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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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ウルフ、っす


 そんなことをしている間に時刻は昼になった。俺達はこの後、この街で物資の補給や必要な支度を済ませた上でブランブル帝国へと向かわなければならない。しかし、ブランブル帝国に入国する為には、いくつかの課題があった。


「通行証と、ダレンだな」


 俺が確かめるようにそう言うと、ダレンは頷いた。

 課題その一、通行証。ブランブル帝国は少し前から通行証がない者を国内に通さないようになった。その通行証はブランブル帝国の関所で発行されるのだが、発行を認められるのは信頼のおける商会や友好国の使節のみらしい。つまり、自分達のような得体の知れない三人組は良くて門前払い、悪くて不法入国を企てた容疑で投獄されるのだ。

 そこで、我らがパーティーリーダー・ダレンはサンズウェイに当たりをつけた。サンズウェイはブランブル帝国が国土の開拓の為に派遣した軍隊が独立して生まれた国だ。もちろんすぐに独立は認められず、血で血を洗う苛烈な戦いが起こったが、紆余曲折を経て独立が認められ、サンズウェイはかの国の友好国となった。

 そんなサンズウェイには、ブランブル帝国への入国が認可されている商会が多数存在する。ブランブル帝国は鎖国のような状態だ。その監視の目を潜り抜けて入国したいと願う者は少なくないだろう。そして、悪い需要には悪い供給が生まれる。恐らくこのサンズウェイのどこかに、不法入国志願者と結託した悪の商会組織が存在するのだろう。俺達はそれを、なんとか探し出さねばならなかった。

 そして、課題その二——聖テオドア騎士団が団長ダレン・レッドグレイヴ。

 最近のブランブル帝国は、ノースゴッズで鷲男が口にした言葉といい、啓鐘者(アウェイカー)の動きといい、何やらきな臭い雰囲気だ。特に鷲男の言葉を思うと、ブランブル帝国からゴッズランド及びノースゴッズに対して、何かしらの工作や諜報活動が行われていてもおかしくはない。つまり、特に目立つ顔と髪を持つダレン・レッドグレイヴの人相が、ブランブル帝国にバレていてもおかしくはないということだ。だからブランブル帝国に入国する前に——


(——いや、サンズウェイに入国する前に)


 ダレンは変装する必要があった。


「しかし、思い切ったなあ」

「作戦の成功には代えられないからね。こう見えて凄く、物凄く落ち込んでるよ」


 いや、こう見えても何も、見るからに落ち込んでいる。ダレンの微笑を湛えた顔の眉は可哀想なぐらい下がっていて、本人は平静を取り繕っているつもりらしいが、俺とレイの目には調子の悪さがバレバレだった。俺は改めて彼の頭部を見た。

 ——手で掴めば溶けてしまいそうな程に柔らかく、艶々と美しく、腰まで伸びていたダレンの髪は、ばっさりと肩までの長さに切られていた。

 まずこの男を見た者の十割が第一印象として認めるものは恐らく髪だ。その長すぎる髪をすっかり短くしてしまえば、ひとまず最低限の変装にはなるだろう……というのはまず間違いないが、それにしても思い切りすぎではないか。


「雑に切っただけだから、ちゃんと床屋で揃えないと。あと眼鏡も、服も」


 ダレンはそう言って俺達を促した。いささか張り切りすぎではないか。そう思ったが、口出しはしないことにした。こういったことは騎士団長の領分だろう。領分……か? いや、知らないが。

 そうして俺達は再び街に繰り出した。



「すみません、ウルフカットにしてください。あと髪を染めて。それはもう金色に」


 そう言いながら顔にクリームを塗りたくられていくダレンを横目に見ていた。ここは床屋。老舗の風情とポマードの匂いが漂う店内には、木製の椅子に腰掛けた俺達三人と、プルプルと腰に手を当てて歩くシワシワのおじいちゃん理容師一人が居た。


「あの、ウルフカットに」

「はあ?」


 耳が遠いらしく、ダレンは大きな声で聞き返された。本当にこの床屋チョイスで良かったのだろうか。ダレンはザックからメモ帳を取り出し、クリーム塗れのまま素早くウルフカットの図を描くと理容師に手渡した。理容師は「ああ」と声を上げて、そのまま店の奥の方へと去っていった。理解してくれたのだろうか?


「大丈夫だよ。さっきこの床屋から、見事なレインボーアフロの人が出てくるのを見たんだ。彼はああ見えて凄腕理容師だよ」

「それ、本当に凄腕なのか?」


 俺は千年前のマスコットキャラクターを思い浮かべながら目を細めた。

 そうこうしているうちに理容師が戻ってきた。どうやら使っていたクリームの瓶が空になってしまったらしく、手には新品の瓶を持っていた。


「そういえば、なんで顔にクリームを塗られてるんだ?」

「マッサージ!!」

「あ、っす……」


 理容師が相変わらずの大きな声で、俺の方に前のめりになって答えた。どちらも耳が遠いが故の仕草のようだが、妙に力強くて気圧されてしまう。俺は黙って正面にある鏡を見つめて、事が終わるのを待つことにした。


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