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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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窮鼠


 二回戦目。ダレンは五枚の手札を捲った。指の隙間からブタが覗く。


「ベット。300点」

「……フォールド」

「はあ、つまんねえな」


 ブレッドはスリーカードを広げた。あれに乗っていたらまずかっただろう。

 ダレンは冷静な判断ができている。しかし初手の失敗が響き、やや押され気味な印象だ。機を見て攻勢に転じることができればいいのだが。


 第二回戦終了。ダレン所持チップ4400点。ブレッド所持チップ5600点。


 三回戦目。俺はまたしてもダレンの手札を覗いた。8のワンペアだ……なんともいえない。しかし勝てる可能性はある。少ないチップで攻めて、レイズされたら撤退すれば良いだろう。


「ベット。100点」

「コール」


 ダレンは三枚交換した。ブレッドは一枚残しで四枚交換。ジョーカーか? 表情が変わらない……


「ベット。100点」

「コール」


 二人は手札を翻した。ブレッドの手札にはジョーカーがあった。ジョーカー以外のカードの最大値は6。6のワンペアだ。

 ダレンの勝利だ。チップの儲けは250点。しょぼいが、8のワンペアには相応だろう。


 第三回戦終了。ダレン所持チップ4650点。ブレッド所持チップ5350点。


「ジョーカーは好きじゃねえんだよ……」


 ブレッドはつまらなさそうに頬杖を付いた。だから強気に攻めなかったというのか。

 この男、基本は攻めるプレイスタイルなのだろう。まだ三戦しか交えていないがそれでもわかる。彼は弱い役でも強い役でも攻められそうなら存分に攻める。その根拠は——


『——よお、薔薇色の人生(ラヴィアンローズ)は送れているか?』


 わざわざ俺達を追い立てに来た点だ。俺達がヴェネッサのサロンを訪ね、ブレッドについて嗅ぎ回るであろうことを見越して、わざと彼は調子を狂わせるようなタイミングで俺達を訪ねに来た。ともすれば信用を失ってしまう行動だ。彼にとって俺達は、取引相手である以前にネズミのおもちゃなのだ。彼は猫のようにいたぶって弄ぶ「遊び」を好む。猫は決して、おもちゃ相手に引いたりしない。


「——フルハウス! 私の勝ちです」

「残念、フォーカードだ。さあ、五回戦目といこうぜ」


 俺は驚いて我に返った。考え込んでいるうちに、いつの間にか二人が四回戦目を終えていた。ダレンがまたしても負けていた。


「ちょ、ちょっとダレン! 作戦会議!」


 俺は左手でレイの手を引いてダレンに駆け寄り、右手で彼の手を掴んで遠くへ連れて行った。人混みに紛れる途中で振り返ると、ブレッドがチェシャ猫のような笑みでこちらを見つめていた。


「まさかフルハウスで負けるとは思わないでしょ。絶対イカサマしてる……!」

「落ち着け! ジョーカーが嫌いな奴がイカサマをする訳ないだろ!」

「でもそれすらもブラフだったら!」


 ダレンは声を荒げた。……瞳孔が開いている。彼は肩で数度呼吸をした。そして顔を逸らし、「ごめん」と言った。


「あらゆる可能性を考えるのは結構だが、それで脳がパンクしたら本末転倒だぞ。目の前にある可能性だけを考えるんだ」

「……そうだね。そうするよ……」

「それと」


 俺はダレンの顔をびしっと指差した。


「俺達がイカサマをすることはできるぞ」


 彼は戸惑ったような表情をした。「何を言ってるんだろう」とでも言いたげだ。しかし、イカサマだって立派な盤外戦術だ。俺は指を降ろし、ダレンの懐を指差した。


「さっきお前が見せたスペードのA、まだ持ってるか? あれを袖に仕込んでおくんだ。Aは一番強い数字だ。何かの役に立つかもしれない!」

「で、でも、そんなのバレるよ……俺の手首まで見てるような相手に、小手先の技が通用する訳が……」


 ダレンは最後まで言い切らずに俯いた。躊躇っているのだろう。さっきの大敗でとんでもない点差が開いたのは事実だ。藁にも縋りたい気分だろう。しかし、イカサマがバレれば反則負けは免れない。そうなれば入国援助の話はおじゃんだ。


「ねえ、それってズルをするってこと?」


 レイがひょっこりと俺とダレンの間に顔を出し、俺の指とダレンの胸元を交互に見た。ダレンが一歩後ずさった。すると、レイは俺達の間に割り込んでダレンと正面から向かい合った。


「ダレン。ダレンはなんで、ブレッドに勝負を持ちかけたの?」

「それは、ブレッドに俺達の要求を飲ませる為だよ。俺達の入国をきっちりやり遂げないと報復があるという、相応のリスクを受け入れさせる為だ」

「でも、ブレッドはお金には困ってないって言った。そんな条件を出されたらメリットがなくなるとさえ言った。じゃあどうしてあなたが勝負を持ちかけた途端、意見を変えて勝負に乗ったと思う?」

「……」


 ダレンは黙りこくった。しかしその沈黙は、答えがわからないからではなさそうだった。レイの質問の答えをダレンは始めからわかっていた。ダレンはその答えとなるブレッドの心理をわかった上で、ブレッドに勝負を「飲ませた」のだ。だから恐らくダレンのこの沈黙は、自分が劣勢と誘惑に惑わされて、勝負の本質を見失いかけたことへの恥ずかしさによるものだった。

 ……そして、その誘惑をしたのは誰か? 俺だ。もちろん俺はダレンに悪い選択をさせたかった訳じゃない。むしろその逆だ。つまり俺は、致命的に状況を見誤った提案をしてしまったということだ。それをレイがなんとか軌道修正してくれた。


「……ありがとう、レイ。クラブも。俺は今、大切なことを再確認することができた」

「よせやい。俺は素で致命的に間違えただけだぞ。マジで」

「そうだね。ブレッドに対して絶対にイカサマなんてしちゃいけなかった。ブレッドはリスクを負うかもしれないリスクを代償に、ダレンとの素敵な真剣勝負を手に入れたんだから」

「相応のパフォーマンスはしないとね」


 ダレンは長く息を吸い、吐き出した。そして俯き、顔を上げると、すっかり温度のない表情(ポーカーフェイス)を浮かべた。


「彼はきっと、嬉々として勝負に乗ってくるタイプだ」

「うん、間違いない」

「俺は彼と対等になりたい。威風堂々たる態度を見せつけるんだ。こけおどしじゃない。力に裏打ちした態度だ」


 ダレンは懐からソードのAを取り出し、俺に押し付けた。そして再びテーブルへと戻っていった。


 ——第四回戦終了。ダレン所持チップ2200点。ブレッド所持チップ7800点。


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