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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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【日常編】「ちゅきちゅきレイたそ」に至る酔い①


 実はクラブの所属していたパーティーには、追放された人間が居た。

 自称・パーティークラッシャーのジェニー。ジェニーは全ての男を悩殺するスーパー美女を自称していたが、同じパーティーの仲間にもかかわらず自分に靡かないクラブを逆恨みしていた。

 クラブがジェニーに靡かなかった理由は、既にレイと同居していたからということもあったが……ビビットピンクの巻き髪を大胆なデザインのブリオーの胸元に垂らしたジェニーは、致命的にクラブの好みではなかった。

 しかしこれが冒険者ギルドのオラオラ系の男達にはモテるモテる。最も、娼婦のようなジェニーに対して男達からは相応の軽薄な評価が下されていたのだが、それを知る由もないジェニーは「あとこのパーティーで堕とせていないのはリーダーとクラブだけ」だと思っていた。

 しかし、パーティーのヒエラルキーの頂点たるリーダーが堕とせていないのはまだ良いとして、百人中百人が認める最底辺、最弱者であるクラブが未だ自分に堕ちていないのは何事か。ジェニーは激怒した。必ず、かのドレンチェリーのなり損ないを除かなければならぬと決意した。ジェニーは数ヶ月の試行錯誤を経て、彼を堕とすことはとうに諦めていた。ならば、自分に不都合な存在は除くのみ。


(酔い潰れたクラブさんを全裸で大通りに転がしておけば、きっとこの街には居られなくなる筈!!)


 ジェニーは絶望的に素行が悪かった。

 さて、そんなこんなでクラブ追放計画を立てたジェニーは、ギルドの依頼達成後に恒例となっている酒場での打ち上げに狙いをつけた。


「や〜んっ、このお酒き・つ・い〜っ! 度数強くないですかぁ? ちょっと飲んでみてくださぁい」

「え、そう? どれどれ……」


 ガヤガヤと荒くれ達が騒ぎあう酒場の中、そう言ってジェニーがグラスを手渡したのはクラブではない。ジェニーの右斜め前に座るパーティメンバーの一人、イキリたがりのダニエルだ。ダニエルはグラスを受け取ると、ちびりと一口啜った。


「んん〜? あっめぇ! こりゃジュースじゃねえか。こんなのがきついだなんて、ジェニーはカワイイなぁ!」

「えぇ〜、そうですかぁ〜? ちょっとクラブさんも飲んでみてくださいよぉ〜」

「え、お、俺ですか……?」


 流れ弾を食らった——ように見せかけて本命の弾を食らわされたクラブがたじろぐ。クラブは恐る恐るグラスを手に取ると、なみなみと注がれた黄金色の液体をちびりと啜った。


「……えっと。強くはない、かと」

(きたわぁーーっ!! 一杯()()()()()わね! それはいわゆるレディーキラーよ!!)


 クラブが飲まされたのは、上流階級の遊び人達の間で親しまれている蜂蜜酒だった。それは蜂蜜酒の中でも特に濃厚な蜂蜜の甘さとハーブの風味からアルコールの強さを感じさせず、下心を持つ男性が女性に飲ませやすく酔わせやすいことからレディーキラーの異名がついた。

 蜂蜜酒はあまり庶民の間で流通することはないのだが、ジェニーは夜のコネクションにより放蕩貴族の三男坊から蜂蜜酒のボトルをせしめていた。そしてジェニーはそれをこっそり酒場の主人に渡し、さも既定のメニューを注文したかのように見せかけて、クラブにレディーキラーのグラスを掴ませることに成功したのだ。


「じゃ、クラブさんがそれ飲んでくださいねぇ」

「えっ、それは——」

「あたしもう飲めませぇ〜ん……ボトルで頼んじゃったから、クラブさんに飲んでほしいんです。ね、お願い?」

「……」


 クラブはこの世の終わりのような顔をして、渋々ボトルを受け取った。そしてそのボトルを見つめ、顔を上げ、ごく小さく弱々しい声で「あの……」と口にしたが、その声はジェニー以外の誰にも届かなかった。


(あぁ〜、なんてカワイソウなクラブさん! それもこれもあたしのモノにならないから悪いのよ。さぁ、あたし達の前で見せて……情けなくて死にたくなっちゃうような失態を……!!)


 ジェニーは童心に返った気分だった。誕生日に両親からのプレゼントを待ち侘びていたあの感覚。あるいは、ジェニーをレディーキラーで堕とそうとした男がしっぺ返しを食らってフラフラのメロメロになるのを待つあの感覚。そう、ジェニーはいつだって夢見る少女だった。中流階級の両親が買ったフリルだらけのブリオーを着て、世界で一番自分が可愛いと思ってローレアの大通りを堂々と歩いていた頃と何も変わっていなかった。


(片時も目が離せないわ……いつ飲むの? 次の一口を、いつ飲むの……!?)


 ジェニーは他の男達と楽しく盛り上がるフリをしながら、定時を焦がれる労働者のように何度もクラブの方を見た。しかし、一向にクラブは蜂蜜酒のグラスを手に取らなかった。少し疲労の滲んだ微笑みで、はしゃぐ男達に薄い相槌や賞賛を返しながら、水の入ったグラスにばかり口をつけている。


(まさか、残すつもりなの!? あんなに高級な蜂蜜酒を!?)


 しかし、そこでジェニーはハッとした。下流階級のクラブが蜂蜜酒が高級なものだと知る筈もない。珍しいが、下流階級の酒場でも頼める程度の酒だと思っているのだろう。

 ジェニーは悔しさに歯軋りをした。まるで手作りのパイをゴミ箱に捨てられた気分だ。


(こうなったら、強硬手段に出るしかないわね……)


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