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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第二章 森竜編
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【追加!】うねれ!猫々的クネクネ怪獣


「なんじゃと……?」

「アンセスターワームの背面にあったのは、大きな虫の卵だった。私はそれを叩き潰したけど、ワームは死ななかった。コアはワームの体表のどこにもない。コアはワームの体内にある」


 森竜はわなわなと震え、再び大きな声で吠えた。


「だからライアンを食わせたというのか!!」

「ライアンがそうするから協力しろって言ったの。そして私は、彼がコアを破壊した後にこの大剣でワームを輪切りにして彼を助け出すの」


 レイはぎらりと黒光りする大剣を構えた。それは村の伝説に登場する剣で、先程まで森の祠に刺さっていたものだ。


「それまで村への侵攻も止めなくちゃ、ね」


 レイは涼やかに飛び立ち、ワームの背中に降り立った。剣を振るい、走りながらその皮膚を深く裂いて血を噴かせていく。


「小娘が……小童が!!」


 森竜は恨み節を叫び、レイに続いて飛び立った。



 ……一方その頃。


「んん……あれ、俺、いつの間に寝て……」


 呑気なクラブは——俺は、ねぐらの家のベッドの上で目を覚ました。


「静かだな……今日も二人は帰ってこないか。森竜は居るかな。ええと、森りゅ……」


 ——世界が強く輝いた。


「目がァァァーーーッッッ!!!!」


 俺はベッドから転げ落ち、目を押さえて悶えて暴れまくった。構ってほしい猫以上のクネクネ怪獣と化した俺は強かに足首をベッドの脚に打ちつけ、声にならない悲鳴を上げた。

 何だ、一体何が起きた? 俺は瞼の向こうで光が薄れたことを確かめ、恐る恐る目を開いた。そして今しがた爆発的光を取り込んだ犯人であろう窓の、薄いガラスの外を凝視した。

 すると、遠くに異様な灰色の影が見えた。いや、それは分厚い大気を通して灰色に見えているだけだろう。ねぐらの森を抜けた先のはるか遠くに、巨大という言葉には収まりきらない程に大きなワームが蠢いていた。

 そしてその側で何かがちらついた。俺は嫌な予感がして、勢いよく家を飛び出すと森を駆けた。森を抜け、村を抜ける。その間も俺の向かう先で巨大ワームは蠢いており、その近くを有翼の緑と星のような何かが飛び回っていた。


「——レイッ!! 森竜!!」


 俺は息を切らして叫びながら、ワームの寸前に辿り着いた。——すると次の瞬間。

 地鳴りのような爆音が鳴り、ワームの上半身と下半身が()()()。切断された上半身が下半身の断面を滑り、赤い血を濁流のように噴き上げながらずり落ちていく。


「うえ……うえええええ!?!?」


 俺は情けない声を上げた。ワームの上半身が地面に落ち、俺の身体が飛び上がるほどの縦揺れが起きる。背後の村の家々も激しい音を立てて揺れたが、やがてその揺れは収まった。

 と思いきや、今度は下半身が倒れた。俺は再び起こった地震に耐え、だくだくと血が流れ出るワームの上半身を見つめた。なぜなら空から地上に降り立ったレイが、それを祈るように見つめていたからだ。

 俺もつられて祈り、見つめた。数秒が経った。


「——ッッ!?」


 ——一本の腕が、そこから飛び出た。血塗れで、ワームの赤い肉と見紛いそうなその腕は、血の滴る僅かな隙間から日に焼けた褐色の肌が見えた。腕は手のひらをワームの断面に押し当て、這い出ようとするように踏ん張った。そして断面から黒い頭が現れた。首、背中、赤い翼。


「嘘だろ……」


 無意識にそう呟いた俺は、この状況にそぐわない全く別の恐怖を抱いていた。そのあまりのおかしさに俺は笑いすら溢れるかと思ったが、口角が強張って笑えなかった。

 ワームの上半身から這い出てきたのは、ライアンだった。わあっと村から歓声が上がり、沢山の人々がライアンに向かって駆けていく。ライアンは彼らが自らに辿り着く前に苦笑し、洗浄魔法をかけて全身を洗った。人々は折り重なるようにライアンに抱きつき、それを遠巻きにレイと森竜も見守っていた。


「レイ、これは一体……」

「なんじゃ坊主、今頃来たのか」


 森竜は俺を見下し、冷めた目を向けてきた。俺は小さく呻き、レイに視線を向けた。心なしか彼女も白けた目をしている……ような……


「あっ、えっ、えっと、今からなんか出来ることある!? な、流れ出た血の掃除とか!?」

「血を掃除する魔法が使えるの?」

「う……それは……ええと……」

「洗浄魔法を使おうか」


 ライアンが俺達に歩み寄ってきた。沢山の村人達を引き連れる彼に、俺は悲鳴を上げそうになる。


「ここら一帯を洗浄魔法で綺麗にしよう。流石に今日はもう何もできないから、明日から数日かけてやろう」


 彼の提案に村人達は頷いた。俺は呆然としていたが、「帰るよ」とレイに促されると、魂が抜けたようにのそのそと帰路についた。


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