高天原学園 2
ライズ・サマナールは最近世界的に認識され始めたテロ組織ドーンデモンズのパイロットだ。
彼がここジパングの信仰機関係育成スクール「高天原」に留学した理由は2つあった。
1つは、ここジパングは信仰機開発研究において優秀な民間の関連企業が多い。そしてそれらに就職する技術者の質も後に評価されることが多い。故にドーンデモンズの今後のために協力してくれそうな企業・人材をスカウトする必要があった。
もう1つは単純に学業の継続だ。
個人的には必要ないと思ってはいるが年上の仲間たちが「意味がなくても余裕のある内は学校には通っておけ」と助言してくれたため従うことにした。
留学生という優秀さを出しつつも突出していない程度のイメージを出そうとしていたのだが、3割ほど手を抜いても上位成績になってしまったために注目を集めてしまった。
「……もう少し手を抜いたほうが良かったな……」
彼はスクールの近くのマンションに住んでおり、同居している同じデモンズのパイロット、グレイブ・ホーンに愚痴をこぼす。
「やっちまったもんは仕方ねーよ」
中東の褐色肌の青年は朝から酒を飲みながら言葉を返す。
「女子たちが寄り付いてきてやりづらい」
「羨ましいじゃねーか」
「注目され過ぎだと任務もしづらい」
「なら彼女でも作れ。そしたら他の女は距離を置く」
「留学は1年限りだ、期限付きで付き合ってくれる都合のいい女なんていないだろ」
「そりゃお前の想像だ。女ってのは言うほど誠実さ求めているかと言えばそうでもねーよ。なんなら学生のうちにとりあえず恋愛歴作っておきたい~ってやつもいる」
「だとしても全部の女がそうじゃない」
「そりゃそうだ。俺が言いたいのは決めつけるなってことだ。まあ、とりあえずは復学しているつもりでいろ。任務のことは頭の片隅程度でいい」
「それは良くないだろ」
「いいって、ずっと気構えていたんじゃいざって時に疲れて全開を出せないだけだ。オンオフの切り替えをもっとうまくやって見せろ」
「難しいことを言うな」
「できないんならお前はその程度だ」
「ふっ、そう言われたらやるしかないな。オンオフの切り替え。行ってくる」
◆
スクールでは今、男女合同の木製の刃先が丸い練習武器を用いた対人訓練が始まっていた。
信仰機の近接武装運用に際してこの対人訓練が実践前の事前の経験として最適であるという説明を受けた後、各自自分に合う武器をもって相手に致命傷を負わせない程度に手合わせする。
「ちょ、ミコノさん、ストーップ」
「男とあんま変わらないよ」
「情けないわねーあんたたち」
ミコノは女子相手では物足りないため男子複数を誘って手合わせするも木刀の剣さばきが明らかに達人のものであるため相手にしていた男子たちは次々とギブアップしてしまっている。
「ってか、男と変わらないって失礼なんだけど」
「ああ、失礼しました。男なわけありませんとも。なんせ素晴らしい2つのリンゴをお持ちですもんね」
ミコノは背が高いのもそうだがバストも大きく手合わせのあと着崩れた胴着の胸元からその谷間が露になり負けた男子たちは前かがみにニヤけた顔をする。
「ほんと情けない」
彼女は冷ややかな目をしつつ木刀で彼らの頭を軽くたたいてあしらう。
「ちくしょおお、俺たち男子のメンツがあああ。ライズ君、仇打ってくれよ」
叩かれた中で小柄で気弱そうな男子・アラカワがライズに引っ付きながら懇願する。
「……アラカワ君、俺が勝っても君たちのメンツが回復するわけじゃないと思うが」
「いいんだよ、ジパングは群集での勝利が大事なんだ。男子と女子、そういうくくりで勝っていればいいの」
「その価値観は良く分からないがまあいいか。彼女とはもう一度手合わせしたかった」
「もう一度?」
「いや、言い間違えた。もう一度はいらない」
負けたとまでは言わないがインディアでミコノに一杯食わされたのは事実。
このままでいるのは気分が悪いというこだわりを捨てられない自分はまだ青いという自虐を胸に抱えながら彼はミコノと手合わせに移る。
「武器を持たないなんて舐めてる?」
「いや、これがいつものスタイルだ」
両手にテーピングを巻いて拳を構える。
「ボクシングスタイルね。いいわ、やりましょう」
ミコノもまたあの時の戦いを思い出し、その続きというわけではないが代わりになるやり取りができそうだと興が乗る。
手合わせが始まるとそこには訓練とは思えない鮮やかな光景が生まれる。
まるで巫女の如く舞い踊るように刀を振るうミコノとストリートダンスでもしているかのように軽快にステップしながら拳を突き出すライズ。
周囲の生徒たちはまるで映画を見ているかのように見入ってしまっていた。
ミコノの振るった刀をライズは思い切りはじき返す。
体制が崩れたミコノにすかさず接近して止めを決めに入るも、ミコノは崩れた反動を利用して回転し余っていた左拳をカウンターとして繰り出す。
これはインディアでの時と同じだ。
あの時は見事にカウンターを決められたが2度も喰らうわけにはいかないとライズは彼女の拳をはたいてそのまま拳を彼女の顔面までもっていき寸止めした。
「!」
「俺の勝ちかな?」
「……そうね、まさかカウンターまで対処されるなんてね。あの戦いでリベンジ喰らったみたい」
「あの戦い……ああ、三日前のインディアでの悪魔機体との戦いか」
「それ。負けたのは悔しいけど楽しかったわ」
「こっちもだ」
そして二人は爽やかに握手をかわしたのだった。