表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
109/139

絢爛の地下賭博場


 そして、一時間後。


「ハラホロヒレハレ……もうむりぃ〜〜」


 古典的な酔い方をした男を前に、レイがジョッキを高々と掲げた。酒場中に野次と拍手が鳴り響く。


「大丈夫? レイ?」

「うん、大丈夫。私はいわゆる『ざる』みたい」


 恐るべし、アンドロイド。レイは俺に微笑みかけると、再び男の方を向いた。


「飲み比べに勝ったんだから、私の言うこと聞いてくれるよね?」

「は、はいぃ、女王様……」

「残念だけど私の王様は生涯一人だけと決めているの」


 そういう意味じゃないと思うが。その言葉を聞くや否や、完璧な笑顔を湛えたダレンが二人の間に割り込んで男の肩を強く握った。


「そして、道化師も生涯一人だけですよ。ん? 本題に入る前に、場所を移しましょうか。わざわざ貴族のあなたを訪ねてきたんです。ここじゃああなたも困るでしょう?」


 異様なまでのダレンの圧に男は震え上がって何度も頷いた。

 そして俺達は男を路地裏へと連行し、質問攻めにした。まず、ヴェネッサの邸宅に男が行ったことがあるかどうか。なんと頻繁に通っているようだった。


「では、ヴェネッサとはどのような人物ですか?」

「き、綺麗な人だ……本当に目を見張るぐらい、この人と会う為に自分はこの世に生まれてきたんだって思うくらい。うっとりと垂れた目が魔性めいていて、肌がおしろいをはたいたみたいに白くてきめ細やかで、セクシーなのに上品なんだよ……」


 粗野な雰囲気のこの男だが、意外とロマンチックらしい。それかヴェネッサという女性が、乱暴な男をロマンチックたらしめるぐらいの美女なのか。いずれにせよ彼の説明は、ヴェネッサの美しさが目に浮かぶようだった。


「ヴェネッサの邸宅に、ブレッドという男が通っていますね? 彼はどんな男ですか? 彼とヴェネッサはどんな関係ですか?」

「ブレッド? ああ……あいつは、一番ヴェネッサに気に入られてる男だよ。気に食わない。いつも仮面をつけていて、頻繁にサロンに来てはヴェネッサと寝てるが、ぱたりと来なくなるときもある。何をしてるんだか」

「ブレッドの仕事について何か聞いたことはありますか? サロン内の交友関係は?」

「いけすかねえ男だが、一回話したことがあるな。丁度仕事の話をした。人に言えない仕事だと言っていたが、サロンに来れるぐらいだ。そこそこの金があるんだろう。交友関係については……ああ、ウッド商会の男と親しげに話してたな」

「……ウッド商会」


 もしやそれが、ブレッドが「便宜」を図る相手なのだろうか。


「ちなみに、ヴェネッサのサロンに()()()()ツテで入ることはできますか?」

「馬鹿言え、飲み比べで負けたぐらいでそこまでしてやるかよ。俺は貴族だぞ。お情けはここまでだ」


 男は気圧されがちにダレンを睨むと、ダレンを突き飛ばして去っていった。ダレンはその後ろ姿を真剣な眼差しで見送り、首を横に振った。

 そして懐から紙を取り出し、そこに書かれた住所をじっと眺めた。やはりブレッドのツテでいくしかないようだ。


「行こう」


 俺達はヴェネッサの邸宅を目指して歩き出した。その道中、ダレンは広い公園に立ち寄った。そして木の陰に立ち、ザックから角笛を取り出して吹くと、なんとシマコが飛んできた。ダレンはシマコとあることを話した。シマコが飛び去っていくのを見送ると、俺達は再び邸宅を目指して歩き始めた。

 ほどなくして、白塗りの優美な邸宅が見えてきた。あれがヴェネッサの邸宅だろう。門番と思しき男に声をかけ、ブレッドの寄越したメモを見せると、彼は「しばらくここで待っていろ」と言ってどこかに去った。

 二十分ぐらいして彼が戻ってくると、今度は俺達を先導して歩き出した。そして邸宅の中に入り、小部屋に俺達を押し込めると、煌びやかな服を渡してきた。どうやら俺達の服装があまりにも邸宅に相応しくないので、着替えろということらしい。俺達は慣れない材質の衣装にすっかり着替えた。

 俺達は再び男に案内されて邸宅の中を進んだ。地下へと続く螺旋階段を降り、暗がりの中へ。壁掛け燭台の火がぽつぽつと揺らめいて、あの後ろ暗いバーを彷彿とさせた。

 やがて俺達は重厚な扉の前に立った。男が扉を開くと、俺達は汗と香水の匂いが篭る陰気な世界を目の当たりにした。

 板材を敷き詰めた床がシャンデリアの黄金色の光を怪しく反射する、怪しげな地下賭博場だ。手を取り合って踊る者あれば、薄ら笑いをする相手と膝を突き合わせてトランプに興じる者あり。その中に一際目立つマスカレードマスクを着けた女性が居た。シャンデリアの明かりが強く落ちる場所で、白い腕を艶やかに揺らして踊っている。恐らく彼女がヴェネッサだろう。


(……ん?)


 不思議なことに、俺は彼女にどこか懐かしい感覚を覚えた。一体なんだというのだろう? 彼女とは初対面の筈。ひとまず気にしないことにした。

 俺達は壁にもたれかかり、辺りを観察した。広い部屋の左奥の方に、不安げにゴブレットを傾けている男が居る。周囲の人々と比べるとやや見劣りする服装で、胸元には木彫りのブローチがついていた。


「……あっ」


 レイがふと声を上げた。こういうときに鋭い洞察力を発揮しがちなのがレイだ。俺達は真摯に耳を傾けた。


「街を歩いているときに、あのブローチと同じレリーフを門にあしらった建物を見たよ。門に書かれていた名前は確か……ウッド商会」

「間違いないね」


 ダレンは一瞬だけ目つきを鋭くして、すぐに驚く程平静な表情を取り戻した。そして本当になんてことないかのように、ただ室内を移動するだけのように歩き出した。一歩、二歩。絢爛な人々の間を抜ける。薔薇やローズマリーの香りがまとわりつく。

 ばちり、と男と目が合った。まずい、と思ったその瞬間。男は目を逸らし、足早に人混みをすり抜けて俺達が通ってきた扉へと向かった。俺達は慌てて踵を返し、追いかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ