空中都市・ネモフィラ(1)
目が覚めると、見覚えのない天井だった。
ああ、そうか、私、昨日結婚したんだった。
ベッドから起き上がると、まだ整理が済んでいないため、隅の方に段ボールが積み上がっていた。
片付け……は後にして、とりあえず朝食だ。
洗面所で顔を洗ってから、昨日、婚姻届を作成したリビングに入り、併設されているキッチンに行くと、電気ケトルがあった。昨日案内された時に、颯真さんがこの家に置いてあるものは基本共用で使っていいって言ってたな。ということで、ありがたく使わせてもらい、お湯を沸かした。
お湯が沸くまでの間に部屋に行き、段ボールの中からなんとか発掘したマグカップを取ってきて、そこにお湯を注いだ。
なんとなく昨日座っていた椅子に座り、朝のルーティンとして白湯を飲む。
そういえば、颯真さんどうしてるのかな。昨日、部屋にこもるといっていたが、研究か何かだろうか。
颯真さんは、いわゆる天才数学者というやつらしい。幼少期からその才覚を発揮しており、学生時代から既に仕事を任されたりと、この都市で若くして重要な人材とされているようだ。
この家も、都市が管理するマンションの1室だけど、もとは颯真さんが研究に打ち込めるように用意され、颯真さんに合わせて改装が施された家で、1フロアまるまる貸切だ。しかも、補助がたくさん出ており、家賃はほとんど払う必要はないとのこと。
私は妻という身分だけでその恩恵を受けることとなった。え、大丈夫?これ、私だけ施設使用料請求されたりしない?
それくらい破格の扱いを受けている颯真さんの研究内容は、コンピュータのシステムとかに役立つものらしいけど、詳しくはよくわからない。
一方、私の学生時代の成績は、下の下、いや、もはや底辺といっても過言ではない!ドヤるところではまったくないが。
プログラミングとかも苦手だったなー、よく補習受けさせられてたっけ。
そんな私と颯真さんは全くもって釣り合わない。自分で言ってて悲しくなるけど。颯真さん、よく結婚の了承したな。この結婚、誰が1番得してるかって、完全に私だよね。
昨日は夜ということもあって、ナーバスな気持ちになってしまったが、“多少”人間味が薄かろうと、私ごときが文句を言える立場では決してない。正直、壁に話しかける方が会話盛り上がりそう、とか、人工知能の方が感情豊かそう、とか思ってすみませんでした!
そもそもこの縁談は、両親が持ちかけてきたものだった。というか、あれは脅しといった方がいいかもしれない。まあ、私の能力の低さが招いたことなのだけど。
とはいえ、元をただせば原因はこの都市の特殊性にある。私はこの都市に必要な能力が低いだけ。
そう、この都市はどうかしている。