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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
113/139

蛇を睨む蛇


 五回戦目。ダレンが先手だ。


「ベット。300点」

「レイズ。600点」

「900点」

「……コール」


 第一ラウンド終了。互いに手札は交換しない。


「ベット。100点」

「コール」


 ダレンはブタの手札を広げた。


「やけくそになったか?」

「あなたに学んだだけですよ」


 第五回戦終了。ダレン所持チップ850点。ブレッド所持チップ9150点。


 かなり追い詰められて大差が開いている。ここからどうするのだろう?


「……元々勝てる点差だったのに、レイズしてきたね」


 レイの言葉に俺はハッとした。確かにそうだ。金銭を賭けるポーカーならまだしも、勝敗を決めるだけのポーカーで点差を広げる必要はない。間違いなくブレッドは安全度外視で、ふっかけられた勝負には乗っていくタイプのようだ。そのような軽視は隙を作る。


 六回戦目。ダレンは今や50点のアンティも苦しそうだが、しかし。


「ベット、900点。乗るならオールインしかねえぞ」

「いいえ、()()()


 ダレンはチップ800点と金貨十枚を場に出した。ブレッドの頬が染まり、口が狂喜に歪んだ。


「いいねえ! コールだ!」


 コールがされれば次は手札の交換だ。ダレンは三枚交換した。


「全然揃ってねえじゃねえかよ〜」


 けらけらと笑いながらブレッドは500点のチップを場に出した。しかしその瞬間、ダレンが目を見開いた。


「——コール」


 ダレンは五枚の金貨を場に出し、手札を広げた。


「スリーカードです」

「……運がよろしいことで」


 ブレッドは10と5のツーペアを広げた。


 第六回戦終了。ダレン所持チップ4100点と金貨九十五枚。ブレッド所持チップ5900点。


 そのようにして、ダレンは奇跡的に持ち直した。4100点と5900点、巻き返せない点差ではない。その後も二人はしのぎを削り合った。


 第七回戦終了。ダレン所持チップ3450点と金貨九十五枚。ブレッド所持チップ6550点。(アンティ50点+ベット200点+レイズへのコール400点→フォールドでダレンが650点の損失)


 第八回戦終了。ダレン所持チップ4700点と金貨九十五枚。ブレッド所持チップ5300点。

 (アンティ50点+ベット100点+レイズへのレイズ600点→第二ラウンドのベット500点→負けでブレッドが1250点の損失)


「仕上がってきたな、坊ちゃん」

「あなたを()()()()()()()負かすことが私の目標ですから」

「おやおや、荒っぽい面がお目見えだ」


 そしていよいよ最終決戦、九回戦目。


「……しかし、ここでフォールドすれば余裕で俺が勝つ訳だが」

「あなたは本当にそれでよろしいのですか?」


 からかうようにのたまうブレッドに、ダレンはにこりと微笑みかけた。


「点を稼がず、ただ勝つことだけを目標とするなら、一度点を稼いだきりずっと逃げ続けていればいいだけです。ですが、あなたは本当にそれでよろしいのですか? スリルや刺激のない、痛みのない勝利をあなたは望むのでしょうか。無謀な賭けなんてちっともしない、どこにでも居るような人間になりたいんですか?——ブレッドおじさん」

「……いいや、いいや、まさか!」


 ブレッドは紅潮した頬に深いえくぼを刻み、役者のように両手を上げ、ギラギラと煌めくシャンデリアを仰いだ。そして喉仏を震わせて、高く声を上擦らせて叫んだ。


「俺は特別な大人でありたい。目の覚めるような刺激と快楽に浸って、エレガントでいたい。美味い飯と上質な暮らしを楽しみたい! ああ、ガキを負かすのも金貨五十枚も捨てがたいなあ。心踊るぜ。心踊るから……勝負は降りない!」


 二人は同時にカードを捲った。ブレッドはうっとりと目を三日月型に歪め、ダレンを見据えた。


「最後の戦いだ。さあ、どうする?」

「……ベット。100点」

「オーマイ、ケチ臭え! もちろんレイズだ、500点!」

「コール」


 交換の時間だ。しかし互いに交換はせず、じっと見つめ合った。ブレッドの嗜虐的なコブラのような目を、ダレンもまた冷静なアオダイショウのような目で見つめ返した。


「チェック」

「ベットだ、500点。言っておくが——奇跡なんてものは存在しないぜ」


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