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名声

「え?えっと、あの、知りません、けど…?」


いきなり飛んできた質問に困惑したが、確かに気になるかも。


「じゃあ、あててみてよ!」


「ええぇ、うーん、研究に必要、とか?」


自分で言いながら、どんな研究だ、と脳内でツッコミを入れてしまう。あ、でも人体の研究が参考ならあり得るか?自分が実験台的な。


「ざんねーん、違いま〜す。ちなみに、くもっちが学生時代からやってるのは地質調査!今も、この人工都市の地盤の改良を進める機関の研究員として働いてるんだ」


なるほど〜。全然筋肉関係ないな。


「なら、わかりません」


「そう?じゃあ正解言っちゃおうかな。正解は、対人関係克服のため、でした!」


「はい?」


「あは、これだけ聞いてもよくわからないよね〜。

くもっちって、もともと極度の人見知りだったらしいんだけど、研究ってチームプレーだったりもするからさ。コミュニケーションとれるに越した事はないんだよね。で、編み出した解決策がなんと筋肉だったってわけ。本人曰く、『相手より自分の方が強いと確信できれば、いつでも相手を制圧できると思えて心に余裕が生まれる』らしいよ」


ん……?詳しく聞いても、よくわからないんですが。

えっと、つまり、さっきとか私のこといつでも制圧できるぞって思って会話してたわけ?

確かに、実際私なんて一捻りでしょうけど!


「お、おもしろい理由、ですね?」


「だーよね〜」


非凡な発想力も、Sクラスの研究員には必須スキルなんでしょうね、きっと。


あまり詳しくないが、颯真さんは、情報系だと聞いている。研究データの管理に必要不可欠な管理システムや機密情報の保管システムの開発だとか。

八雲さんは地盤、颯真さんはセキュリティ、2人ともこの都市の根幹をなすような重要な分野に携わっているのだ。ほんと、すごい人たちだ。この結婚がなければ一生お目にかかることもなかった人たちだろう。人の縁って不思議だな、と改めて感じる。


そんな2人と肩を並べる宙良さんや舞香さんは何を研究してるのか気になってきた。学会常連の人同士なら互いの研究も知ってるだろうが、私には縁遠い場所だ。

おそらくみんな論文とかバンバン出しているだろうけれど、私は論文もほとんど読んだことない。初日に聞きそびれて以来、いまさら聞くのは失礼かと思って聞くに聞けなかったが、この流れなら聞いてもいい気がする!


「あのー、ちなみに、宙良さんたちは何の分野を研究されているんですか…?」


「あぁ、それね!やっぱ気になっちゃうよね〜。

俺はねー、人物認証システムの開発・改良!より正確に、より速く認証できるものを作って、研究室や都市の出入りの管理とかやってるよ。防犯系、セキュリティに役立つって面では颯の分野に近いのかな。

で、マイは、人体系って言ったらいいのかな、ネモフィラの中って人が1番過ごしやすい環境してあるでしょ。体感とか体調とかと気温や湿度の相関関係なんかを研究してるって感じ」


みんな分野はバラバラらしい。共同研究って、一体何をやってるんだろう。一瞬そんな疑問が頭をよぎったが、聞いても理解できなかったときに気まずいからやめておこう。


「抽象的でわかりにくかったかな?」


考え込んでいた表情を読まれたのか、宙良さんに気を遣われてしまった。


「あ、いえ、そんなことは…」


「うーん、あ、そうそう、学生時代に個人研究として、俺は双子でも顔認証で識別できるシステムの開発、くもっちはいろんな材質を使い分けてネモフィラの模型を作りまくって比較研究、颯は知ってるかもだけど、自分で発見した定理を応用したセキュリティソフトの開発、マイは気候条件に合った服装を提案するコーディネートアプリの作成をしてたんだ。それで卒業後は、それぞれ研究室からお呼びがかかったり、個人で研究続けたりしてるんだよね」


へぇ〜、ほんと、学生時代から格が違いますな。

双子って一卵性でも?そういえば、祖母の家に住んでいた頃、近所に一卵性の双子がいたが、失礼ながらよく姉と妹を間違ってしまっていた覚えがある。そんなシステムがあるなら、むしろ対面で会った時にもそれで確認してから声をかけたいくらいだ。

模型作りまくるとか、気が遠くなりそう。研究者には忍耐力も必要なんだなぁ。

颯真さんの研究、もちろん知りませんでした。というか、自分で発見した定理って?え?そんな簡単に見つけられるもの?じゃ、ないよね。


そこまで考えて、私は、学生時代の研究について、颯真さんが話していたことを思い出した。

たしか、クラスメイトがアプリの研究をしていたとか、自分も実験台になっていたとか。もしかして、それって…。


「舞香さんの作ったアプリってこれじゃないですよね?」


私は自分のスマホにインストールしてあった、この前の旅行でも大変お世話になったアプリを、宙良さんに恐る恐る見せる。


「あー、そう!これこれ!」


「ええぇ!うそっ、ほんとに⁈」


「あはは、そんなに驚くー?」


「だって、めちゃくちゃ人気アプリじゃないですか。そんな有名なものを作られた方だなんてお会いできて光栄すぎて恐縮で」


驚きのあまり意味不明な言葉遣いしか口から出てこない。

しかし、無知とは恐ろしい。作成者も知らずに便利なものを享受するだけしている。確かにネモフィラは、名を上げすぎて私利私欲に走らぬよう、あまり大々的に1人1人の研究者を特別扱いすることはない。そうやって、この都市は名も知られぬ研究員たちの努力の積み重ねによって支えられている。


それが正しいことなのかはよく分からない。でも、その献身がほとんど知られることなく、当然にネモフィラの一部になっていくのは、なんとなく寂しい気がしてしまう。報われない気がしてしまう。

ネモフィラの常識を受け入れられない私の方が、おかしいのだろうか。

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