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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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『ミレニアム・カルチャー』


 そして、それから数十分後。


「はにゃあああああああ」

「はいはいはいはい」

「ふわああああああああ」

「はいはいはいはい」

「へあああああああああ」

「はいはいはいはい、はい。終わり! じゃあ、髪整えるから」

「へあ……」


 俺の顔のクリームを理容師が蒸しタオルで拭き取り、俺の極楽タイムは終了した。理容師のフェイシャルマッサージテクはもう信じられないぐらいに素晴らしくて、俺はとろとろの骨抜きにされて感動のため息をついた。そんな俺を、毛染め魔法をかけられている途中のダレンが呆れたような目で見ている。


「はぁ、うるさかった……」

「だってすっっっごい気持ち良かったんだぞ。よくお前、声を上げずに済んでたな」

「君以上に堪え性はあるつもりだよ」


 誰が堪え性なしの甲斐性なしだ。俺はプラスの感情をしっかり表に出すタイプなんだよ。その方がきっと人生は楽しい。


(というかダレン、もうレイの前で取り繕うのはやめたのか?)


 元から繕えているようで繕えていない感じだったが、ますます刺々しく毒々しい本性を隠さないようになってきた。なんだかんだで演技が出来ない性格なのか、レイと仲良くなるような何かがあったのか。その両方な気がする。


「はい、次はお嬢ちゃんね」

「え!? お、俺のヘアカットは!?」

「もう終わったよ!」


 早すぎるだろ。俺が慌てて鏡を見ると、確かに毛量が減って髪がしっとりストレートになっていた。あれ? まさか俺、さっき瞬きした瞬間に……寝てた?


「お嬢ちゃん、マッサージの前に聞いとくね。髪型はどうする?」

「えっと……髪の量を減らして、丈はそのままでお願いします」

「えっ?」


 俺はちょっと驚いてレイを見た。今まで長旅だったこともあって、レイの髪は少し伸びている。具体的に言うと、顎までの長さだった髪が、顎と鎖骨の中間ぐらいまでの長さになっている。この二年間ずっと同じ長さをキープしていたというのに、どういう心変わりだろう。

 しかしレイは真っ直ぐ鏡を見据えて、芯のある声でこう言った。


「髪を伸ばします。なので、丈はそのままでお願いします」



 床屋を出ると、ダレンは小走りで俺とレイの前に躍り出た。凄腕理容師の数十年だかの歴史が詰まった大傑作、イケイケな金色ウルフカットを輝かせて彼は自慢げな表情をした。


「どうかな? 新生・俺だよ」

「チャラ男だ……すっげぇチャラ男だ」


 ダレンはふふんと笑い、その場で一回転した。なんだかご機嫌そうだ。髪を切って落ち込んでいたのが嘘みたいだ。一体どうしたというのだろう?


「君の意見は聞いてないよ。レイはどう思う? 新しい俺、金髪の俺。ときめいたかな?」

「チャラいね」


 ダレンはがくりと項垂れた。なるほど、レイの好感度上昇を期待していたのか。あいにくレイは見た目より中身派だ。……多分。そうだったらいいな。


「まあ、気を取り直して行くよ。次は眼鏡と服だ。眼鏡は伊達でいいから、運が良ければ服屋で手に入るかも。先に服屋に行こう」


 ダレンの言葉に従い、俺達はぞろぞろと歩き出した。石屋があった辺りよりも更に内陸の方へ進むと、賑やかな繁華街に出た。服屋や飯屋などのキャピキャピした店が大きく店を構え、昔ながらの店はなんだか肩身が狭そうにしている。千年前から変わらない、一次・二次産業の気配がない典型的な都心の街並みだ。

 俺達の目当てはもちろん服屋。この時代にショーウィンドウのような気の利いたものはないので、並び立つ店の多種多様な看板を見て、窓からちらりと中を覗いて吟味していく。そのうちに、俺達は違和感に気がついた。


「なんかこの辺……おかしくないか?」


 そう、それは人々の雰囲気がだ。虚ろな目で何度も同じ所を行ったり来たりしている女性、カフェテラスで大声で口論している男性二人。路傍で膝を抱えてブツブツと何かを呟く男性を避けて、沈痛な表情の人々が足早に過ぎ去っていく。


「まさか、啓鐘者(アウェイカー)の影響なのか?」


 ——啓鐘者(アウェイカー)。目に見えない瘴気を放っていて、その瘴気に触れた者に狂気と知恵を与える存在。街の状態を見るに、恐らく彼女がこの街を訪れたのだろう。人々の様子がおかしくなっているのは、彼女の影響を受けたからに違いない。啓鐘者(アウェイカー)が世界各地に出没しているという話は聞いていたが、実際に影響を受けたと思しき街の様子を見るのは初めてだった。


「でも、瘴気にやられた人ばかりではなさそうだね。さっきのおじいさんも健康そうだったし。瘴気の影響を受けてなさそうな服屋を探そう」

「探そうって、どうやって?」

「それは……」


 ふと、ダレンが足を止めた。彼が見上げた先を目で追うと、そこにはギラギラと輝く珍妙な看板があった。


「……『ミレニアム・ファッション マイケル』……」

「……いやいやいや……確かに瘴気の影響は受けてなさそうだけど……」


 俺はやんわりと諭したが、ダレンの目は煌びやかな看板に釘付けだ。


「ゴッズランドにミレニアム・ファッションの店はあったけど、ノースゴッズにその手の店はなかったんだよね……だから、ちょっと……見てみるだけ! 見てみるだけだから!」


 ——ミレニアム・ファッションとは。現代人の千年前への憧れをギュッと詰め込んだ、最先端のサブカルファッションである。

 千年前の文化。現代においてその情報はほとんど残っていないが、非常に高度な文明であったことから憧れる人々は多く、今から十五年程前、想像上の千年前の文化を再現する「ミレニアム・カルチャー」なるものが爆誕した。

 カルチャーの作り手達の中でイメージの統一はされておらず、その内容はシンプルなものからアーティスティックなものまで様々。ローレアのミレニアム・ファッション専門店では奇天烈で全く的を得ていない服が売られていた。

 まぁ、俺はその中から良い感じのタンクトップや半パンを探して買ったりしていたのだが。その店は有名な店の服を下流階級向けに劣化コピーして売り捌いているような店で、本来のミレニアム・ファッションは中流〜上流階級の為のものだった。なので恐らく、この店の服もそこそこのお値段なのだろう。しかし……


「見てみるだけ……いや……一着ぐらいは買うかもしれないけど……駄目かな?」

「もし俺やレイが一着欲しいって言ったら?」

「……騎士団の経費で落とすよ」


 ダレンは顔を皺くちゃに顰めると、かなり苦しそうにそう言った。それなら問題ないだろう。俺とレイで合計四、五着はこいつに買ってもらおうか。

 ダレンは観音開きの赤い扉の前に立つと、ゆっくりと深呼吸した。そして金の取手に手をかけ、やや緊張した面持ちで押し込み、慎重に扉を開いた。


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