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ゆらゆらと

キッチンについた私は、残った紅茶を流しに捨てて、カップにお湯を入れてすすぐ。

せっかくなので、先ほど出したものとは違う茶葉をポットに入れようとして、電気ケトルのお湯が少なくなっているのに気がつく。

5人分を淹れ直すとなると足りない。

仕方がないので、水を足して、お湯が沸くまで待つことにする。


ふつふつと水がお湯になっていく様を見つめながら、私はずっと2人のことを考えていた。

2人だけの世界とは言い得て妙だ。まさしく誰も入り込むことなどできないような、2人だけで完結している空気感。

もちろん、付き合いが長く、子供の頃から一緒の家族のような関係なら、他人が入り込むのが難しいような親密さがあるのは仕方がないのかもしれない。


それでも、本当にそれだけなのだろうか。

私には家族と呼べる人は祖母しかいなかったし、“きょうだい”というものもよくわからない。

だけど、たとえ同じ年月を私と颯真さんが過ごしたとしても、あんな空気感を出すことはない気がする。

それくらい、2人の世界は特別に見えた。


それを目の当たりにして、どうしようもなく胸がざわついた。他のみんなを置き去りにしていくことへの怒りなのか、離れていってしまうことへの哀しみなのか。はたまた、どんなに手を伸ばそうとも見えない壁を乗り越えられないことへの焦燥感なのか。

捉えどころのない感情に支配されて、我を忘れそうになる。あの空気を、どんな手を使ってでも壊してやりたくなる。

この激情は……、“嫉妬”だ。


ああ、私、嫉妬しているんだ。

そう気づいて、私はいつの間にか、颯真さんにとって自分だけ特別だと思い込んでいたのだと恥ずかしく思った。たった半年かそこらの付き合いで、何を勘違いしているのだろう。

私は、私には……。



ピピッ。

突然聞こえた電子音にハッとする。どうやらもやもやと考え込んでいる間にお湯が沸いたらしい。


「えっと、俺、手伝うこと特になかった感じ?」


「あ、、」


そういえば、いたな、この人。

ここでようやく宙良さんの存在を思い出した私は、慌てて取り繕う。


「ええっと、あの、茶葉何かお好みのやつあります?といっても家にあるのはこれくらいなんですけど」


言いながら、茶葉の入った缶をいくつか取り出し、宙良さんに見せていく。


「いやー、特にこだわりはないんだけどね〜。正直あんまり詳しくなくてさー。ハーブティーマニアの子に教わってハーブなら少しはわかるんだけどねぇ。うーん、これとか?なんとなくだけど」


どうでもいい情報を、さらっと入れつつ、宙良さんが缶を指さす。


「わかりました」


私はその缶を手にとってポットに入れていく。

勝手にキッチンについてきたとはいえ、お客様相手に沈黙してばかりなのも失礼なので、話題を捻り出す。


「ハーブティーマニアって、もしかして彼女さんとかですか?」


「ん、あー、ふたつ前の元カノ!あれ?いや、その前だったかな?うん、そうそう、たぶん」


「……。あ、そうなんですかー」


適当だな。

私がちょっと呆れた雰囲気を出してしまったせいか、宙良さんは首をすくめながら、


「いや、俺、なんか長続きしなくてさ。すぐ彼女変わっちゃって。だから、マイの言うことも図星な部分もあったっていうか。それで、カッとなっちゃったりして?ごめんね、空気悪くしちゃって……」


しおらしく言う。その殊勝な態度に、安易に突っ込んだ質問をしてしまった自分を申し訳なく思った。

でも、謝るのも否定するのも、よく知っているわけでもないのに迂闊にできない気がして、


「いえ…。全然、私は気にしてませんから」


曖昧な答え方しかできない。

ほんと、ダメだな、何やってるんだろう、私。

ひとりで勝手に自己嫌悪に浸りそうになっていると、


「そういえばさ、俺たちばっかり喋っちゃって、ちゃんと俺らのこと紹介できてないよね!亜実ちゃんのことも全然聞けてないし!さ、早く淹れて戻ろ!ね!」


宙良さんは、殊更明るく言う。


この人、案外人のことよく見てるのでは…。

よく考えてみると、そもそもついてきたのも私を気遣って……?まさか、ね。


こちらをニコニコと人好きのする笑顔で見てくる宙良さんは、何も考えていなさそうにも、わざとそう振る舞っているようにも見える。


どちらにせよ、ぐちゃぐちゃと考えているのがふとバカらしくなってきて、私もつられて笑いながら、颯真さんたちのいるリビングに急いで向かおうとした。


すると、こちらに向かってきた人物とぶつかりそうになる。間一髪で互いに立ち止まったため、紅茶はなかなかに波打っていたが、事なきを得た。

しかし、私は紅茶の安否など二の次で、その人物を見て、ただ目を丸くしていた。

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