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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第一章 旅立ち編
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【挿絵あり】少女型アンドロイドとの出会い

挿絵(By みてみん)




 俺はあの日、アンドロイドを拾った。


「じゃあクラブ、行ってくるね」


 今、ボロい長屋の毛羽立った扉に手をかけて、俺に向かって口角を上げているのがその子だ。


「大丈夫? お昼のパンは持った? ハンカチは? 今その扉のささくれで怪我しなかった?」

「ううん、大丈夫。本当にクラブは心配しすぎ」


 そう言ってわざとらしく唇を尖らせるのは彼女の茶目っ気のようだ。目や眉が笑っていないが、怒っている訳ではない。


「いーや、これぐらい言わないと。それぐらい君はぼんやりしてるんだから」

「……むっ。本気で怒るよ」


 前言撤回、彼女の眉間に皺ができた。俺の心に小さな恐怖が走る。


「じ、冗談だよ。とにかく、無事に帰ってきてね。いってらっしゃい!」

「……いってきます」


 彼女は腑に落ちていないような表情で扉を開けると、部屋の外へと踏み出した。

 扉が閉まる直前、彼女の垂れた(びん)の向こうで再び口角が上がっているのが見えた。俺は安堵のため息をつく。


(ち、ちょっとビビった……)


 俺はすごすごと部屋の奥に戻ると、窓から落ちる朝の光の中で伸びをした。


(『お金ちゃんと持って帰ってきてね』って、言いそびれたな)


 まあ、毎朝とまではいかないにしろ頻繁に伝えていることなので、今日一日言わなかったところで与える効果に差は出ないだろう。

 そんなことを考えながら、俺は壁に立てかけた木の杖を手に取った。頭部には琥珀、石突には鉄の覆いがあしらわれ、かの扉に負けないぐらい表面が毛羽立ったそれは、今日も西の森で使う予定だ。


 ——俺はしがない冒険者、クラブだ。


 冒険者とは、剣と魔法と厳かな大自然、動物と魔物によって構成されたこの世界の便利屋とも言うべき職業だ。その仕事内容は、魔物討伐から未開の地の探索、薬草採取までなんでもござれといった感じだが、俺自身はその中でもフィールドの植生や生態系を調べる非戦闘員的な仕事をしている。この杖が使い古されているのも、背負った荷物を軽くしたり、魔物の近くで気配を消したりする為に魔法を使っているからだ。

 彼女との出会いは、そんな仕事中でのことだった。


 俺達が住むのは「真実の街・ローレア」。馬車が行き交い、騎士が闊歩し、荒くれが酒場で豆のスープとうっすいビールを飲む街だ。暮らしにくいっちゃあ暮らしにくいが滅茶苦茶暮らしにくい訳でもない、そんな程度に発展した街だが、この街はそれだけじゃない。

 ローレアの西にある広大な森の中で、俺の所属する冒険者ギルドはある一つの遺跡を発見した。そもそもあの森は、巨大な遺跡群として街のみんなが知るものだった。生い茂る緑を穿つ謎の塔がぽつぽつと建ち、その存在が遠目に森を見るだけでわかった。

 そしてそれらの塔は、間近に立つとその壁面が白くつるつるでやたら頑丈な、未知の物質で作られていることがわかった。


 ——アポカリプス。今から千年前、この世界には現代よりもはるかに高度な技術を持つ文明があった。そしてそれは突如として謎の滅亡を遂げた。


 魔法よりも科学が進歩していたとされているが、あまり遺物は残っていない。遺跡さえもあの森の遺跡群が世界でほぼ唯一のものと言って良かった。

 さて、そんな遺跡群の中で新たな遺跡が見つかった訳だが、今回見つかったそれは塔よりも背が低く立方体で、頑丈で分厚い扉がついた、すなわち立派な「家屋」だった。その調査に俺一人だけが派遣されたのは、流石過去の遺物に関心のない荒くれ共のギルドと言うべきか。

 ともかく俺は調査へと向かった。鬱蒼とした森の中で壁や天井に破損もなく、窓さえもないその遺跡は、扉をこじ開けた瞬間にむわっとした湿気と匂いがまとわりついた。もちろん中は暗く、魔法で杖に明かりを灯しながら進むと、白い廊下に白い部屋が続き、所々ある壁や床の傷以外、遺物や痕跡と思われるものは何もなかった。

 だが、一つだけ違和感のある箇所があった。それはこの遺跡で唯一とも言ってよい「破損」だった。


 ある廊下の突き当たり、向かって右側の壁が、何かによって突き破られていた。


 それを見た瞬間、俺は一気に肝が冷えて恐怖に支配された。頼りない明かりでも、なんとか自分の周囲ぐらいはくまなく照らせる狭さの廊下を進んでいて、突然すぐそばの壁に底なしの闇が現れたのだ。杖をかざすとその先に部屋が続いていることがわかったが、いずれにせよその跡は強大な何かの存在(つまり死)を感じさせるもので、いずれにせよ恐ろしかった。


 が、俺は意を決してその部屋に踏み入った。結論から言うと、俺は「強大な何か」に襲われてしまった。


 中には奇妙なカプセルのようなものが並んでいた。それらはそれぞれに人間が一人ずつ収まれるようなサイズであり、スライド式なのだろう黒塗りの蓋はほとんどが開かれていた。

 まるで死者が這い出した後の棺のようだった。部屋の左右に並べられた圧迫感のあるそれらの間を俺は進んだ。すると部屋の最奥に一つだけ蓋の開いていないカプセルがあった。それを見つけた瞬間俺は、無理を言ってでも仲間を連れてくるべきだったと後悔した。


 蓋には縦長の窓が付いており、中を伺うことができた。内側から少し曇ったその窓の向こうには——人間の鼻のようなものが見えた。



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― 新着の感想 ―
Xから来ました〜。 全体を通してプロローグと出会いの章、それぞれのトーンが異なりながらも、謎が徐々に明らかになっていく構成が非常に巧みだと感じました。 プロローグの「誰が、なぜ主人公を閉じ込めたのか」…
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