高天原学園 1
この世界では人は猿から進化した説は否定されており、代わりに神話説が浸透している。
かつて地上は悪魔が蔓延る地獄であった。
それを見かねた神は天使を使わし悪魔の力を封じて奪い人間へと作り変えた。
そして人類史が始まる。
その過程で神より科学を授けられた人々はそれを極め世界を高度に発展させていった。
西暦2222年、高度に発達した世界は思想の統一化から国同士が統合されていき大きく5つの勢力となる。
アメリカ大陸の自由思想を主軸としたインディア
北東アジア圏の統制支配思想連合であるシン共和国
EU圏の古き誇りある貴族たちが統治する帝国主義ロマリエ
中東アジアの宗教国家が束なったネハーン
どれにも属さぬしどれにも染まりたくないバランスや調和を思想とした各大陸のつまはじき先進国が集った連合のニュートラリス
ここまでの統合化に至ってもなお世界は偽善と欺瞞、そして戦争による奪い合いを未だに続けていた。
重なりゆく歴史の中でどの思想においても人々は、社会は、どこかで機能不全を起こす。
それは人が悪魔から人にされたが故の業か。
神は我らを不出来な存在のまま見放された。
その境地に達した推論から人々は科学の力によって人類そのものを改変しようと試みる。
インディアが取り込んでいたブレインサイボーグ化はその1つであった。
後日の朝、カンナギ邸ではソウイチとミコノが朝食を取りながら雑談を交わしていた。
「……ブレインサイボーグ化がもしあのまま事なきを得ていたら世界は大きく変わっただろう。世界経済は勿論激変するが、それ以上に危険視されていた普及後に洗脳プログラム送信によるインディアの処置者支配があったかもしれない」
「自由を掲げる連合がそのような非道をするとはさすがに思いませんが」
「そうでなければ説明がつかないよ、様々な懸念と非難を考えたらあのシステムは秘密裏に自国の軍隊強化に使うだけに留めておいたほうがいいからね」
「確かに」
「テロと同時に破壊された研究所のデータが各連合へと秘密裏に送られた。ドーンデモンスという組織の仕業だろう。ジパング政府を通じて我が社もそれを確かめたところ洗脳支配計画は確かにあったようだよ。おかげでどの勢力もどの国家もこの研究を後押しする、システムを買おうとする顧客にはならなくなった」
ソウイチの安堵した顔を見てミコノは少し不機嫌になる。
「まるでそのテロがあって良かったみたいな言い方ですね」
「テロリズムは平和を脅かす行為であることは変わらない。しかしそうしなければ流れを変えられない時もある。というだけさ」
「理解はできるけど納得できません」
「まあお前はそうだろうな。まだ若い。そう、若いのだから若い時しかできないことを今やるといい。恋とかな。ん? どうした? そんなキョトンとした顔をして」
「いえ、てっきり婚約者を決めているから恋愛事はするなという考えかと思っていました。お兄様たちはそうでしたし」
「3人目の子供くらいは自由にさせてやろうということさ。既に会社の後継にできるほどにあいつらは成長できたからなおさらな。誰か気になる人はいないのか?」
「別にいません」
「そうか、ならアプローチをかけてくる子は? 流石にいないことはないだろう?」
「いえ、私、背が高めでパイロットとしての実績が既にあるせいか男子たちからは引かれ気味です。嫌われているってわけでもないですけど」
「ん~、見る目がない男ばかりだな。いや、気概がないという方が正しいか。自分より何かしら優れている・または見どころのある男子もいないか?」
「ああ、それなら昨日転校してきたばかりの留学生のライズがそうでした。戦闘シミュレート成績はオール9、体育訓練でも男子の中でトップ3に入るほどの身体能力でしたし、通常学習においても世界共通の数学・世界歴史などは満点です」
「それは中々だな、では声をかけておきなさい」
「分かりました。我が社へのスカウト目的で声はかけておきます」
「ああ、それなら恋路にならなくても損はないからね」