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お家訪問

ピーンポーン ピーンポーン

来客を告げる音がした。


今日は、颯真さんの元クラスメイトたちが来るとのことで、私は朝から念入りに準備をしていた。掃除ロボットをフル稼働して家中をきれいにするのはもちろん、来客用に新しく買った食器類を軽く洗って使えるようにしたり、お茶の用意をしたりと大忙しだ。

颯真さんも手伝いを申し出てくれたけど、大丈夫だと言って断り、颯真さんには自室でいつも通り研究をしていてもらっている。

こういうことこそ私の出番!なんといっても私は颯真さんの助手なのだから!本来の意味合いとはかけ離れている気もしなくもないが。


インターフォンの音を聞きつけてリビングにやってきた颯真さんは、


「来たみたいですね。僕が出ますので、すみませんが、お茶の用意お願いします」


と、少々申し訳なさそうに言う。

今までは一人暮らしでたいていのことは自分でやってきたせいか、颯真さんはあまり人を使うのに慣れていないらしく、何かを頼むときはいつも恐縮している感じだ。

でも、仮にも夫婦なのだから、相互扶助はあたりまえ。何より私がしたくてしてるんだから、そんなに気にしないでほしい。そんな思いが伝わるように、努めて笑顔で言う。


「任せてくださいっ!」


声が上擦った。ちょっと語気が強すぎたかな。恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。

そんな私を見て、颯真さんは、クスッと笑う。


「ありがとうございます」


恥は晒したけど、颯真さんの笑顔が見られたから、まあ、いいか。


なんて思ってしまっていた私は、最近の穏やかな日々に、気が緩みすぎて忘れていたのかもしれない。自分はこの都市においては無価値だということを。


ーーーーーーーーーー


何やら玄関先が人の気配と話し声で賑やかになっているな、などと思いながら、紅茶を淹れていると、


「おっ邪魔しまーす!うわぁ、ほんとに存在してる、奥さん!!いやぁ、どうもどうも、いつも旦那さんをお世話してます、榎本 宙良そらって言います!」


……。とてつもなく騒がし、いや、賑やかな人がリビングに入ってきた。

少々面食らいながら、入ってきたその人を凝視してしまった。柔らかそうな茶髪にスラリとした長身で、華やかな顔だちをしている。こういうのを甘いマスクというのだろう。ちょっと鼻につく気がするのは気のせいに違いない。


「うらやましいなぁ、こんなかわいい奥さんが四六時中サポートしてくれるとか!そうのやつめ!全然そういうのきょーみありませんってカオしておいて〜、あ、ねえ、名前なんていうの⁈」


ペラペラ軽快に喋っていたその人は、こちらを何かを期待するように目で促してくる。


「ええと、はじめまして…、妻の亜実、です」


「オッケー、亜実ちゃんね!よろしく!」


亜実“ちゃん”……。新鮮な呼ばれ方をした。親にも周囲にも呼ばれたことないな。

戸惑いながら、彼の後を追って入ってきた颯真さんの方を見ると、ギョッとした顔をしていた。こちらも大変新鮮な表情だ。この表情を引き出した点では評価してやらなくもない。信じられないくらい軽薄そうではあるが。


「亜実さんが驚いているでしょう。もう十分喋ったみたいなので、しばらくは黙っていてください」


気を取り直した颯真さんは、絶対零度の冷たい目線で宙良を見ていた。


「ええぇ!せっかく今日は奥さんとの交流会なのに⁈」


「は?何それ、聞いてないんだけど。普通に打ち合わせじゃなかったわけ?」


颯真の後ろから今度は女性が入ってきた。いや、ただの女性じゃない、超美人な女性だった。少しつり気味の目は猫のようで、真っ黒なロングの髪は超ストレートで艶っぽい。すごい、あの髪どんなお手入れしてるんだろう。


「宙良のことは放っておこう。それより、こちらが亜実さんだよ」


美人さんに見惚れていたら、紹介された。私は慌てて、


「あ、亜実ですっ!!よろしくお願いします!」


今度は緊張で、またまた声が上擦った。颯真さんがまた、堪えられないといった感じでクスクスと笑う。


すると、美人さんは信じられないものを見たように目を見張った。


え、私の自己紹介そんなにおかしかった?お目汚し、いや、お耳汚しすみません!と一瞬思ったが、どうやら彼女が見ているのは颯真さんの方だったようだ。見ると、他の2人、宙良さんといつの間にか入ってきていたもう1人、も同じような目で颯真さんを見ていた。


「みんなどうかした?ああ、そうそう、亜実さん、こっちの髪の長い人が舞香で、こっちのでっかい人が八雲です。ほら、とりあえず、みんな席について」


そう言って颯真さんは、まだポカンとしている面々をテーブルに誘った。

雑な紹介だな、とは思ったが、確かに特徴は掴んでいる。八雲と呼ばれた人は、大柄で、筋肉の塊といった感じだ。彼の研究は重労働なのだろうか?顔はワイルド系、一定の層に需要がありそう。


4人が席に着くと、なんとも華やかだ。もしかして、学力の偏差値と顔面偏差値は比例しているってデータがあるんでしょうか。


私は、4つの紅茶の入ったカップ、ミルクとお砂糖の容器、そして大皿に載せたマドレーヌをお盆に載せてテーブルに向かう。ちなみに、好みがよくわからないので、マドレーヌは、プレーン、チョコレート、いちご、抹茶といろんなフレーバーを用意してみた。


「よろしければどうぞ」


美形の雰囲気に圧倒されつつも、なんとかテーブルに並べ終えると、


「ありがとうございます、亜実さん」


颯真さんが微笑みかける。

またもやポカンとする3人。

どうしたのだろうか。


と、一番最初に回復したらしき宙良さんが、立ち上がるとともに向かいに座っている颯真さんを指差し、


「颯、おまえ、頭でも打ったのか⁈それともニセモノ颯なのか⁈そうだ、そうに違いない、だって、だって…!」


そう、捲し立て始めた。

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