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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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イゼ


 さて、その後俺達は無難な服屋に入ると、今度こそ変装用の服を揃えた。ちゃんと現代らしいチュニックやズボンを買い、着用して店を出た。ああ、俺の快適ファッションよさらば。

 次は俺達をブランブル帝国に入れてくれる商会組織を発見し、取り入らなければならない。もちろん合法である筈がないので、この街のどこかに巧妙に隠れているのだろう。俺達のような普通の外国人が探し出すのは難しそうだ。

 それでも絶対に見つけなくてはならない。しかし一体どうすれば良いのか。俺達はうんうんと悩みながら道を歩いていた。すると。


(……ん?)


 ふとローブを着た人物とすれ違った。俺のポケットに触れられた気がして、慌てて中に手を入れると何やら乾いた異物の感触がした。取り出してみると、それは紙だった。


『一丁目、『イゼ』の地下で』


 男性らしい筆使いで、そんな文章が書かれていた。俺はレイとダレンを促して道の端まで行って、二人に紙を見せた。二人は顔を見合わせて、戸惑っているようだった。

 行くべきか、行かないべきか。行くリスクもあるが、行かないリスクの方が大きい気がした。俺達は頷き合って再び道の中央に戻った。そして通りすがりの女性に一丁目がどこかを聞こうとした。しかし突然叫ばれてしまい、慌てて逃走した。その後、俺達は手当たり次第に人に話しかけ、なんとか瘴気に侵されていない人を見つけて一丁目の位置を聞いた。


「……」


 しかしそうすることですっかり悪目立ちしてしまったようで、俺達は周囲の人々から肌がざわつくような視線を向けられるようになった。感情が籠っていないのに、うっすらと身の危険を感じさせるような、ぼんやりとした虚ろな視線。

 俺達は足早にその一帯から逃げ出した。しかし逃げても逃げても視線が絡みついてきて、俺達は視線から逃げきれないまま一丁目へと辿り着いた。道行く誰もがこちらを見ている。


「早く『イゼ』を見つけてしまおう……」


 文章の感じからして、「イゼ」は建物の名前なのだろうか。俺は辺りの建物の看板や、小さな立て看板の文字から必死に「イゼ」の二文字を探した。しかし中々見つからなかった。


「どこからどこまでが一丁目なんだろう。さっき居た場所が三丁目だから、ここまでの距離を均等に三で割ると……」

「結構な距離がありそうだね。探し回ってもいいけど、もう太陽が……」


 ダレンは空を見上げた。空は暗く、日が暮れかけている。

 ……俺達の目的は商会のツテ探しだ。目的不明のローブの男に翻弄され、時間を浪費することは本当に正しいのだろうか。

 熱竜は啓鐘者(アウェイカー)の追跡について、「アルーヴ村から出ている船に乗り、サンズウェイを経由して帝国に向かえば十分間に合う」と言った。「十分」。それがどれぐらいの余裕を指すのか、俺達はしっかり聞かなかった。にもかかわらず、孤島での遭難で若干のロスが生まれてしまった。ロスが生まれた以上、俺達が啓鐘者(アウェイカー)に追いつくにあたって、最早一刻の猶予もない可能性があった。

 俺はダレンの顔を見上げて、無言で指示を仰いだ。ダレンはやや追い詰められたような表情をして、俯いて思案した。暫しの静寂。その顔が再び俺を向いたとき、そこに浮かんでいたのは凛々しく芯のある表情だった。


「時間がないからこそ、今日中に『イゼ』を見つけよう」


 俺とレイは頷いた。そして一列に隊列を組み、急ぎがちに歩き出した。

 この辺りの建物はカラフルな漆喰の壁を持つハーフティンバー様式ではなく、灰色の板材を張って作った無骨な木造建築ばかりだ。観光地然とした街の仮面を取った姿は、かなり無表情に見えた。

 静かな空にカラスの鳴き声が響く。俺達はそれとなく周囲を警戒しながら、「イゼ」を探した。そして……


「もしかして、これのことか?」


 俺達は一棟の建物の前で足を止めた。三角屋根の二階建てで、ともすると周囲の街並みに馴染んで見逃してしまいそうな建物だ。その手前に置かれた小さな立て看板には、「1F インザダーク 0F ゼン・リョウテイ」と書かれていた。頭文字を順番に読んで「イゼ」。

 まさか、とは思った。こじつけかもしれない。しかしこれまで足が棒になる程歩いてきた中で、単純に「イゼ」を建物や店の名前として冠している場所はなかった。


「『ゼン』ってなんだろうな……」


 などと言いながら俺達は周囲の様子を伺い、誰も居ないことを確認して建物の裏手に回り込んだ。するとそこには、地下へと続く階段があった。

 ……どうする? これで間違っていたら俺達は不法侵入者だ。階段を降りた先に無関係な人が居たら、なんと説明すれば良いのだろう。

 しかし、躊躇っていても仕方がない。俺達はダレンを先頭に階段を降りた。すっかり夜になってしまい、月明かりも差さない中で足元が見えにくい。慎重に進んでいくと、間もなく扉の前に行き着いた。ダレンは深呼吸をして、コン、コン、と二回ノックした。


「森羅我が剣に」


 声が返ってきた。


「……肩を打たるる」

「汝、欲に従いなさい」

「木苺で口を染める鳥のように」

「厄災とは?」


 予想だにしない問いに、ダレンは少し詰まった。だが、それは相手の腹の内が透けて見える質問でもあって。


「……啓鐘者(アウェイカー)


 ダレンは扉の向こうを見据えて答えた。

 ゆっくりと、扉が開かれた。


「ようこそ、団長殿と愉快な仲間達」


 怪しげに口角を上げる男。黒いフードの下にマスカレードマスクを着けた、ローブの男が俺達を出迎えた。


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