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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 帝国・決戦編
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甘蜜の林檎


 などという戯れのような会話と魔法の練習をしながら、束の間の日々を過ごした俺達は遂に決戦の日を迎えた。

 朝八時二十分頃、一週間前と同じように劇場の近くに行くと、そこには先日よりも沢山の人々がひしめいていた。開場は八時四十分。もちろん人混みを掻き分けて正面から入ろうとすれば泥塗れになるし、狂った人々に何をされるかわからない。

 俺達は気配を消す魔法を使って劇場の裏手に回り込んだ。ところで円柱状のこの劇場の内部は、円周部分が全て観客席、それより内側が舞台になっている。なぜそんなことがわかるのか。それは、俺が事前に浮遊魔法で劇場の上を飛んで確認したからだ。劇場はドーナツをくり抜いたように天井がなかった。そういう訳で俺達は、気配を消す魔法と浮遊魔法を使って一人ずつ劇場の上から侵入することにした。


「おっっっも……」


 俺はレイとバーニーを侵入させた後、ダレンに浮遊魔法をかけて苦痛の呻きを溢した。ダレンは真っ青なローブの下に騎士団の鎧を着込んでいた。あの悪魔的な厳ついやつだ。戦いに備えるなら鎧を着て当然なのだが、どうしてこんなにも鎧というものは重いのか。

 なんとかダレンを客席の床に下ろした俺は、最後に自分に浮遊魔法をかけた。ああ、むちゃ楽。かける対象が重くなければ浮遊魔法は楽勝だな。ライアンに歯軋りして我武者羅に練習した日々が嘘のよう。今となってはこんな魔法、逆立ちしながらでも使えるね。逆立ち出来ないけど。そんなことを思いながら、俺は三人に合流した。

 俺は四人分の気配を消す魔法を維持したまま、入場が始まるのを待った。やがて人々が雪崩れ込んできて、俺はゆっくりと気配を消す魔法を解除した。


「始まるね……」


 俺達は固唾を飲んで舞台を見下ろした。俺たちが居るのは四階、つまり最上階の客席だ。高所という地形的有利を確保したかった。俺達の予想では、フローラことフレデリックは開演と共に舞台に現れて……何か恐ろしいことをする。あやふやなままここまでやってきてしまった。しかし、何が起きてもいいように全力で備えるしかない。俺はバーニーに防護魔法をかけた。そしてじっと、舞台の中心に生えているリンゴの木を見つめた。


『頭にリンゴを落とす以上の、素晴らしい解決策を教えてくれるよ』


 あの少年の言葉はどういう意味だったのだろう。


「——さあ! 開演の時間がやって参りました!」


 突然に響いた声に俺はハッとした。いつの間にか舞台の端に赤く派手な衣装の男性が立っていた。あれは座長だろうか。高そうな衣装がどんどん雨に汚れていく。


「『ブロッサム一座が演じる喜劇 主演:フレデリック』……題名のないこの劇が一体どのようなものなのか、観客の皆様はご期待召されていたことでしょう。これは此度舞い戻った我らが大スター、フレデリックが脚本から演出までの全てを監督した作品なのです。そう、まさに! これから皆様が体験するものはフレデリック・ワールドなのです! 脚本を読んだ私はその素晴らしさに涙しました。彼はあの日リンゴに頭を打たれ、竜の啓示を受けたのかもしれません」

「……リンゴ?」


 またリンゴだ。どういうことなのだろう? 俺が疑問に思っていると、突然に前の席の男が振り向いて「知らねえのか?」と言ってきた。


「フレデリックは四年前の春、劇の途中で、あの舞台の中心に生えてる木から落ちてきたリンゴで頭を打ったんだよ。あれはな、記憶の竜の啓示を受けた男が流した涙が地面に落ちて生えた木なんだ」


 ……記憶の竜? 聞いたことがない竜だ。


「その事件が起きてからすぐに、フレデリックはこの国から居なくなっちまった。そして今、四年越しに戻ってきてこんな劇を監督したんだから、啓示を受けて旅をしていたことは間違いないだろうな! ああ、神聖なるフレデリック!!」

「……あ」


 俺は点と点が繋がる感じがした。四年前の、春。


「四年前の春……それ以来、アンドロイド達は人々を襲い始めたんだ」

「え……?」


 レイが溢した小さな声は、大きな歓声に掻き消された。耳を塞ぎたくなるような、異様に熱狂した声で誰もがフレデリックの名前を呼んでいる。

 舞台の入り口、その暗闇の中に赤い影が現れた。段々とその姿が鮮明になっていく。緑のふわふわのロングヘアーに赤いドレスの、美しい少女が現れた。


「フレデリックーー!!」


 人々と共にバーニーもまた叫んだ。もちろんその声はまだ届かない。だが、フローラはぐるりと客席を見回した後、じっと俺達を見た気がした。


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