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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 帝国・決戦編
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怨霊山


 それは黒い雲のような、山のようなものだった。街の彼方で悪臭を放つ醜悪なヘドロが霊峰のように高く積み上がり、蠢いていた。その山肌とも呼ぶべき表面に、下から上への、重力を無視したドレープのヒダのような流れが生まれているのを見るに、それは地上に降り注いだ泥が天に向かって吸い上げられて生まれたもののようだった。


「な、なにあれ……」

「知らないわよ。でも、凄まじい悪意を感じるわね。私が暴れる必要もなかったみたい……」


 ヘドロの霊峰は一際大きく蠢くと、冒涜的な光を空に撒いた。その瞬間、見渡す限りの街を紫の炎が焼いた。


「寒っ! 何これ!?」

「火に触るな!」


 俺は叫んだ。その炎は、たかだか肉体の体表、肉と脂肪の緩衝材を挟んだ先で感じるような、気温的な寒さとはまるで違う寒さを湛えていた。魂に直に届く、本質的な恐怖——紫の炎の放つ冷気は、死の寸前に感じる寒さに似ていた。

 俺は本能的に悟った。この炎、触れたら死ぬ。

 ダレンは俺達を取り囲む炎を見て、よろめきながら立ち上がると、剣を横一文字に振るった。すると剣から放たれた純然な赤い炎が、周囲の紫の炎を飲み込んで消火した。

 レイはじっと霊峰を見上げた。そしてフローラの握っていた大剣を強奪すると、軽々と振り回して右肩に担いだ。


「あれぐらいの敵なら倒したことがある。竜の加護を持った人とね」

「あいにく空は飛べないけど、いいかな?」

「俺を忘れてもらっちゃあ困るなぁ」

「そうだね。君とレイの力があれば、俺は竜のように空を飛べる」


 キザなことを言う奴だ。しかし、今ぐらいは許してやるか。


「浮遊魔法!」


 俺は煌めく魔法陣を展開し、自身とダレンに浮遊魔法をかけた。そして、フローラにかけた荊の魔法を解除。間髪入れずに飛び上がると、三人揃って彼女が追いつけない空高くまで、ぐんぐんと飛んでいった。


「……」


 振り返ると、置き去りにされたフローラはただじっとこちらを見ていた。何もする気がないならそれでいいだろう。炎の少ない場所で、炎に触れないようにじっと待っていてくれたらいい。彼女とはこの戦いが終わった後、しっかり話す必要がある。

 さあ、俺達の飛翔する先には鬼火を放つヘドロの山が聳えている。怨霊山(マウント・デーモン)とでも名付けようか。怨霊山(マウント・デーモン)は俺達に向かって、火山弾のような火の塊を放ってきた。俺達はそれを避け、あるいはダレンの炎で打ち消しながら、どんどん奴に近づいていった。


「——増幅魔法」


 レイは俺とダレンの前に出ると、大剣を振り下ろして暴風のような斬撃を放った。増幅された強力な斬撃の衝撃波がいくつにも分かれ、風威を纏って怨霊山(マウント・デーモン)に襲いかかった。斬撃は黒いヘドロの山肌を裂き、怨霊山(マウント・デーモン)はブラックホールの唸る音のような、不気味な程に泰然とした音を響かせた。それはハエトリグサが虫の存在を感知して捕虫葉を閉じる反応のような、夜光虫が刺激を受けて光る反応のような、生命的ながらも空虚な反応だった。そもそもあれに命はあるのだろうか。

 ——そう思った次の瞬間。


「ッッ!?」


 怨霊山(マウント・デーモン)の山肌から爆風のような炎が吹き上がった。

 触れれば死は免れないであろうそれを、俺達は全力で飛び回って避けた。だが、すんでのところで逃れられず、ダレンのつま先を炎が焼いた。


「ッッ!!」

「ダレン!!」

「……大丈夫、無事!」


 鎧を纏っていることが幸いしたか。しかし、それでもダレンの方を見ると、彼はごっそり生気を奪われたように憔悴していた。


「もう少しで何か出そうなんだけど……」

「何が?」

「必殺技みたいな……」


 襲い来る炎を縦横無尽に斬り裂き、散らしながらダレンは言う。ダレンの顔は青ざめていて、繰り出す炎も先程までと比べて格段に威力が落ちていた。


「ダレン、もしかして寒いのか?」

「寒いよ。魂の芯まで冷え込んでる」


 生命といえば熱だ。身体に巡る血や、代謝を行う細胞は熱を纏っている。そんな生命の力を刈り取る炎を浴びたせいで、ダレンの熱の力もまた弱まってしまったのかもしれない。


「レイ! ダレンを照れたり興奮させられたりしないか!?」

「何言ってるの?」

「……ハニートラップ、とか?」

「何言ってるの!?」


 ダレンは取り乱したような声を上げたが、依然として顔は青白いままだ。炎の威力以前に純粋に心配だ。どうにかして彼を元気にさせなくては。


「ハニートラップっていうか、お姫様の可愛い応援があれば頑張れるかも!」

「……ってことは、お前は王子?」

「今ぐらい王子の気分になったっていいじゃん! 悪い!?」


 悪いというか、ロマンチストというか。ダレンは王子様になりたいのか。

 俺がなんともいえない気持ちでいると、レイは真剣な面持ちでダレンの方を向いて口を開いた。


「ダレン……あのね、私……」


 それは本当に、真剣な口ぶりだった。もしや告白でも始まるのか、と思ってしまうぐらいの口ぶりだった。ごくりと息を呑んで戸惑うダレンに、レイは薄ピンクの艶やかな唇を開いて、こう言った。


「サンズウェイで飲み会したときのこと、忘れないよ」


 ……飲み会?


「——うわああああああああっっっっ!!」

「何!?」


 ダレンは我武者羅に剣を振って暴れだした。


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