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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第二章 森竜編
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【追加!】単色の超越


 ライアンがワームに向かって飛んでいくと、その背後から彼の比較にならないスピードで緑の翼が迫ってきた。凄まじい勢いで過ぎ去る景色がゆっくりに感じられるほどの速さでライアンとの距離を詰めた緑は、鼓膜が割れそうなほどの声で叫んだ。


「馬鹿者が! なぜ村人共の誘導を止めてこちらに来た!」


 その緑はまさしく森竜だった。元々皺の多い顔を更に干ばつした大地のように皺くちゃにして、怒りの形相を浮かべている。


「村人達の誘導は、私の友人達が請け負ってくれました」

「あの軟弱者共がか? ふんっ、軟弱以前の問題だ。見よ、眼下を!」


 ライアンは飛びながら村を見下ろした。ずらりと屋台が並ぶ大通り。営みの明かりが今にも燃え上がりそうに灯る中に、ひしめく程でもない数の人々が居て、その全員が足を止めてこちらを見上げていた。


「あやつらはさもしい田舎者だ。外の世界を知らない劣等感と、それによる連帯意識から、お主の成功に期待している。お主はミドルスクールでの成績、家柄や桁外れな魔法の練度によって、あやつらの最高水準を易々と超えた。大差をつけて村人達の頂点に立つお前ならば、外の世界の脅威——アンセスターワームから都会人までの全てに勝てるのではないかと期待をしているのだ。そして期待が過ぎて、今や狂信を抱いている。お主が戦うことを決めたせいで、あやつらは逃げることもしなくなったのだ。あやつらは、お主が今この瞬間に英雄になると信じている。……お主のせいだ、ライアン」


 師であり主人である森竜にそう言い渡され、ライアンは戸惑った。唇を噛む。しかし、だからといってやることが変わる訳ではない。


「それでも私はやります。何故ならば私は……守り人ですから」


 森竜はため息をついて首を横に振った。そんな話をしているうちに、ライアンはワームの眼前に辿り着いていた。いや、眼前と言うには絶対的距離がありすぎる。しかし相対的に眼前なのだ。大樹のような身体を持つ祖にして母——アンセスターワームの前においては。

 そして更にワームの近くを、俊敏な蛍のように飛び回る者が居た。


「レイ! 状況はどうだ!」


 ワラスボに似たワームの口がレイに向かって大きく開かれ、断頭台のように閉じられた。しかしレイはその寸前で飛び上がり、強風に吹かれながらも空中で半回転、放物線を描いてライアンの隣に着地した。ワームの口から放たれた臭気の風が一拍遅れて吹き付ける。


「確かに身体の芯まで打撃が通っている感じがする。でも、もう一度同じところを蹴っても殴っても感触が変わらない。柔らかくならない」


 つまり細胞を壊した感触がするのに、実際には壊れていないということらしい。レイはミートハンマーを思い浮かべていた。叩けば叩くほど柔らかくなる筈の肉が柔らかくならない。そして、打撃により凹んだ体表は羽毛枕のように必ず元の形に戻っていた。アンドロイドであるレイの攻撃の威力は相当のものの筈。


「ならば、物理的な攻撃を無効化するのか」


 ライアンが手を前に伸ばすと、どこからともなく薄荷の香りの風が吹いてきた。ライアンはそっと目を閉じた。そして思いを馳せた。あっという間に過ぎ去った日々の最初、彼女が口にした何気ない言葉。


「ライアン——」

「君はこの技を凄いと言ったな。だから名前をつける気になったよ。——単色の超越(ホワイト・リフレイン)


 ライアンがその言葉を口にした瞬間、彼の直前に途方もない広さの魔法陣が生成された。アラベスク模様の一つ一つが眩いほどに白く輝き、はるか彼方からでも目を引く大きさと、魂を抜かれるほどの美しさを湛えた。地上から歓声が沸き上がり、ワームは動きを止めて呆けた。それは猛進するように轟いた。そして万をゆうに超える数の白い弾が放たれ、一斉にワームに襲いかかった。

 濃い弾幕が十秒も二十秒も続く。ワームは悲鳴を上げてのたうち回った。しかし、弾幕が幕引きを迎えると——ワームの身体には傷一つなく、ワームは立ち昇る土煙の中でぎょろりとした気迫を増していた。

 そしてワームは口を開いて二人と森竜に襲いかかった。二人と森竜は散開したが、不幸にも狙われた森竜は逃げ切る寸前で尾の先を噛み切られた。ライアンは鬼気迫る声を上げ、森竜は嘆息した。


「闇雲に攻撃しても無駄じゃ。アンセスターワームは五つのコアを持つ。四つは四皇の魂そのもので、一つはあやつの身体のどこかにある。その全てを破壊したとき、初めてあやつの命を絶つことができるのじゃ。はやったな」

「……ッ、申し訳ありません!」


 ワームは尾を踏みつけられた猫のような叫声を上げ、口から数本の牙を発射した。砲丸のようなそれらを二人と森竜は後方に飛び退いて避け、ワームの全身を視界に映そうとした。一度に全てを視認することは出来なかったが、それぞれ首を回して順番に身体を見た。ずんぐりとした腹、胸、首、頭、その向こうに尾。一切のくびれのない単調な身体には、偏光する糸で織りなした金巾を張ったような、奇妙で細やかなざらつき以外の特徴はなかった。


「少なくとも前面には……」


 そう呟いてライアンは右に飛んだ。そしてワームの背面に回り込もうとしたが、身体をよじって噛みつかれかけ、離脱。その隙にレイが左から回り込もうとしたが——


「——ッ!」


 ワームの体表から無数のポリプのような触手が飛び出し、矢のようにレイに襲いかかった。レイは辺りを飛び回って触手を避け、顎に迫った一本を掴むと引きちぎった。しかし間髪入れずにその脳天に触手が襲来、鞭のように打ってレイを落下させた。


「レイ!!」


 脳震盪を起こしてしまったのか。ぐったりとして魔法陣も出さず落ちていくレイにライアンは羽ばたいて突っ込んでいくと、抱き止めて急上昇、触手の追撃を避けながら後ろ手で数本の水の矢を放った。矢と触手の数は同じ。矢は全て触手に衝突、一本の討ち漏らしもなく触手を撃墜した。

 ライアンが腕の中に目を落とすと、レイは瞼を震わせて目を開いた。


「大丈夫か?」

「大丈夫。アンドロイドだから」


 レイはライアンの胸を軽く押して離れ、しっかりとした足取りで魔法陣に降り立った。それを見届けるとライアンはワームに向き直った。その精悍な目つきに焦燥が宿る。ライアンはあることに気がついた。


「目が……鼻が、耳がない。ワームはどうやって私達のことを感知しているんだ?」


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