エクソシスティニズム 6
警察が来る前に入手した構成員リストと計画資料をドーンデモンズ本部へと送信できたため、あとは警察の事情聴取を難なく済ませればいいだけだ。
外国人留学生ということもあって国際マフィアであるアンブレラとの関係性を怪しまれたが今までの経歴やスクールでの活動に不審な点が見当たらないため追及されることはなかった。
後日の朝、スクールへと登校する道中でアラカワが待っていたように声をかけてくる。
「おはよう。ライズ君」
「おはよう」
そのままスクールまで歩きながらライズは説明をしだす。
「……予想はついているだろうけど俺はドーンデモンズの構成員だ。この学園への留学も半分は任務だった。そして昨日のことはアンブレラの構成員のリストがどうしても必要だったからという理由が大きい」
「そっか、話してくれてありがとう」
意外とアラカワは隠し事をされていたことに対する怒りなどはないようでしばらく考えた上で尋ねる。
「なんでテロリストになんてなろうと思ったの? ライズ君の実力ならそんなことしなくたってまともに生きていけると思うけど」
「自分だけならどうとでもなることは自分でも分かっていた。けれど俺はどうもそういう生き方ができないんだ。いや選べないと言った方が正しいか。まともな世の中になってほしい、悪意がない環境であってほしい、とかそういう周りのことをどうしても考えてしまう。それができる仕事をしたいと思った。それがテロリストだったというだけだ。まあ、不器用なんだろう」
「確かに、ライズ君って割り切れてないから妙に親切過ぎて驚くことある。けどそういうところがあるからみんな認めているんだと思う」
「なら不器用でも悪くないか」
「うん、そういえば留学のもう半分の理由はなんなの?」
「ああ、それは単純に年上の同僚たちが復学した方がいいって。というかそうじゃなかったらジパングに来ても恐らくスクールには通わなかった。初めは面倒だと思った。けれど今はこれでよかったと思っている。少なくともクラスメイトは見捨てられない仲間だと思えられたから」
「そっか……」
アラカワは家を出るまでライズの本性はもしかしたらまったく別なのかもしれないと懸念していた
けれど今話して分かった。何も変わらない。
ならもう迷うことはない。
「ねえ、僕もドーンデモンズに入れるかな?」
「え?」
「やっぱ無理だよね」
「いや、そうじゃなくていいのか? 危険を伴うことになる」
「分かっている。でも友達を助けたいと思ったから何かしたい」
「……じゃあひとまず協力者になってもらっていいかな? たまに作戦と重なって学校を抜けなきゃいけないこともあるだろうから。そのごまかしの手伝いしてもらえると助かる」
「お安い御用だよ」
「契約成立だ」
二人は握った拳を頭の位置まで上げて軽く叩きあうように合わせたのだった。
◆
自宅のマンションに戻ればリラがリビングで寝そべりながらニュースを見ていた。
「おかえり~、どうだった?」
「協力者になってくれた。情報漏れの心配はないと思う」
「それは良かったね~、でないと始末しなきゃだもん」
「……ああ、そうだな」
「冗談だって、そんな本気の目をしない。あ、見て、見て、タタリメ財閥の会長っておじいちゃんが言い訳している。これ絶対知っている目だよね~」
チミモウリョウの発注記録はラボに残っていたため関与自体は否定のしようがない。
タタリメ財閥はその上で下部組織が勝手にマフィアと結託してやったことであり、上層部は関与していなかったという回答を出した。
トカゲのしっぽ切りなのは言うまでもない。
このあとタタリメ財閥は信用を一気に失うこととなり、保有している信仰機関連の工場とその製品にはすべて監査が入ることとなった。
スクールに納入されたヤコウもその1つであり、スクール運営側は危険性を鑑みて返却を決め、最近始めたばかりの実技訓練も廃止されたのだった。
◆
休日、ライズとリラは招集指示がかかったため契約の地へと戻った。
デモンズ・ラプラスを据える研究所内でメフィスト教授が現状での分かっている情報を共有するための説明をパイロットたちにする。
「ライズが入手してくれたアンブレラの構成員リストはアジア圏に限定されるものでそれ以外の名前はなかった。漏洩を恐れて管理分散したというより組織内が最低3つの派閥に分かれていると見た方がいいだろう」
「アジア圏ってなるとシン共和国とネハーンか、じゃああと2つリストを手に入れなきゃ一斉に叩くのは無理だな」
そうグレイブが口を挟むとメフィストは否定する。
「それがそうでもない。もう1つの計画資料は結構興味深いものでね、アンブレラが今後関与する案件や独自の開発計画などが派閥関係なく全世界分書かれていた。この情報をラプラスに組み込んで演算させたところ、計画予定をすべて潰せばアンブレラは自然消滅する可能性が高いという結果が出た」
「それだけ巨額の資産を投じているということか」
「そう、そしてこれらを見過ごすとインディアとネハーンは彼らの手に落ちるだろう。他の3勢力もかなり危うい状態に陥る」
「なんだそりゃ、世界戦争でも仕掛ける気かよ」
「世界に喧嘩を売ることは違いない。ただやるのは武力じゃなくてお金でだけど。独自の金融詐欺システムの構築とその実装までの道のりがこの計画資料から読み取れる。メタルマスクの件から洗脳技術もかなり進んでいるようだしそれで各国のメディアや政治家をある程度取り込んでいるとすればできないことじゃないね。データ化されている国家資産を根こそぎ奪える算段があることだけは確かだ」
「そうなったら世界中が飢餓や貧困になる。そこで国土を渡すなら奪った金は返しますよ、って脅してくる感じか。便利なようでデータ管理社会ってのも結局はリスク面で嫌になるよな。紙幣だけの昔時代に行ってみたいね」
「紙幣にもリスクはあるから何も変わらないよ。人に悪意ある限り面倒事は常に起こる」
「だな。叩く規模が規模だ、今回もデモンズ全機を出撃させるしかないか?」
「それが確実だろうけどもう1つ案がある。ここらで5大勢力の善意がどの程度かを計ろうと思う」
ドーンデモンズは計画のために5大勢力を最終的に解体するつもりだ。
ただそれはそれとして今の世界の上に立つ者らの考えを見定める必要がある。
それ次第によって解体後の方針が変わるためだ。
「論ずるまでもなく反対だ。マフィアに媚びる者どもが巣くっている現体制にまともな政治判断などできるはずもない。だからこその今の腐敗はある」
と、ティムは真っ先に意見した。
いつもなら短慮で独善的なティムの意見にだいたい誰かが突っ込みを入れるように別の意見を出すのだが、今回ばかりは信用の話になってくるため難しいのだ。
数分、沈黙が続いていつもと違う雰囲気に気付いたティムは流石に気まずくなったのかグレイブに話を振る。
「グレイブ・ホーン、愚かしき宗教国家の貧困民であった貴様は同じ意見のはずだろう?」
「……まあ、現体制、特にネハーンとシン共和国のやり方に関しちゃ反吐が出ているのは確かだ。各国の政府腐敗は相当なもんだろう。ただそれでももしその中にまともな奴らがまだ残っているなら何とか膿だけ出したいってのもそうだ。それが理想だからな」
「改善や立て直しという前例を作れないなら結局壊して1から作り直すしかないという発想しか生まれなくなる」
と、ライズが補足する。
「今あるものは何も信じられないっていうのも悲しいよね。けど、信じるのも勇気がいるってこと」
そしてリラは心情のジレンマを口にした。
「中立なしの多数決としよう。現状のパイロットは7人、必ずどちらかに傾く」
メフィスト教授の言葉に頷き、パイロットたちはどちらにするか決めた。
結果は、デモンズ全機を出撃させた確実な殲滅案に2票、5大勢力に協力を仰ぐ案に5票となった。