女王の騎士たち 6
ストックが尽きたのでここからは1週間3話以上目標でいきます
たぶん3か月以内には完結できるはず
クラウンの飛行能力はコンセプト元のパラディンが地上戦用型であったことから飛行自体は可能となっているが長時間飛行に向いている設計ではない。
したがって海を渡る際は専用のフライトユニットをスペインの岸辺で装備し、最短でモロッコ海沿岸部へまでを安全に飛ぶことが推奨される。
クラウン25機がスペインの岸辺まで到達すると突如として上空から極太のビーム砲撃が奇襲として放たれる。
それに1機が巻き込まれた。
デモンズ・マーラのビーム砲撃は直撃ならば並の信仰機は跡形もなく蒸発するのだが、被弾したクラウンは外装が溶ける程度でまだ動けていた。
『敵襲! 上空にデモンズを確認』
「直撃したのにまだ動けるのかよ。なんつー固さだ」
続けてステルスモードで同じ岸辺まで近づいたデモンズ・ベヒモスがその足より衝撃波を足元の砂を巻き上げながら発生させる。
それを受けたクラウン全機は一端硬直するもしばらくすると動き出しこちらをソードで切りつけようとしたためベヒモスは海上へと逃げる。
「完全ではないとはいえ振動硬直への対策もしていますか。ならば……」
ベヒモスは地竜から水龍であるデモンズ・レヴィアタンへと変形し海中へと潜った。
そして固有性能による海水に振動を与えた衝撃波を海の中から放つ。
高質量のウォーターカッターだ。
それに直撃した3機は装甲を切断され内部の駆動系が傷ついたため、稼働に支障を来たし撤退を余儀なくされる。
「切断するつもりで撃ったのですがそれでもギリギリ致命打に届く程度とは」
『防御部隊は海を警戒しシールドを張れ! 攻撃部隊は防御部隊の背後に隠れてボウガンでマーラを狙撃し続けろ』
指揮を執っているジョージの命令に従い、クラウン部隊は8機を海方面へのシールド担当としてウォーターカッター対策をしつつ、残った機体にはソードからボウガンへと切り替えて足並み揃えてマーラを打ち続けさせマーラバズーカを打たせないようにする。
ボウガン矢の嵐でマーラはギリメカラモードに変形し回避に専念する他なく反撃の隙がまるで見つからないほどであった。
「厄介ですね。機体性能差が少ないことは承知でしたがそれよりも部隊の練度が高すぎる」
「ああ、一人一人のレベルが高いのもそうだが、そいつらがちゃんと息を合わせて役割を全うしているから本当に隙がねぇ」
デモンズの稼働エネルギーは悪魔王から供給されるストリームであるためパイロットが死なない限りは半永久的に動くことができる。
対してクラウンの動力は恐らくは通常バッテリーであるため2,3時間もすれば撤退するしかない。
リラが来てくれるまではどのみち時間稼ぎを優先するつもりであったため二人はしばらく牽制行動を続けていたが、30分立ったところで違和感に気付く。
「なあ、サイレス、どっちかつーと向こうが時間稼ごうとしてねぇ?」
「同感ですね。どうやら援軍でさらに10機こちらに来るようで、それらは恐らく私たちの相手をせずに海を越えるでしょうね」
「逆に足止めされたってことかよ」
「数で勝るからこそできるやり方ですね」
援軍で来た10機はフライトユニットを既に装備しており、サイレスの読み通りデモンズを相手にせずに少し迂回する形でモロッコを目指そうとする。
これは止めようがない。
そう二人が諦めそうになったところで10機中、先行していた5機が真下の海上の機体のせいで陰が出来ている部分に潜り込むように潜んでいたところからステルスモードを解いて姿を現したサマエルの奇襲を受けて撃破された。
「おまたせ~!」
「おせぇよ」
「む~、せっかく助けに来たのに。そういうこと言われると帰りたくなるんですけど~」
「あー悪かった。今回はお前がいないとどうしようもない。だから頼むわ」
「お願いいたします。マーラとベヒモスでは何分相性がよろしくない。リラ、あなたが頼りです」
「そうそう、そうやって挙げてこう。ひゃっはー!」
「お前もしかして飲んでたか?」
「あ、バレた?」
意気揚々としたサマエルは残り5機も撃破し、そのまま岸辺へと特攻する。
クラウンは地上近接戦闘ならそれこそデモンズと張り合えるほどに洗練されている。
しかしそれはあくまで水準に達しているというだけで、最高の格闘性能を誇るサマエル相手には通じるものではない。
防御部隊の並んだウォーターカッターさえ防ぐ堅牢なシールドは腐食サーベルによって易々と切断されて腕を落とされる。
サマエルは防御が崩れた合間から敵陣に入り込み、そのままボウガンに切り替えていた攻撃部隊を一方的に処理していく。
クラウンの強度な装甲であっても腐らせて切断できるサマエル相手だとクラウンは持ち前の防御力というものを生かすことができない。
まだ生きているクラウンはソードに持ち替えたはいいものの、サマエルの驚異的な格闘性能に恐怖を抱くパイロットは多くそれが動きを鈍らせて隙を生む要因となる。
「あはっ、隙みーつけた」
一番隙が多く感じられたクラウンへと獰猛な蛇のごとくスルりとやってきたサマエルはそのまま腐食サーベルを振り下ろす。
だがそれを読んでいたかのように恐怖を感じていなかったパイロットが間に入り込んでサマエルの胴体を蹴りつけて距離を離した。
「ぐっ、いったぁ」
『大丈夫ですか?』
『ああ、助かったよホルティス君』
そこで聞き覚えのある声がクラウンから聞こえたためリラは驚く。
「え、その声、もしかして……」
『邪悪な蛇よ、俺が相手だ』
「ティムじゃん! ねえ、ティムがクラウンに乗っているんだけど」
「はぁ、なにやってんだあいつ」
「まったく、いなくなってもう心配ごとがなくなったと思えば目の届かぬところでまた厄介なことを」
狂気を漏らしているに等しかったサマエルの動きが突然として狼狽えたものに変わたっため、回りのクラウンパイロットはホルティスを称える。
『おお、ホルティス君、君の威勢のよさにデモンズがビビっているぞ』
『はぁ、違うし、ティムがクラウンに乗っていて驚いちゃっただけだし。なんで私がティムごときにビビらなきゃならないのよ』
「バカ、なに音声オンにして会話してんだ。ティム言うな」
「はぁ、面倒なことになりましたね。……不本意ですが状況を整理するためにも撤退する方が無難だと私は推奨します」
「だな、こうなった以上、侵略は見過ごすしかねぇ」
「えーこのままやっつけちゃえばよくない? というかティムをボコボコにしたい!」
「殺してはダメですよ、戦闘継続するならティムは鹵獲しなければなりません。しかし鹵獲できる余裕は流石にない。ならばここは速やかに撤退し、ティムがクラウンに乗るようになった経緯を調べるほうに賭けた方が賢明ということです」
「やだやだ、このまま戦いたい」
「ガキか、お前は。いつまで酔ってんだ。ほら、帰るぞ」
「ぬわああああ、不敬なガキを絞められぬことが腹ただしいぞ」
リラはやっと納得したのかサマエルを後退させてステルスモードに移行する。
マーラ、ベヒモスもステルスモードに移行してデモンズ3機はその場から撤退したのだった。
それを追おうとするパイロットは数人いたがジョージがそれを止める。
『追わなくていい。デモンズは我々の行動を止めるに至れなかった。その事実があればロマリエの世論は王政派にとってより盤石なものとなる。それで十分だ』