表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 ダレン編
45/139

暗黒のざわめき


 あの野郎。俺は呟きながら再び宙へ飛び上がった。レイが数匹の怪鳥と戦っている。俺はレイに迫った炎に水の矢を放ち、彼女の足元に急勾配の道を作った。それを駆け降りたレイは怪鳥の直下に立ち、その脚を引っ掴んだ。


「ただじゃ済まない」


 レイは掴んだ怪鳥をカウボーイの投げ縄のように振り回し始めた。とんでもない質量の塊が風を切り、迫り来る一羽の怪鳥を薙ぎ倒した。レイはその怪鳥の脚をも掴むと、二羽まとめて西の空へとぶん投げた。

 一瞬、他の怪鳥の視線が西に向いた。すかさず俺は岩を一羽の頭に落とした。気を失ったのかバランスを崩したのか、落下するそいつ目がけて地上のジョージが駆け出していく。突き出された剣が怪鳥の胸を貫き、その身体をクレーターの壁に縫い付けた。

 残るは一羽だけとなった。しかしこの一羽が中々デカい。こいつだけ赤いトサカが生えていて翼も極彩色。忍ぶ必要のない強者、すなわち群れのボスなのだろう。

 ボス鳥は甲高い奇声を上げ、俺達に向かってきた。その嘴が開かれる。レイが素早く嘴を掴むと、たくましい脚がレイを襲った。怪鳥は嘴を掴まれることを見越していた。そして掴まれた嘴を利用して、慣性による強烈な蹴り上げを行ったのだ。打ち上げられたレイが宙を舞う。俺はレイに突進すると抱き止めて、そのままの勢いで滑空を始めた。

 最初にレイに防護魔法をかけていて良かった。だが、今は森竜のときとは違う。防ぎきれなかった痛みにレイが咳き込み、俺は自分の瞬発力の不足を悔やんだ。

 が、悠長に悔やんでいる場合ではない。宙を突き抜ける俺の背後をボス鳥が追ってきている。逃げるのに必死で振り向いてどうにかする余裕がない。意図せず持ち込んでしまった鳥類相手のスピード勝負に、俺はじわじわと負けつつあった。

 世にも悍ましい奇声が響く。俺の心に焦りが芽生えた。しかし絶対に諦めたくない。一二の三で急降下しよう。奴の反応が遅れた分だけ距離を稼げる筈だ。一、二の……三!


 ————パンッッ!!


 俺が降下した瞬間だった。乾いた木のへし折れるような音がした。無意識に音源を探した視界に影が落ちる。慌ててその場を飛び退くと、俺の目の前をぐったりとしたボス鳥が落下していった。


「にいさま……?」


 地上の呟きが微かに聞こえた。驚いてキョロキョロと辺りを見回すと、クレーターの淵にダレンが立っているのが見えた。

 どういうことだ? 森のどこかで木が折れて、怪鳥が墜ちて、ダレンが現れた。一見共通点のない出来事の連続に、なぜか心がざわついている。俺の意識が暗く狭まり、目がダレンに釘付けになった。

 そのせいだった。俺の反応が遅れたのは。


「にいさまぁーーっっ!!」


 今度は激しい呼び声が上がった。咄嗟に下を向くと、俺の垂れた髪を猛烈に逆立てる風が俺の寸前で巻き上がった。慌てて再び顔を上げると、見開かれた黄色の瞳と目が合った。ダレンの弟、グレンがボス鳥に連れ去られていた。


「待て……ッッ!!」


 飛び上がろうとした俺の顎が蹴り上げられる。防護魔法をかけていなかった俺はモロに強い衝撃を食らい、抱えていたレイ共々クレーターの底へと落下した。

 ひよこの飛ぶ真っ暗な視界では何もわからない。しかし俺の身体は何かに突き放され、加速して落下したかと思えば受け止められた。受け止めた何かは跳ねながら速度を落とし、やがて静止した。

 視界が明るくなってくる。うっすらと見えてきたのはクレーターの壁で、俺はレイに姫抱きにされていた。あ、むちゃ恥ず。


「すまない、我が目を離していた」


 そう謝罪されたのは俺達ではない。ジョージはクレーターの淵に立つダレンに頭を下げていた。

 ダレンは何も答えない。ただじっと唇を噛んで、ジョージを見下ろしている。

 レイが飛び上がった。レイは宙を蹴り、クレーターの淵に立った。そして抱き抱えていた俺を下ろし、クレーターの底のジョージに手を伸ばした。しかし届かない。レイは再びクレーターの底へと飛び降り、ジョージを姫抱きにした。その無作為ロマンスやめてくれないかな。


「ダレン、鳥がどちらへ飛び立ったかわかるか」


 クレーターの淵に降り立ったジョージの問いかけに、ダレンはまたしても黙り込んだ。しかしその指が北西を向いている。北西には草原。その彼方に怪鳥達の影が見えた。

 彼らの中心には塔があった。それは森にあったものとは違い、今にも崩れそうなレンガ作りで、天井や外壁が壊れて剥き出しになった上階には、太い枝を織りなして作られた巣が鎮座していた。あそこにグレンが連れ去られたのだとすると……状況は絶望的に感じた。

 ジョージは不意に口笛を吹いた。すると二頭の馬が駆け寄ってきた。ジョージは葦毛の馬の背に飛び乗り、俺に手を差し伸べてきた。俺は何も考えずにその手を取ってしまったのだが、馬上に登ってからハッとして鹿毛の馬の方を見た。ダレンとレイが同じその背に跨っていた。

 俺は今すぐ吠えて噛みついてやろうかと思った。しかし、馬が急発進して全身をグンと後方に引かれてしまい、慌ててジョージの背中にしがみつく他なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ