女王の騎士たち 7
同時刻、ライズはスウェーデンにあるMLカンパニーロマリエ開発事業部まで来ていた。
そこの営業事務所に行くもエリオどころか誰もいなかったため、製造部署へと向かいそこで応対してくれたホルドという中年男性に尋ねる。
「……エリオは最近、ロマリエ中を奔走して殆ど帰ってこないな。他の営業連中も仕事が増えているわけではないのに何故か忙しそうにしている」
やはりここの営業部がクラウン関係に噛んでいる可能性は高い。
そしてホルドの素振りが演技でないなら開発・製造部はそれを知らされていないということになる。
「辻褄は合うか」
ライズが焦り気味に情報の関連性を整理しているとホルドの方から質問される。
「ドーンデモンズ本部が今どういう状況下は分からんがパイロットであるあんたが武装目的とかじゃなくここに出向いているってあたり結構ヤバいのか?」
「ええ、クラウンの建造にうちの技術が使われた可能性がやはり高く、事態の解決のためにはまずその出所を突き止めなくてはなりません」
「……まあ、俺もその可能性は考えていた。とはいえ俺たち製造部は誓って技術を流していない」
「分かっています。ですから協力していただきたい。営業部の動向に関して何かほかに変わったことはありませんでしたか?」
「ああ、それならちょっと前にホルティスってやつが本部からこっちに回されてきたんだ。顔がいいくらいしか取り柄がないエジプト人のガキで製造部じゃ使い物にならなかったから営業に回したんだ。けどその営業も少ししたらいなくなっちまって……エリオに尋ねたら営業先に派遣させたって答えが返ってきた。あいつなんだったんだろうな?」
「ホルティス……そうか、ティムはここに送られたのか」
そこで撤退したグレイブからの連絡が入る。
「ああ、グレイブか、重要なことが分かった。ティムが……」
『こっちも重要なことが分かった。ティムがクラウンに乗ってやがった。その経緯さえ洗い出せば実態が見えるはずだ』
「! 話が繋がったな」
『? どういうことだ?』
「今、ロマリエ開発事業部に来て調べていたんだがティムはここに回されていた。そしてエリオの根回しで営業先に派遣させていたことが分かった。そしてクラウンに乗っているということはその派遣先の正体はクラウンを所持している信仰機プロチーム、スウェーデンに限定するならエルヴィンが所属する「リグレイズ」しかない」
『決まりだな。そろそろニュースに流れるだろうがティムのこともあってモロッコへの侵攻を許しちまった。すまねぇ』
「俺は「リグレイズ」へと向かう。グレイブたちもそこに来てくれ」
『おうよ』
◆
スペイン沿岸での戦闘後、ホルティスはデモンズ・サマエルのパイロットと知人であることがバレたため、騎士団長のジョージから質問を受ける。
しかしデモンズ・ラプラスによる伝達制限の処置を受けているためホルティスはそれを話すことはできず、ジョージは疑いの目を強く剥ける。
そこにエルヴィンが割って入る。
「団長、ここは私が責任を負うということで見過ごしてもらえないでしょうか? 彼にも言いたくない事情というものがある」
「騎士団は清廉潔白であらねばならない。そうやって隠し事を許し続ければ旧体制のように王政派も腐敗に向かいかねんぞ」
「プライベートへの過剰干渉こそ綻びを生みます」
「……もしもの時は貴君が責任を取るのだな?」
「はい」
「分かった。ならばこれ以上は言うまい。総員、破壊されたクラウンを回収して撤退する」
◆
その日の夕方、リグレイズの所属施設まで戻ってきたホルティスはエルヴィンに礼を言う。
「あの時は助けてくれてありがとうございました」
「気にしないでいいよ。君はもう正式な仲間なのだからね」
「はい! これからも足を引っ張らないよう頑張ります」
「引っ張るどころか今日は活躍していたじゃないか。……今日破壊されたのは16機、乗っていたパイロットたちも死にはしていないがケガを負った。機体の方は修理と増産の体制が整っているからどうにかなる。そしてパイロットの方も君のおかげでクラウンの操作を緩和できる調整もだいぶ進んだから予備人員をそのまま投入できる。君は十分に貢献できているよ」
その会話の後、褒められて気分よく宿舎に戻ろうとしていたホルティスは急に呼び止められる。
「ティム・フェニックス」
その契約名の呼び方とともに姿を現したライズたちに驚きはするもすぐに警戒し距離を取る。
「何の用だ?」
「聞きたいことがある。まずは確認だ。お前をここへと派遣したのはエリオという営業担当で合っているな?」
「お前たちに答える義理はない」
分かりやすくかばうような目の動き方であったため合っているだろう。とライズたちは察する。
「まあいい。ここに来たのは裏取りのためだけだ。もうドーンデモンズを辞めたに等しいのだから敵対勢力に回ろうとそれはお前の自由だ。ただ今回のアフリカへの干渉行動、これがどういう意味か分かっているのか?」
「王政派の政策のための行動以外ないだろう」
本気でそうとしか考えてないことにため息が出そうになるが堪えてライズは教える。
「労働力のために侵略しようとしているということだ。曲がりなりにもドーンデモンズの理念を遵守していたならそれに思うところはあるだろう」
「俺はもうドーンデモンズじゃない。俺は王政派の騎士だ!」
自分の居場所というようにそう誇らしげに語るホルティスには呆れるしかなかった。
「ったく、こんなお兄ちゃん見たらメフィアも悲しむぜ」
そう叱咤するグレイブをホルティスは複雑な感情を抱えた目で見る。
この男はまだメフィアの本性を知らない。しかしそれをバラすことは妹との約束でできないというもどかしさから生まれるものだ。
「……」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「何もない」
そこから会話が途切れて数秒の沈黙が流れたあとリラは突拍子もなくホルティスに殴りかかる。
「さっきはよくも舐めた口きいたなゴラアアアアア!」
元々ギャングとして荒事に慣れていたリラの拳は女とは思えないほど凶悪で、生身でも強くはないホルティスはあっさりボコボコにされてそのまま倒れる。
「どうよ、身の程を思い知った?」
「誰が、俺は屈しない」
「んじゃぶっ殺すね~」
倒れた後もリラは馬乗りになって多少は加減していたリミッターを外して狂気に塗れた笑顔で暴行を加え続けた。
その光景には周囲も流石に引いており、警察を呼ばれかねなかったため3人は慌ててリラを止めて引きずってその場を後にしたのだった。