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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 サンズウェイ編
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【挿絵あり】印象派の、印象的な港

挿絵(By みてみん)




 唇が濡れる程の曇天。互いの顔が印象派の絵画みたいだった。

 俺達を拾ってくれた船は数日の航海を経て、灰色の空が広がる朝にサンズウェイの港へと着いた。


「生きてるなぁ〜〜」


 などと言いながら左右に伸びをし、桟橋へと降り立つ。久しぶりの陸の感覚は奇妙で、危うくつんのめって転ぶところだった。そんな俺に続いてダレンとレイが降りてきて、俺を追い越した。その瞬間。


「わっ……!」


 思いがけず手を引かれて、俺は再びつんのめった。掴まれた手首の先にはレイの姿があった。


「……いくよ?」

「あっ、ちょっ」


 俺はたたらを踏みながら、リード付きの犬のようにレイに引っ張られた。そしてなんとか体勢を整え、早歩きで彼女の隣に並び立ち、ちらりと彼女の横顔を見ると、彼女はなんだか嬉しそうな顔をしていた。


 さて、そんな風に船を降りるのはもちろん俺達だけではない。俺達の前にも後ろにも、俺達と一緒に遭難してしまった方の船員達や、次に俺達を拾ってくれた方の船員達がぞろぞろと歩いていて、ごく普通の貿易船の下船なのにまるで軍隊が帰還したかのような様相だ。

 そしてその中に、レイが助けた執事の姿はなかった。あの後俺達は執事を意識がないうちにグルグルに縛って、拾ってくれた船の船室に転がしておいたのだが、ある日の朝に俺達や船員達が目を覚ますと、すっかり居なくなっていた。恐らくは海に飛び込んだのだろうが、無事にどこかに上陸できたのだろうか。


「おうお前ら、やっとお目当ての港に上陸だな。すまねえな、俺の不手際で」


 突然に俺の肩を強く叩き、話しかけてきたのは最初の船の船長だった。共に遭難し、苦楽を共にした彼に怒りは湧かない。俺は「いえ」と首を横に振った。

 そんな俺達の方にレイが身を乗り出してきた。


「ねえ、船長さん。あの航海守りって……」

「ん? ああ、あれか。まさかあれにあんな使い道があったとはな。ただの迷信から生まれた気休めだと思ってたが、これからは俺も若い連中に口酸っぱく言って持たせてやらにゃあならんなあ……嬢ちゃん、本当によくやってくれた」


 船長が優しく微笑んで褒めると、レイは得意げな表情をした。存在しない尻尾がぶんぶんと揺れた気がする。可愛い。


「それほどでもないよ。それよりも、あのお守りってもう予備はない?」

「予備はねえが、一応ここ——サンズウェイでも買えると思うぞ。アルーヴ村の航海守りは、元はサンズウェイから伝来したものなんだ」

「そうなんだ」


 レイは相槌を打つと、懐から財布を取り出して開いた。


「買うの?」

「うん」


 それなら俺が出すのが道理だろう。そう思って俺が財布を取り出そうとすると、それを右から伸びてきた手に制止された。右を見ると、いつの間にか隣に並んでいたダレンが自身の財布を手に持っていた。そういえばこいつが俺達の雇い主だったな。ずっと俺が、このパーティーのリーダーなような気がしてるんだが。

 そんなこんなで桟橋を過ぎると、俺達は広い石畳の港に降り立った。サンズウェイ(太陽の道)の名に相応しい淡黄色の真新しいレンガが、地面に扇状に敷き詰められていたり、真っ直ぐに敷き詰められていたりして、街並みに面白い変化を生み出している。様々な国の船が出入りする海の玄関口だ。そこを土木設計の段階から力を入れて装飾できるぐらいの国力がサンズウェイにはあるのだろう。もちろん立ち並ぶ家々も、塗料によってカラフルに塗られていて愉快な雰囲気だ。世界広しと言えども、ここまで観光地的な景観を持つ国は、現代において他にないだろう。

 しかしそんな街並みも、今は陰気な曇天に沈んで彩度を失っていた。



 俺達は世話になった船長や二つの船の船員達に手を振って別れ、港町へと繰り出した。目当ての店を探し出すのは難しくなく、港町の中でも内陸の方、つまり生活圏の方に歩いていくと、しばらくして「石屋」と銘打たれた店を発見した。中に入ると細々としたパワーストーンのアクセサリーや石細工などが陳列されていて、その中にはアルーヴ村でレイが船長から貰ったものと似たようなデザインの航海守りもあった。

 レイはその航海守りを一つと、平たい石のペンダントを三つ買った。そして店を出て、向かいに立っていた文具屋に入ると、細い絵筆を一本買った。

 俺達はなんとなくレイのしたいことを察した。


「先に宿を取ろうよ」


 ダレンがそう言ったので、俺達は再び沿岸部の方へと歩いて行き、手頃な宿屋を見つけて部屋を取った。そして部屋の中の椅子に腰掛けると、レイは航海守りを潰して塗料にし、ペンダントの面にあの島の紋章を描くと順番に俺達に手渡した。

 レイはきっと、あの紋章を恐ろしい何かを抑える為の神聖な紋章だと思ったのだろう。見た目こそおどろおどろしいが、俺も同じ考えだ。

 俺はじっとペンダントの紋章を見つめた。ペーペーの魔法使いなりに考察すると、恐らくこの紋章には、それぞれ違う目的を持つ二つの模様が組み合わされている。一つは悪いものを封じる為の幾何学模様。もう一つは——爬虫類のような見た目の邪悪な存在について警告する模様。

 一体あの島には何が眠っていたのだろうか。俺は部屋の窓から海を眺め、思いを馳せた。


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