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視線の先

「颯真さん…!」


目の前に立つ人物は颯真さんだった。


「随分と時間が経ったのに戻って来ないので」


「お待たせしてすみません!お湯が足りなくて、ちょっと時間かかかってしまいました」


「そうでしたか」


「えー?そんな時間かかってなくなーい?颯ったら心配性⁇」


にやにやと、どこかおもしろそうに宙良さんが言う。


「まあね、宙良が迷惑かけてるんじゃないかと思って」


颯真さんにそう返された宙良さんは、不満そうに口を尖らせて、


「えっ?そっち?いや、俺のことなんだと思ってるのさ、もぉー。ちょっとちょっと、みんな聞いてよ、颯がひどいよぉ〜」


さっさとひとりでテーブルの方に行ってしまった。


「ちゃんと手伝ってもらいましたよ」


さすがに宙良さんが少し気の毒な気がして、一応フォローをしておく。


「……。そう、ですか。僕たちも行きましょうか」


一瞬、謎の合間があった。その間、颯真さんはこちらをじっと見つめていたが、間の理由も、視線の意味も、颯真さんの表情からは何も読み取れない。舞香さんなら何かわかったのだろうか。

チラリとそんな考えが過ったが、あえてそれ以上は考えず、とりあえず宙良さんの後に続いた。


ーーーーーーーー


お家訪問から3週間が経った。

あれから、3人はほぼ毎日来ては颯真さんの部屋か、その隣の空き部屋にこもり、研究を進めているようだ。


助手とは名ばかりの私にできることといえば、差し入れに軽食や飲み物を持って行くくらいだ。あと、静かにしていること。


今日も先ほどおにぎりと温かいお茶を差し入れてきたところだ。


みんな相変わらず忙しそうにはしていたが、まだ、切羽詰まっているわけではなさそうだ。


なぜ分かるかというと、この前、3人が偶然キリがよかったとかで揃って帰ることがあったが、そのときに、


「俺とマイの格好がやばくなったらいよいよ追い詰められたんだなって思ってね!」

と宙良さんが言っていた。


最初は冗談かと思ったが、


「ま、自分のことも整った格好してるって認識してるあたりムカつくけど、否定はできないわね」

と舞香さんも言っていたので、割と本気で言っていたようだ。


「実際そうでしょ。颯はなんというか、無難すぎて何着てるか印象に残んない感じだし、くもっちは……、筋肉着てればその上に何着ても同じみたいな?」


筋肉着てるって……。まあ、言い得て妙だ。

舞香さんはツボに入ってしまったのかお腹を抑えて笑っている。


「お前ももう少し筋肉をつけろ。いいぞ、筋肉は」

八雲さんが、宙良さんの後ろからぬっと現れた。


この人がちゃんと喋ってるのは珍しい。筋肉が話題なら話すのかな?今度試してみたいが、私には知識も筋肉そのものも足りなさすぎて、すぐには難しいかもしれない。


「えぇー、むりむり〜、っていうか、俺には今のスタイルがぴったりなの!くもっちの体に俺の顔乗ってるの想像してみてよ、似合わないっしょ?」


「そうか?」


「そうだよ〜、ねぇ、マイ、亜実ちゃん?」


確かに想像してみると、びっくりするぐらい似合わないが、素直に言うのも失礼な気もして、私は、はあ、とかなんとか言って曖昧に微笑んでおく。


一方、舞香さんは、

「ぶっ!何想像させんのよ!おかしいったら、あははは、〜〜〜っ!」

今度こそ堪えきれないと言った感じで盛大に笑い転げている。


正直意外だった。一見クールビューティーに見えていたけど、舞香さんはどうやら感情表現が豊かな人のようだ。そして、見た目とはギャップがあるが、それも魅力的に見える。


「随分楽しそうだね」


「あ、颯真!だって、宙良がね〜、……」


笑い声を聞きつけたのか、こちらに向かってくる颯真さんにかけ寄り、舞香さんが説明を始める、満面の笑みで。

その笑顔は、先ほどまでの笑顔とは少し違う気もして、話し込む2人を思わず見つめてしまう。


と、ふと颯真さんはこちらに視線を向けた。一瞬目が合い、ドキッとした。が、


「忘れ物、八雲のかな?」


と、私を素通りして八雲さんに話しかけた。自意識過剰か、私。見過ぎでいたのがバレなくてほっとしたのと同時に、少し寂しい気もしてしまう。


「それ、ハンドグリップじゃない。八雲以外に誰がいるのよ」


「あ…、悪い。ありがとう」


八雲さんは颯真さんに近づいてハンドグリップを受けとり、大事そうに仕舞った。愛用品のようだ。


「いつも持ち歩いてるわけ?」


「まあ、だいたい」


「それ、考え込んでるときよく握ってるよね」


「体を動かすと考えがまとまる」


「……。独特ね」


八雲さんも交えて、また楽しそうに話し出す。


「ねぇ、八雲がなんで鍛えてるか知ってる?」


「⁈」

突然視界に宙良さんが入ってきて驚いた。いつの間にか隣にいた宙良さんが、私に目線を合わせるように私の顔を覗き込んでいたのだ。

どうやらまた、3人、正確には、主に舞香さんと颯真さんを見つめすぎてぼーっといたようだ。


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