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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 帝国・決戦編
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ラボ


 一方で俺——クラブは想像を絶する痛みの中、新たな景色の中に迷い込んでいた。

 全身が熱い。全身が潰れている。脳が潰れているとしたらこの意識は何なんだろう。どこにある意識なんだ。

 俺は今にも途絶えてしまいそうな意識の中、かろうじてここがどこかを理解した。ひんやりとした空気に白い廊下、薬品の匂い……その全てを赤色灯の光が赤く染め上げている。警報音が鳴り響いている。


(あぁ、シキ・ローレンスのラボだ。俺が、俺達が襲ったときの)


 俺は廊下の奥を見た。そこには必死に駆けている集団が居た。俺は痛む身体に鞭を打ち、集団を追いかけた。

 ある程度集団に近づいた時点で、俺はハッとした。集団の中にレイが居る。彼女は髪を振り乱して、時々見えない衝撃を受けたかのように呻いて倒れそうになりながら、先頭を走る幼い姿のシキを見つめて追っている。


「レイ?」


 俺は恐る恐る声をかけたが、レイからは何の反応も返ってこなかった。ただ彼女の様子から、彼女が自分と同じように謎の痛みに苦しんでいて、ここが夢の中であることを自覚しているのだろうということがわかった。


「レイ、レイ! 俺が見えないの!? ここは夢の中だよ! よくわからないけど、なんだか危険な感じがする! 早く起きよう!!」


 俺は痛む肺に力を込め、めいいっぱい叫んだが、それでもレイには聞こえていないようだった。


「レイ、苦しいの?」


 聞き覚えのある声がした。フローラだ。レイの前を走っていたフローラは振り返り、心配そうにレイを見た。


「大丈夫よ、心配いらないわ。あなたと博士は私が守る。あなた達は私の妹だもの」

「妹じゃ、ない」


 レイはフローラの言葉が聞こえているようだった。どういう理屈だ。なぜ自分の声はレイに届かず、フローラの声は届くのか。

 フローラはレイに拒絶され、少し悲しそうな表情をした。しかしすぐに愛おしげに微笑み、こう言った。


「妹みたいに守りたい、ってことよ。だってあなた達、とってもぼんやりしてるんだもの。身体年齢にせよ実年齢にせよ、私より年上のようには思えないわ。二人して、変な男に引っかかっちゃいそうなんだもの」


 俺はぎくりとした。自分が変な男の代表である自覚があった。


「……変な男に引っかかる前に、襲撃者達に殺されそう」

「だから私が守るのよ。さあ、着いたわよ」


 俺を含む集団は廊下の突き当たりに行き当たった。そこに飾られた額縁をシキが取り外すと、右側の壁が沈んで、隠し部屋への入り口が現れた。その先には、真っ暗な空間が広がっていた。


「ここが……」


 レイが部屋に踏み入ると、レイの後ろをついてきていたアンドロイド達全員が後に続いた。俺もまた後に続いた。

 すると次の瞬間、天井の回転灯が突然に青く光りだし、俺の背後で鈍い音がした。振り返ると、撒き散らされた青い光に照らされながら、壁が再び上がり始めていた。

 シキが落としたのだろうか。天井の際に挟まれた額縁がべきりとひしゃげる。誰かの描いた笑顔がひしゃげる。


「は、博士……? ——ッ!?」


 次の瞬間、何かが一斉に崩れ落ちる音が聞こえた。俺が慌てて前を見ると、アンドロイド達が一人残らずマリオネットの糸が切れたように倒れていた。


「ごめんね」


 レイのぐったりとした上体がシキの手に持ち上げられ、ずるずると引きずられていく。シキはレイを蓋の開いたポットの上まで引き摺ると、ポットの中に落とした。


「レイッ——ああああああっっ!!」


 たまらず駆け出そうとした次の瞬間、一際強い痛みが俺を襲った。爆ぜるような痛みだ。俺は床に倒れ込んだ。

 俺はもう一度レイの名前を叫ぼうとした。しかし声が出なかった。必死に伸ばそうとする手も伸びなかった。


「どうか……」


 シキが優しく悲痛な声をポットに向けて溢した。ポットが重く震えるような音を立て始めた。


「博士……シキ、馬鹿なことはやめて……」


 倒れ伏した俺の視線の先に、フローラが倒れていた。振り向くこともできないのだろう。フローラはオーロラのような瞳を俺に向けて、透明な涙を流している。フローラの背後からシキが歩み寄ってくる。その表情は伺えない。

 シキがしゃがみ、フローラの体を持ち上げた。


「やめて! どうして私達を眠らせるの!? 私達はただ、あなたが『隠れるのを手伝って』って言ったから、着いてきたのに……!」

「騙してごめんね、フローラ。私は……あなた達に幸せになってほしいの」


 幼女の細い腕に引き摺られ、フローラは泣き喚く。ゆっくりとポットの方へ連れて行かれていく。


「嘘つき……シキの、嘘つき……死ぬときは絶対にみんな一緒って、言ったのに。裏切ったら許さないって、言ったのに……!」

「ごめんね。……本当にごめんなさい。だけど大丈夫。眠りから覚める頃には、私のことも忘れてるから」

「シキ——ッ!」


 断末魔のような声を最後に、ポットの蓋が閉じられた。ポットが重く震えるような音を立て始めた。音が重なり合って、大きくなった。


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