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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第二章 森竜編
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【改稿】男気ムーンサルト


 森をかき分け村を抜けた。天高く昇った月がいつになく明るい。村に入った時点で見渡す限りの地面に巨大な魔法陣の線が這い回っており、どす黒い光を放っていた。

 俺達はねぐらの前の草原へと辿り着いた。月明かりに照らされた森竜の巨体が浮かぶ下、旗がはためくような重い風切り音と何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。

 そこにはアンドロイドの集団が居た。超人的なスピードで襲い来る彼らを、鉄の槍を振り回していなしているライアンもまた居た。

 ……無理だろ。一目見て俺はそう思った。


「やっぱり無理だよレイ、あいつに任せて帰ろう!?」

「絶対にダメ」

「ああっ、ちょっと!?」


 草むらから飛び出していったレイを追いかける。ライアンまでの距離は短いが、その僅かな距離さえもアンドロイドの脚力に置いていかれる。


「レイ!? クラブ!? 逃げろと言ったじゃないか!」

「俺だって逃げたかったんですけど——ッッ!?」


 チャクラムがレイに向かって飛ぶ。俺はすかさず杖を振った。するとレイの纏ったローブの表面に魔力の膜が張り、そこに向かって刃が降り注いだ。

 数秒遅れて追いついた俺は、彼女の隣に並び立った。


「……大丈夫、約束は果たすよ」


 彼女のローブには傷一つない。俺は安堵すると共に、ぎっと前方を睨みつけた。


「あら、この前の虫けらじゃない」


 集団の中心には先日の少女が立っていた。俺達の登場にも泰然としていて、手には黒山羊の頭を持っている。


「守る度胸が身についたのね。無駄なことだけど……」

「なんて!? 全然聞こえない!!」


 新たな参戦者である俺達を認め、一斉に襲い来たアンドロイド達をいなす中で、少女の言葉はまるで聞こえなかった。目にも止まらぬ速さの攻撃を必死に避ける。


 ——ローレアに毒ガスを撒かれたあの日、俺はアンドロイド達について「得手不得手を理解していない」という推測を立てた。

 彼らの村や街への襲撃回数に対して人的被害が少なく、死人も出ていないという事実。俺はその理由について、彼らが今まで、自分達の能力を活かしきれない方法で襲撃をしてきたからだと推測した。俺は彼らを、業界の知識に基づいた自己分析が足りない為に、自分の売り込み方がわからない役者のようなものだと思っていた。要するに無知蒙昧。もちろんそんなことを言えば角が立つので、レイの前では黙っていたが。

 だが、この戦いはなんだ? 彼らは森竜を罠に嵌めて魔道具を使用。自分達の身体能力をフルに活用し、明らかに知的な戦いをしている。ローレアのときとは真逆じゃないか。

 何かがおかしい。そんな疑念を抱きながら、俺は杖の先から魔力を放つ。それは想定よりも大きな風の刃を形成して、少女の持つ魔道具へと突っ込んでいく。やはり魔力の充満した中では魔法の出力が高くなるようだ。しかし刃は魔道具に触れる前に消滅した。そして——


「しまっ……!」


 ——その隙を突かれて腹を蹴られ、俺は吹っ飛ばされた。木にぶつかり、激しく咳き込む。


「クラブ!」

「殲滅魔法——ステージ2」


 畳み掛けるような言葉と共に、悍ましい血の色が地を這った。黒い魔法陣が赤黒く染まっていく。そしてこの戦場を取り囲むように七本の赤熱する柱が生え、地鳴りのような音を立てて回り始めた。その瞬間俺の視界はぐるりと回り、瞬きの間に遠くなった地上を映した。俺はレイに担がれて空を飛んでいた。一拍遅れて赤い翼のライアンが俺達に追いついた。

 一変した状況に戸惑い、ふと横を見ると森竜が近かった。近いといってもそれなりの距離はあるのだが、同じ高さに奴が居た。


「なんで森竜は儀式を止めないの!?」


 そう叫んだのはレイだった。この混沌とした状況の中で、森竜はなんと眠るように目を閉じていた。


「止められないのだろう……! もう何度も呼びかけているが反応がない!」

「そんな……」


 ではどうすればいいのか。アンドロイド達とはまともにやりあっても勝てない。黒山羊の魔道具は破壊できない。森竜は呼びかけても反応がない。万事休すと言わんばかりにレイとライアンは目を合わせあっている。だが——


「じゃあ俺があの『ホース』達を壊してきてあげる」


 ——打開策はちゃんとある。とん、とレイの肩を押して離れる俺に二人は目を見張った。


「クラブ! 君……」


 らしくもない、という言葉は飲み込んだつもりだったのだろう。ついでに俺が浮遊していることへの驚愕も。しかし思いっきり顔に書いてある。

 俺は今日の夕方、浮遊魔法の練習が上手くいかずに不貞腐れていた。しかしそれは、レイに見せる為のパフォーマンス的な飛び方が上手く出来ずに腐っていただけだ。基本的な飛び方はとっくにマスターしていた。

 俺はふっと笑うと、レイの防護魔法をかけ直した。そして、身体をぐっと森竜の方へと傾けた。


「勘違いしないでよね! これも全部レイの為なんだかうわあああああーーー!!!!……」


 俺は強すぎる力に引かれ、ムーンサルトのような弧を描いて森竜の元へと吹っ飛んでいった。

 くそっ、全部台無しじゃないか。ああそうだよ。俺はこんな柄じゃない。

 ご褒美の為? 可愛いお願いに屈したから? まさか。俺の動機はただ一つ。


 ——レイの心を譲りたくないだけだ!


「ライアン! ちゃんとレイを守れよ! 傷つけたら承知しないから!!」

「……ああ! わかった!」


「レイも君も私が守る!」


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