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デモンズ研究 3


 ハワイ諸島より西の太平洋海域の軍事警戒網が薄いポイントにその島は浮いていた。

ドーンデモンズの本拠地となる海上移動が可能な人工島、「コントラクトランド(契約の地)」である。

 その島は光学迷彩システムに覆われており衛星感知もされない。


 ライズの乗るデモンズ・シャイターン、そしてリラの乗るデモンズ・サマエルはステルス状態のままジパングから海上飛行してこの島へと降り立った。

 彼らは機体を整備班に預けて島の中央にある巨大研究所へと向かう。


 研究所の中に入るとそこには大樹のように複雑化した高度演算処理システムがまず目に映る。

 未来予測演算機構 デモンズ・ラプラス

 そしてそれを制御する科学者・メフィスト教授が彼らの到着を見て声を発する。


「デモンズパイロットの面々は揃ったようだね。では次の作戦会議を始めるとしよう」


 モニターに世界地図が映し出されていくつかの地域に矢印がマークされる。


「ここに記されているのは世界的反政府組織「ナルシスティック」の拠点だ。今回はこれらを一斉に叩いてもらう」


 世界事情的に大なり小なり政府が腐敗している国の方が圧倒的に多い。

 前回の作戦からシン共和国などむしろ体制崩壊した方がいいように思えたグレイブは早速質問を入れる。


「支部によっちゃ見過ごした方がいいんじゃねぇか? 腐っている国なら壊れちまっても問題ねぇだろ?」


「壊れていい方向に向かうならね。ナルシスティックは表面上、民衆を虐げる圧政者を許さないという理念に基づいて集っており、組織運営も宗教的な献金姿勢がないから健全に見える。しかしその組織構成の実態は上の洗脳による独裁状態と言っていい」


「洗脳か……証拠は?」


「手始めに構成員を数人捉えて検査したところ同様の異常な精神状態であることが判明している。その後、慎重な潜入調査を繰り返し……組織の上層部はとても高度な洗脳技術を有していることが判明した。記録映像もある」


 出された映像には上層部の人間と思わしき男が首から口にかけて覆うようなボイスチェンジャー付きのメタルマスクを装着し、組織に入ってきた新人たちに対して命じる言葉を発すると新人たちはまるで意識を乗っ取られたかのように男に従う恭順な態度を示したのだった。


「ドーンデモンズの計画において5大勢力全ての解体は最終的に行う。しかしそのためにはどの勢力も今以下の余力状態にしておく必要がある。ナルシスティックがクーデターに成功し続けて世界中の様々な国を実質手に入れてしまいその世界ネットワークから勢力統合を促されると計画が崩れてしまう恐れが十分にある。と、ラプラスの未来演算予測は提唱している」


「……分かった。十分だ。やるよ。計画の一大事なら仕方ないさ。潰れてもらうしかない。それに洗脳ってやり口で成り立っているんなら情けなんてかける意味もなくなった」


「ありがとうグレイブ。他の者も異論はないね?」


 他のデモンズパイロットも賛同の意を示した。


「決まりだ。作戦目標はナルシスティックの壊滅。教祖カウ・チーズマンと上層部構成員はすべて殺害せよ。それ以外のメンバーは洗脳が解けるならばすべて開放する。各拠点を叩くメンバーの組み合わせはこれだ」


 ライズはティムと組まされ、叩く拠点はロマリエ帝国にある支部であった。


「俺はネハーンかよ」


「今回は万が一に備えて地理への理解も必要になってくる。君が出身地を嫌っているのは分かっているが頼むよグレイブ」


「……わかったよ教授」


 会議が終わり、パイロットたちが出ていく中でティムが去り際にライズに声をかける。


「ライズ・サマナール、作戦中は私の邪魔をするなよ。仲間であっても王の意向を妨げるならば容赦はしない」


「聞けない話だ。お前が人道的でないことをするなら俺は止めるかもしれない」


「……それは困るな。君はつるんでいるロートル二人と違って才能がある。潰すには惜しい」


 ロートル二人というのはグレイブとリラのことだ。

 まだ残っているグレイブとリラはその発言にムカつきはするも慣れているため話に割って入ることはしない。


「才能か……ストリーム適性……封じられた悪魔の力を引き出せる能力だけがすべてとは俺は思わない。実際にそれ以外で二人から学べることは多かった」


「つくづく話が合わないな」


「そうだな。作戦中に意見が食い違ったらその時はその時だ。それまでは協力し合う。それしかない」

「いいだろう」


 ティムが不快そうに去っていったあとグレイブとリラは微笑ましい顔をしながら共にライズの肩に手を置く。


「どうした?」


「いや、初めてここに来た頃と比べたら言うようになったなと思ってよ」


「いい傾向よ。……あ、そうだミコノちゃんの会社の話、教授にしておかないとでしょ?」


「そうだった。教授、よろしいでしょうか?」


「なんだい?」


 ライズはカンナギ財閥がデモンズ鹵獲を狙ってフェイクの人体研究情報を流そうとしていることを説明する。


「……なるほどね。フェイクと分かっているならスルーすべきだろうけど一応ラプラスの演算予測にかけてみよう」


 メフィスト教授はラプラスに必要な情報を打ち込むとそれに対するアンサーが提示される。


「なっ!」


 ライズは思わず声を上げてしまった。

 それはあえてフェイク情報に乗り、待ち構えるカンナギ財閥の信仰機をすべて破壊せよというものだったからだ。


「恐らく情報の出本が君だからだろうね。フェイクだと分かってスルーしてしまえば当然、その事実を知りうる内部の調査が開始される。そうなった際に君の存在にたどり着かれてしまうと問題だからできないということなのだろう。あとは我々を利用しようとすると痛い目を見るという警告の意味合いも含まれているか」


 それはそうだ。ならばこれは避けられない戦いだ。

 しかしそうだとしてもライズは気が進まなかった。

 その意図を汲んでかリラが手を挙げる。


「ねえ、誰がやるかの指定はないの?」


「ないね、カンナギ財閥の最新鋭機アマテラスの性能は確かに高いがそれはあくまで公式機の中での話。量産も恐らくまだされていないだろうし1機だけなら脅威ではない」


「じゃあ私がやっていい? ナルシスティック壊滅作戦には指名されなくて暇だし」


「リラ」


「ティムみたいな強引な奴にはやらせたくないけど私がやるなら心配いらないでしょ?」


「いいよ、サマエルなら相性も悪くないし問題ないだろう」


「ありがとう」


 その一連の流れを見ていたグレイブは乗せた手を放して彼の肩を軽く叩く。


「そうだ、困ったら仲間を頼ればいいんだよ」


「ああ」


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