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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 ダレン編
43/139

気温


 彼が去り、ダレンはなんともいえない顔をしていた。しかし、やがてジョージの去った方へと一歩踏み出した。


「来なくてもいいよ」


 振り向いたその顔には先程までの激情はなかった。

 もちろんレイが頷く筈もなく、俺達はダレンの後に続いた。



 森の中は朝よりも暖かくなっていた。俺達は相変わらず濡れている土に足を取られないようにして林道を進んだ。


「やっぱりこの森は遺跡が多いね」


 そう呟いたのはダレンだった。確かにこの森は、有名な遺跡群であることを抜きにしても遺跡が多い。道を歩いていていきなり遺跡にぶち当たることはないのだが、木々の隙間に時折無機質な白がちらつくことがある。正体はこの森に乱立する謎の塔だろう。


「でも、それは関係ない。今はとにかくお前の弟を探さないと」

「多いねって話しただけでしょ。いちいち引っかかるなあ」

「もしかしたら、遺跡の中で遊んでいるのかも」


 レイの言葉にうぐ、と声が出かかるのを堪えた。今その可能性を揉み消そうとしたのに。


「そ、その可能性はないと思うよ。だって遺跡は林道の外にあるじゃん」

「よく見て。そこに獣道ができてる。調査の為に何度か冒険者が道なき道を進んで、あの遺跡まで向かったんだ」


 ダレンは俺達のすぐ側の枝々が折れた空間を指差し、その指を逸らしてやや遠くにある白を指した。俺達が今立っている林道を抜け出した誰かが遺跡まで向かった痕跡だ。


「グレンがここを通った可能性はあると思う」

「いや、子供がこんな道通るかなあ……」

「なんでそんなに否定的なの? 俺は憶測で可能性を潰さない。賛同できないならついてこなくていい」


 ダレンは俺を一瞥すると、木々を掻き分けて獣道へと入っていった。野営地を発ってから彼の冷たさに拍車がかかっている気がする。この状況で露骨に八つ当たりをすることはないが、余裕にも振る舞えないということだろう。

 レイもまた黙って木々を掻き分けた。仕方がないので俺もその後に続いていく。


 ——困ったな。あの塔の中は見せたくないのに。


 そんな俺の思いも虚しく、獣道を抜けた俺達は塔と相対した。

 白塗りの高く聳える塔には、壁面に溶け込むような扉が一つと、風車のような大きなプロペラが一つついている。しかしその二つを除くと装飾はおろか、生活を思わせる要素が一切ない。窓すらないのだ。異様なまでにプレーンな建物がそこにはあった。


「ドアノブがない」

「引き戸みたいだね。引き手に凄い……引っ掻いた跡がある」

「開けにくかったんじゃない? あー……」


 馬鹿正直に答えても意味がない。俺は最後の悪あがきを決めた。


「お化けが引っ掻いた跡かもしれない!」

「非現実的な」


 一蹴されてしまった。ダレンはじっとりとした目で俺を見た後、扉の引き手に手をかけた。


「開けるよ」


 やや緊張を感じられる宣言。ダレンも森に埋もれた遺跡に入るのには抵抗があるのか。しかし、中には弟が居るかもしれないからな。

 ゆっくりと開きゆく扉。中の暗闇に光が差す。俺はレイの背後に立ち、そっとその目を手で覆った。




















『651日目平均気温75.0℃平均風速53m/s』『827日目平均気温75.1℃平均風速53m/s』『996日目平均気温75.0℃平均風速52m/s』『1298日目平均気温74.8℃平均風速54m/s 死滅確認』『2997日目平均気温74.8℃平均風速55m/s』『3264日目平均気温76.0℃平均風速55m/s 第1回放流失敗』『4812日目平均気温74.3℃平均風速53m/s』『5318日目平均気温74.2℃平均風速51m/s』『6535日目平均気温73.6℃平均風速53m/s』『7633日目平均気温72.1℃平均風速54m/s 第3回放流失敗』『8058日目平均気温71.9℃平均風速51m/s』『9721日目平均気温70.3℃平均風速50m/s』『10381日目平均気温70.2℃平均風速52m/s』『11440日目平均気温68.8℃平均風速49m/s』『12584日目平均気温70.0℃平均風速49m/s 枯渇』『13933日目平均気温65.8℃平均風速55m/s』『15011日目平均気温65.7℃平均風速51m/s』『16627日目平均気温65.3℃平均風速45m/s 異常増加』『17001日目平均気温64.8℃平均風速42m/s』『18502日目平均気温64.6℃平均風速40m/s』『20134日目平均気温65.8℃年間総生産水量2231㎥平均風速38m/s 死滅確認』『22499日目平均気温67.6℃年間総生産水量3067㎥平均風速37m/s』『24381日目平均気温65.8℃年間総生産水量3529㎥平均風速37m/s』『28395日目平均気温63.5℃年間総生産水量4827㎥平均風速37m/s』『30067日目平均気温63.1℃年間総生産水量5490㎥平均風速37m/s 第4回発芽失敗』『32498日目平均気温64.7℃年間総生産水量5822㎥平均風速36m/s 良好』『34372日目平均気温52.9℃年間総生産水量6346㎥平均風速36m/s』『36515日目平均気温50.2℃年間総生産水量7095㎥平均風速35m/s』『38294日目平均気温54.5℃年間総生産水量7583㎥平均風速36m/s』『39971日目平均気温49.7℃年間総生産水量8121㎥平均風速35m/s 第11回発芽失敗』『41278日目平均気温48.8℃年間総生産水量8570㎥平均風速35m/s 第12回発芽失敗』『42750日目平均気温42.5℃年間総生産水量9031㎥平均風速35m/s』『43978日目平均気温45.5℃年間総生産水量9245㎥平均風速35m/s』『44583日目平均気温46.2℃年間総生産水量9496㎥平均風速32m/s』『46827日目平均気温48.4℃年間総生産水量9682㎥平均風速30m/s』『48360日目平均気温47.3℃年間総生産水量9773㎥平均風速30m/s』『50913日目平均気温42.1℃年間総生産水量1万㎥平均風速28m/s 第18回発芽失敗』『55709日目見』『70451日目平均気温33.2℃年間総生産水量3万㎥平均風速17m/s』『71765日目平均気温33.0℃年間総生産水量4万㎥平均風速18m/s』『72486日目平均気温32.8℃年間総生産水量5万㎥平均風速19m/s緑地面積0.2a』『75344日目平均気温35.9℃年間総生産水量7万㎥平均風速19m/s緑地面積10.1a』『77435日目平均気温32.0℃年間総生産水量8万㎥平均風速17m/s緑地面積50.8a』『80169日目平均気温30.1℃年間総生産水量10万㎥平均風速13m/s緑地面積200.6a』『82573日目平均気温27.8℃年間総生産水量12万㎥平均風速9m/s緑地面積300.4a』『85010日目平均気温25.7℃年間総生産水量15万㎥平均風速8m/s緑地面積500.5a』『86224日目実験中止』


「……えっ」


 塔の内壁を埋め尽くすおびただしい血色の文字の羅列に、ダレンは一歩後ずさった。彼は咄嗟に目を逸らしたが、その先にも血色の文字があった。羅列からはぐれ、ぽつんと書かれた簡潔な文章。彼は目を見開いた。


『86225日目平均気温90.0℃平均風速56m/s』


(あーあ……)


 ダレンはがくんと膝をついた。


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