の説得はそれなのか?
そうではないことに俺は舌を巻いた。彼が伝えたいことは命をかけて弱者を救うことの素晴らしさであり、自らの手札を減らすことはそれを効果的に伝える為の手段でしかない。
最もそれによりグレンをより一層の危険に晒してはいるが、俺の隣に立つダレンの瞳は……
「……」
……暴力的なまでの焔の輝きを映している。ジョージ、とんでもない奴だな。貴族よりも賭博師に向いているんじゃないのか。
俺がダレンやレイと会話している頃、既にジョージは上空で剣を振るっていた。怪鳥に急襲。剣の切先がその背を裂いたが、次の瞬間、彼は三羽の怪鳥に囲まれてしまった。俺は彼を急降下させ、翻って三羽の背後を突かせた。俺とジョージの意思が一つになり、怪鳥達を八つ裂きにした。
「獅子奮迅!!」
彼の瞳がキラリと光り、ボス鳥を捉えた。彼は真っ直ぐにボス鳥の元へと飛んでいったが、ボス鳥の口腔に火花が散ると、俺は咄嗟に彼の進路を変えた。
攻撃対象を逸れた炎が塔を包む。しまった、と俺が思うよりも早くジョージが叫んだ。
「反対側へ!」
ダレンのみならず、俺さえもジョージの意思に縋っていた。彼に操られるように俺が操り、彼の身体は塔の周りを半周した。そして彼はグレンの名を呼び、塔の窓から身を乗り出していたグレンを抱き上げて救出した。
塔の窓から入り込んだ炎は幸いにもグレンには届かなかったようで、泣きながらジョージに縋り付く彼は無傷に見えた。
だが、安心したのも束の間。俺の腹がとんでもない質量の塊にぶん殴られた。すっかりジョージしか見ていなかった俺は、目を白黒させながら吹っ飛んだ。明滅する俺の視界にトサカが映り、どうやら殴打ではなく頭突きをされたのだということがわかった。
倒れた俺には目もくれず、ボス鳥は転回して前方へと向かっていく。レイは一瞬俺を見たが、ハッとして前方へと駆け出していった。両者の視線の先はジョージだ。頭突きの衝撃で俺の魔法の制御が乱れ、ジョージは空中を落下していた。ジョージの表情は伺えない。彼は胸にグレンを抱いて、仰向けのまま落下していく。
地を駆けるレイの身体は凄まじい風を起こした。それぐらいの超高速で、レイは地面の寸前に迫ったジョージの身体に突っ込んだ。そのすぐ後方をボス鳥が追っていたが、レイの起こす風を浴びた塔が傾き、崩壊し、ボス鳥は瓦礫の下へと押し潰された。
レイとジョージはどうなったのだろうか。俺は痛む腹を押さえ、瓦礫の近くへと駆け寄った。すると立ち昇る土煙の中、瓦礫の側に沢山の人間が倒れているのが見えた。
一番下にジョージが倒れている。その上にグレンが倒れていて、グレンとレイの間には……ぐたりと伸びきったダレンが居た。
「凄い」
ダレンの背に馬乗りになったレイが呟く。
「ダレン、私より動くのが早かったよ」
レイは慈母めいた微笑を浮かべた。ぷっとジョージが吹き出した。
「カッカッカ! やはり弟が大事なのではないか」
「うるさい! 人の弟で大博打をするな!!」
顔を上げたダレンが叫ぶ。グレンさえもけらけらと笑って、ダレンは真っ赤な顔を逸らした。




