姉弟のような
「颯が笑ってるなんておかしい!」
「何言ってんのよ、あんた」
しらーっとした目で宙良さんを見る舞香さん。
美人がそんな顔をすると凄みがある。宙良さんは若干たじろぎながら、なお言い募る。
「いや、だって、颯の笑ったとこなんて見たことある?ていうか表情筋あんなに仕事してたことある⁈」
「笑うわよ、颯真だって。確かに前はもう少し控えめだったけど」
「えー、そうだった?いや、絶対見たことないって、ねえ、くもっち」
宙良さんは同意を求めようと八雲さんに向かって言う。
くもっち……。マスコットのようなかわいらしい呼び名がこんなにも似合わない人にそう呼びかける宙良さんってすごいな。私は妙なところで感心してしまった。
宙良さんの言葉を受けた八雲さんは、
「ああ」
と短く答えた。
ほんと喋らないな、この人。
「ほらぁ、やっぱり!」
八雲さんの同意を得て勝ち誇ったように言う宙良さん。
「いや、あんたたちが気づいてなかっただけでしょ。変化に気づけない男とか、だからすぐフラれるのよ」
「今それ関係ある⁈ていうか、マイは付き合い長いからわかるだけでしょ。はい、幼馴染マウントやめてくださーい」
「はあ?してないわよ!」
あぁ、この人なんだ。不毛なやりとりを繰り広げる2人の会話から、私は確信した。
以前、颯真さんの話に出てきた、颯真さんが前へ踏み出すきっかけを作ったうちのひとり。名前が同じだからもしかして、と思っていた。きれいで頭が良くて、一緒に研究までできちゃうなんて、私とは正反対だなと思う。だから何だと言えばそれまでだが、胸がざわめく気がする。なぜなのかはよくわからないけど。
なおも続く言い合いに、颯真さんがようやく割って入る。
「せっかく亜実さんが出してくれたんだし、みんなも食べたら」
そう言ってマドレーヌをひとつつまみ、口に入れる。
「……!颯真っ!え、大丈夫、なの…?」
舞香さんが焦ったように聞く。
「あぁ、うん…。もう、大丈夫。ごめん、ずっと、心配かけて」
「ほんとよ!!まったく!」
「本当にごめん、それと、ありがとう」
2人の会話に宙良さんと八雲さんはついていけていないようで、何事かと見ている。
颯真さんに昔の話を聞いていた私は、もしかして、と思い至る。マドレーヌだ。いや、厳密に言えばそれは本質ではない。食べ物を口にした。そのこと自体に意味があるのだろう。
「ちょっとちょっと、また置いてきぼりー?」
宙良さんは少し拗ねたように呟くと、困った顔でこちらを見る。
「ごめんねー、亜実ちゃん。この人たちたまに2人だけの世界に入っちゃってさー。俺らは置いてきぼりなわけ。って、あ、いや、違うよ?なんていうか、そう、きょーだい!きょうだいみたいな感じらしくて、ね?」
またもや八雲さんに同意を求めると、八雲さんは黙って頷く。
何が違うのかよくわからないが、たぶん宙良さんなりに私に気を遣っているのだろう。なんと答えればいいのかわからず、曖昧に微笑んでいると、
「ちょっと、宙良!何勝手なこと言ってるのよ!こんな手のかかる弟なんて欲しくないわよ!」
こっちの会話もしっかり聞いていたらしい舞香さんは律儀に返答した。
「ええー、舞香が姉の方?」
宙良さんは心底驚いたと言った表情を作る。
「なによ?」
「いやー、だって、あ、でもそっか、暴君な姉ってことか」
最後の方は独り言といった感じで呟いていたが、舞香さんにもしっかり聞こえていたらしく、
「なんですって⁈誰が暴君だっていうなよ、だ、れ、が!」
「そーいうとこじゃん」
火に油を注ぐどころかガソリンに引火させている。
舞香さんは眉を釣り上げ、怒りを露わにしている。すごい迫力だ。っていうかこれ、大丈夫なのかな。
私は険悪な雰囲気にどうしていいのかわからずおろおろしていると、
「2人とも、そこまで。宙良、何か言うことは?」
颯真さんは、無表情のまま、落ち着いた声で言う。でも、なんだろう、どこか冷え冷えとして聞こえるのは気のせいだろうか。宙良さんもその雰囲気に気付いたのか、
「えっとぉ、あのー、ちょっと言い過ぎました?ゴメンナサイ」
謝罪を口にする。
「……。別に、」
舞香さんはティーカップを手にして、冷え切ってしまった紅茶を飲もうとする。
「あ、冷めちゃってますよね。淹れ直してきますね」
私は勢いよく立ち上がり、ティーポットを手にキッチンへ向かった。
「俺も手伝うよ」
居心地の悪さを感じたのか、宙良さんも、そう申し出て、私の後をついてきた。
だんだんと4人の人柄や関係性が見えてきました。が、なんだか不穏な雰囲気で終わってしまいましたね、、
次回以降、気になる颯真さんと舞香さんの関係が徐々に明らかになってきます。また、亜実ちゃんの心境にも注目してお楽しみいただけたらと思います。
次回もよろしくお願いします。




