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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハズレスキルだと馬鹿にされた『筋肉増強』、実は超超超有能スキルでした〜僕を馬鹿にしたやつらを全員ボコボコにします〜

「お前はクビだ」


ソファにふんぞり返りながら僕にそう告げた男はパーティのリーダー「パルス・シュラスコ」だ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!! 僕が何をしたって言うの!?」


僕は突然告げられたその言葉に納得がいかず抗議する。僕はこのパーティでそれなりに上手くやっていたと思うし(まぁ、荷物持ちとして、だけど……)、クビにされる理由が思いつかない。


「お前が無能で阿呆で愚図で間抜けだからだよ。汚れた雑巾みたいな顔を見てるだけでイラつくんだ。お前がパーティの中で役に立ったことがあるか? 戦闘もできない。金勘定もできない。料理も装備の手入れだって人並み以下。そんなカスに居場所なんかどこにもねえんだよ!!!」


そう言うとドン!と机を叩いた。

机の上に置かれたグラスが揺れ、中に入っていた水がわずかにこぼれた。


「しかもスキルまで便所の壁にへばりついたシミレベルのゴミカスときた。これで今まで追放されなかっただけ感謝しやがれよ、この水死体に湧いたウジ虫以下の害虫がァ……!」


僕は浴びせられたひどい言葉に強いショックを受けながらも、救いを求めるように他のパーティメンバーの方を見た。

しかし、みんな僕が目を向けた瞬間に目を逸らすばかりだ。ちくしょう。既に話はついてるんだな。


「……分かった」


僕はもう何を言っても無駄なことを知り、言いたい言葉を全て飲み込んでその部屋から出た。


扉が閉まった瞬間から、目の奥から涙がとめどなく溢れた。


パーティ『スターライト・サンライズ』での思い出が頭の中を駆け巡る。口は悪いけど義理堅くて優しいパルス。優しくて胸が大きいセルヴィ。少し口は悪いけど実は仲間想いのライ。

戦闘ではあまり活躍できなかったけど、なんだかんだ楽しくやれていたと思っていたのは僕だけだったのか……。


「……ステータスオープン」


そう呟くと、目の前に車の窓ほどの大きさのウィンドウが開く。


HPや所持品などが書かれたそのウィンドウの一つの欄を見つめる。

『スキル:筋肉増強』……。こんな意味のわからないスキルのせいで、僕は色んな人から蔑まれてきた。ハズレスキルだの、無能だの……。思い出すだけではらわたが煮えくり返ってくる。


僕に力があれば……………。


そのとき、ふとスキル欄の横にあるものを見つけた。


横向きの長方形の枠を半分に区切るように中心に縦棒があり、左右にONとOFFの文字がそれぞれ配置されていた。そしてONの文字のある空間は他の場所より暗くなっていた。


「……?」


このスイッチはなんだろう。ギルド加入時に渡された冊子のステータス画面説明のページにも、こんなものについては書いていなかった。


僕は試しに押してみることにした。


「ポチッ」



「おおっ!?」


最初は、何かに持ち上げられているのかと思ったが、すぐに違うことに気づく。

僕の体が大きくなっているんだ!

服がブチブチと破れていく。


僕はようやくスキル『筋肉増強』の意味を理解した。

なるほど……。


数秒で体の変化は止まった。


自分の体を見回す。僕の全身は筋肉によってまるでオークのような大きさになっていた。


力がみるみる湧いてくる。今なら全てを壊せる……全てを思い通りにできる……。


服はちぎれかけでもはや風前の灯だが、まぁ後で手に入れることにしよう。


僕は振り返って、今しがた閉じたばかりの扉を蹴り飛ばした。


壊れた扉は、座っているパルスの方へ飛んでいき頭にクリーンヒットした!


ざまあみろだ。


みんなが何が起きたか理解できていないうちに、大きく踏み込みパルスの方へ接近する。


頭に手を当ててうめき声をあげている間抜けな姿を見て自然と笑いがこぼれた。


「よくもこの僕をバカにしてくれたなァァァァァァ!!!!!!!!」


大きく振りかぶった拳を全身を使って打ち抜く。

人を殴った鈍い感触が拳に伝わり、パルスはすごい勢いで吹っ飛んで、壁をぶち破ってその向こう側へ行ってしまった。


「ふん。他愛もない……」


「あ、あんた……」


怯えた表情をしたライがこちらを見つめている。

良い顔をするじゃないか。嗜虐心をそそるねぇ……。


僕が体の方向をライへ向けると、彼女は持っていた杖を構えた。


「そんな杖で何ができる……」


床が凹むほどの踏み込みからの跳躍!!


空中に跳んだ僕を狙って火球が飛んでくるが、それは軽く腕を振るうだけで掻き消えてしまう。

全体重を乗せた全力の踵落としがライの脳天に決まり、熟しすぎた果実のように無様に潰れる。


「簡単ッッッ! 簡単ッッッ!!!」


全能感が心臓から溢れ全身に巡る。

ほとんどその体をなしていない自分のズボンとパンツを剥ぎ取ると、脇に放った。


「ショーの始まりだぜ……」


僕の目線の先にはセルヴィがいた。

床にへたり込んでいるセルヴィは腰が抜けているようで、ヤギの赤ちゃんを彷彿とさせる動きでその場からなんとか逃げようとしている。


僕が一歩を踏み出すたびに彼女の小刻みな震えが大きくなり、瞳に溜まった涙は今にも溢れ落ちそうだった。


「セルヴィ……怖がらないで。悪いようにはしないさ」


「ライ……パルス……!」


僕の言葉が聞こえているのかいないのか、忙しなく左右に眼球を揺らしながらメンバーの名を呟いている。


「もう2人は居ないんだよ。でもこれからは僕と2人きりだ。一生守ってあげるから安心して!」


そう言って左手でセルヴィの右腕を掴んだ。


「いや……ッ!!」


彼女はガクガクと震える脚でなんとか自立しようともがきながら詠唱を始める。


「ゆ、夕栄なる、神の遠影よ……」


だが彼女は上手く詠唱を唱えきれずに、集まりかけていた魔力は空中で霧散してしまう。

僕はその姿がなんだか可愛らしくついつい見とれてしまっていた。

やがて魔術を使うのを諦めたセルヴィは僕の手から逃れようと必死に体をよじる。


「落ち着いて……深呼吸だよ」


それでも彼女は動きを止めない。うむ……。


「ギャア゙ァ!!」


僕が力をいれるとバキンという音を立てて彼女の腕は折れた。淑女とは思えない濁点付きの叫び声に思わず吹いてしまった。


「ごめんごめん。普段からは想像できない声だったからつい……」


口を噛み締め唇の端から泡を出しながら痛みに耐えているセルヴィには僕の謝罪は届いてないようだ。

セルヴィが全然僕の言うことに耳を貸してくれない……。悲しくなった僕は右手をもう片方の腕に伸ばした。

赤い鮮血がほとばしる。

おや、やり過ぎてしまったかなと力を緩めようとした瞬間、僕の右腕に激痛が走った。


「!?!?」


見ると、切り離された腕の断面が見えた。

何が起こった!?


「やれやれ。見た目も変わっちまったが……心までモンスターになっちまったみてえだなァ」


後ろから声がした。

この声は……。


「パルス……生きてやがったか。今度は楽には死なせてやらないぞ……」


僕は憎きパルスの顔を見て全身の筋肉が更に怒張するのを感じる。

しかもお楽しみタイムまで邪魔されたときた。僕の怒りは天を衝くほどに猛っていた。


「へえそうかい。……おい、起きろ! ライ!」


パルスがそう呼ぶのを聞いて僕は思わず笑ってしまった。


「ハハハハハ!! 残念、ライなら……」


そう言って彼女の無残な死体を指し示そうとして、一瞬思考が停止した。

彼女だった肉片がナメクジのようにグニョグニョと動き、寄り集まって一つの塊を形成していた。

その塊は次第に人の形をとり、数秒としないうちにぐちゃぐちゃの死体はライに戻っていた。


「スースーするわね……」

彼女が着ていた服は僕のパンチによって弾け飛んでいたため今の彼女は一糸もまとわぬ姿だった。

なるべく目に焼き付けておこう。


「フン」


パルスは慣れた仕草でライの裸を一瞥すると僕の方を見た。

いや、見てるのは僕じゃない。

後ろだ。


ゾッとするような気配を感じ咄嗟に振り返りながらその場から飛び退く。


そこにはさっき折ったはずの腕で何事もなかったように杖を構えるセルヴィがいた。


「その様子だと、本当に信じてたんだ。セルヴィの猿芝居……」

ライがクスクスと笑う。


「さ、猿芝居なんかじゃありません!」

セルヴィが心外だという顔をして抗議する。

「いや、猿芝居だったぜ。こいつはもっと猿みてぇだったがな」

「アハハハ! 言えてる」


僕を囲んで談笑する3人の声を聞きながら、僕は血管が沸騰しそうになった。


「貴様らァ……! 殺す……!!」


3人の笑い声は僕が怒り狂うほどに大きさを増していくようだった。

こいつら、まだ「勝てる」とでも思ってるのか?

「馬鹿どもが……」


僕は脚に思い切り力を入れパルスの方向へ飛ぶ。

次の瞬間目の前にはパルスが……いなかった。

僕が踏み出しそうとした脚は切り落とされ、バランスを崩した僕は無様に倒れた。


「やれやれ。せっかちだなァてめえは」


そう言うといつの間にか抜いていた剣を構える。


「『雷光』パルス・シュラスコ」

「『三面鏡』ライ・トリンド」

「『誘蛾』セルヴィ・セルウィスタ」

三者三様の構えを取り、その全ての照準が僕に向けられているのが分かった。


あ、やばい。


「すみません。もうしません!」


僕は残った腕と脚で必死に土下座の体勢を取る。


「ちょっと魔が差しただけなんです……ほんとは殺すつもりなんか無かったんです……」


こいつらは何だかんだお人好しだ。命乞いをすれば、殺すのではなく縛ってしかるべき所に引き渡すという方向に考えを改めてくれるはず。


「ハァ……誇りってもんがねえのかね……」


しかし思惑とは違い、彼らは構えを下ろさない。


クソッ……駄目か。こうなったらやるしかない。まずは一番速いパルスをやる。そうすればあとは雑魚だ。ライは魔法使い。セルヴィは僧侶。距離を詰めれば簡単にぶちのめせる。

セルヴィを殺すのは惜しいが、仕方がない。

俺は床を渾身の力で叩きその勢いで起き上がると、思い切り地面を蹴ろうとした。

しかしまたさっきと同じように脚は切断され、芋虫のように地面を這う。


「ク……ソがァ!!!!」


「僕がこんなとこで死ぬわけない!!!! 」


「てめえら、覚悟しとけよ、そうだ僕のスキルはもう一つ『不死身』があったんだ。お前らが僕を殺してもすぐに生き返ってお前らを殺す。絶対に殺す許さねえからな死んでもお前らを呪う血反吐を吐いて糞の上をのたうち回って死ぬ呪いをかける覚悟し」


急に言葉が出なくなった。顔を動かしていないのに視点が変な場所を向く。

首の断面が見え、鮮血が目の前を覆って、意識は急速に落ちた。

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