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調合

あれは本当に肝が冷えた。

体調が悪いのか、頭の使いすぎでとうとうどうかしてしまったのかと思った。が、


すー、すー。


聞こえてきたのは寝息だった。


え、寝てる…?

人って極限まで睡眠を削るとこんな状態でも寝られるように進化するんだな。

などと感心してしまったが、そんな場合ではない。


「颯真さん、こんなところで寝てると風邪ひくどころじゃありませんよっ!とにかく一旦起きてください」


何度も肩を叩きながら耳元で呼びかけると、軽くうめいて颯真さんがゆっくりと目を開けた。もっとも、極度の眠気で相当ぼんやりしているらしく、微妙に焦点が合っていない。


「……、亜実、さん?

あれ、僕、ここで何を。さっきまでシャワー浴びて…。いつのまに着替えたんだっけ?」


これは相当だ。でも、よかった、無意識にでも服を着る理性は残されていて。髪は全自動ドライヤーで乾かされているし、服も濡れていないところを見ると、体も同じく無意識に拭いたらしい。

もしも濡れたまま全裸で同じ態勢を見せられていたら、本気で悲鳴をあげていたかもしれない。


「颯真さん、お部屋までもう少しです。歩けますか?」


私の問いかけに颯真さんは、こくりと頷く。

その仕草は幼く見え、ぼんやりと無表情な顔がなんというか、大人の男性に言うのは失礼かもしれないが….か、かわいい。

いつも理知的で隙のない雰囲気との差がすごい。これが世に言うギャップ萌えなのか!

なんとなく得した気分でふらつきそうな颯真さんを仮眠室まで送り届けた。


「あまり無理しないでちゃんと休んでくださいね」


「はい、ありがとうございました、亜実さん」


颯真さんはそう言うと、ふにゃりと笑い、そのまま自動扉に体の半分をぶつけながら室内に入っていった。


残された私は、普段とは違う無防備すぎるその笑顔の破壊力にしばらく動けなかった。




何はともあれ、4人ともそれぞれの態様でガタが来ていることが外部に表れている。

もはや、固形物を咀嚼する時間と労力さえ惜しむ勢いだ。


そこで私は、健康ドリンク作りにシフトすることにした。

ただ、栄養があるとはいえ、妙な味のドリンクを飲ませるわけにもいかないので試行錯誤が必要だ。

祖母から届いた野菜や果物などを片っ端から混ぜ合わせてみる。


最初は妙な、どころか、明確に不味かった。

昔、祖母が、食べ物を不味いなんていうんじゃない、そういうときは、お口に合わないと言うんだ、と言っていた。でもね、おばあちゃん、これは不味いです。不味い以外のなにものでもないです。


混ぜ合わせたものをひとつひとつメモしては少しずつ分量や合わせるものを変えていく。

そうこうしているうちに、だんだんとコツを掴んできた。大事なのは比率だ。料理は科学と言われるのも納得だ。あとは、材料の相性もあるが、比率さえ間違えなければ、クセの強い組み合わせでも、いいアクセントになることもある。


いくら栄養をたくさん取らせたいからといって、たくさん入れればいいってものではない。適度に入れて、味を整える。


「よしっ、今日も成分よし、味良し、喉越しも大丈夫!」


今日のはなかなか美味しくできたのではないか。完成品の味見をしてみて自画自賛しつつ、人数分のグラスに特製ドリンクをそそぎ、片手間でも飲みやすいようストローをさした。

後はこれをいつも通り届けるだけ。

私はグラスの載ったお盆を手にして、意気揚々と研究室に向かった。

いつも通りが崩れてしまうことなど思いもよらずに。

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