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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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トゥルース・スマイル


 俺はリードを離された犬のように駆け出し、試着室の前まで辿り着いた。その瞬間。


「ぬわーーーーっっ!!」


 目が潰れた。

 試着室の中に、見事に千年前らしい、SNSに鏡越しの自撮りを上げていそうなイケメンが爆誕していた。強風のようなイケオーラを浴び、俺の脳みそが活性化し、天啓を受けたように古の記憶を思い出した。千年前、美味しいご飯と犬猫の写真で大体埋まっていた俺のSNSのタイムラインにも、年に一回ぐらいこういう奴が現れていた。ビジュアルの完成度が高すぎると性別を超えて「おお……」となるのがちょっと悔しかった。こんなこと思い出したくなかった。


「どうかな? 似合ってる〜?」

「クチベニヲヌッタラモットヨクナル……」

「なんて?」


 明らかに似合っていることがわかっている調子で、にやにやとこちらに聞いてくる様が憎らしい。こいつなら当時賛否の分かれたメンズメイクも似合うだろう。俺は当時真似をしようとして事故った。

 俺が悔しげな呻き声を上げていると、ぱたぱたとマイケルとレイが駆け寄ってきて、それぞれ感嘆の声を上げた。


「んんんベリ〜グゥ〜〜ッッド!! 黒の鍔付き帽子と伊達メガネがとってもミレニアムデェ〜ス! ネックレスとトップスの相性も抜群デェ〜スよ!」

「凄い、とても似合ってるよ。多分ミレニアムなんだと思う」


 素晴らしい着こなしのダレンを前に、マイケルも大喜びだ。レイもなんかよくわからない褒め方をしている。


(くそっ、俺も何かカッコいい服を着ないと!)


 俺はなけなしの対抗心を燃やし、きょろきょろと辺りを見回した。すると、ある一着の服に目が留まった。

 肩にファーのついた、秋物らしきジャケット。なぜだか目が吸い寄せられて離せない。なぜだろう……ぼんやりと思案して、俺はふと思い当たった。


(——これ、俺がレイに贈った服とお揃いだ)


 黒色の革らしき布地に、クリーム色のファー。そのジャケットはかつて俺が本物のローレアのミレニアム・ファッション専門店、劣化コピーのコピー元である中流階級向けの店で購入し、レイに贈ったジャケットに似ていた。そのジャケットの布地は紺色だったので、完全一致でこそないが、それでもかなりデザインが似ていた。


「ン〜? それが気になりマァ〜スか? これからの季節にオススメのアイテムデス! 秋物のジャケットデスよ〜!」

「え? それ着るの? ちょっと……やめておいた方がいいんじゃないかな」


 ダレンが訝しげな顔をした。確かにこのジャケットは俺の雰囲気とはあまり合わないが、レイとお揃いの服だ。俺は意を決してジャケットを手に取り、腕を通した。


「ふっ、ははっ……か、顔に似合わな……ひぃっ……!」

「笑うな! 俺だってもうちょっと目が開いていればこんな服も似合うんだよ! もっとこう……糸目じゃなければ!」


 世の中ではミステリアスでスタイリッシュな糸目も居るが、残念ながら俺の糸目はなごみ系だ。また、たぬき的なまろ眉のせいもあっただろう。俺が羽織ったジャケットは絶望的に顔面と不釣り合いだったようだ。俺は渋々鏡を見て、予想以上のシュールな姿にたじろいだ。

 俺は落ち込みながらジャケットを脱ぎ、一応マイケルに値段を聞いた。その瞬間、再びデリカシーのない男から笑い声が上がったが、マイケルは慈悲深い微笑みで値段を答えた。それは予想をはるかに下回る値段だった。


「ええっ? これって革ですよね。安いですね。どうしてですか?」

「これは偽物の革なんデェ〜スよ! 千年前の服がこういう材質だったと()()の……」

「え?」

「ア! イヤ! なんでもないデェ〜ス! さァさ、是非他のものもお召しになってくだサァ〜イ!」


 千年前の服がこういう材質だったと……なんだって? 後半がよく聞き取れなかった。

 まぁ、細かいことは気にしないでおこう。きっとこの店の見事なまでに千年前を再現した服達は、気の遠くなるような時代考証と偶然を掛け合わせて生まれた奇跡の産物なのだ。学問バンザイ。見かけによらず考古学に造詣が深いであろうマイケルにカンパイ。

 そうして俺達は各々選んだ服をダレンの金で買い、店を出た。ダレンは黒のカットソーと白のズボン、黒のキャスケットとシルバーのネックレス、鼈甲柄の眼鏡を買った。レイは赤のカーゴパンツとスポーティーなスニーカーを買い、俺は例のジャケットを買った。

 いや、弁解させてくれ。俺としてもあのジャケットは似合ってないと思った。しかし……


『私は……凄く素敵だと思う。なんだか凄くグッと来る』


 愛しのレイにそう言われてしまえば、買わない選択肢などなかった。ダレンがいかにも「無駄金だ……」という顔をしていたが、ちゃんと着ればいいんだろ着れば。最も、旅のうちは着ないが。

 そう、俺達は何着かの服を買ったはいいものの、この旅のうちに全部を身につけるつもりはなかった。だって目立つし。ブランブル帝国への潜入が終わった後も、啓鐘者(アウェイカー)を追うという行為がどこの誰に目をつけられるかわからない。なるべく目立つ服装はすべきでない、というのが三人の総意だった。


「さあ、次はちゃんとした変装の服の入手だね。夕方が近づいてきてるけど、今日中に終わらせちゃおう!」


 そう言って振り返るダレンは黒のキャスケットを被って、鼈甲柄の眼鏡をかけていた。せめてこの二つだけでも、ということらしい。俺は数年前とは見違える程に明るい笑顔を浮かべる彼を見て、なんとなく、悪くはないかなと思うなどした。


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