日常に戻って
テーブルにお箸を並べて、料理を盛り付けたお皿を置いていく。今日のお昼は冷豚しゃぶうどんだ。
お昼ごはんはワンプレートものが多い。私の作った料理を食べるようになってから、颯真さんは大変規則正しい生活をしているが、やはり、忙しそうなのは事実。だから、ごはんを食べる時間を少しでも短縮できるように心がけているのだ。まあ、作る方も楽だし、後片付けもしやすいし。決して後者が主な理由ではない、断じて違う、うん。
旅行から帰ってきて数日が経った。颯真さんにとってとてもいいリフレッシュになったようで、最近は特に研究に没頭しているようである。
私たちの関係は…、あまり変わっていない。確かに以前よりもお互いを大切にしているし、表面上の付き合いではなくなってきている。だが、それだけ。
別に、私だって現状に不満はない。ただ、少しでも多く話していたいし、意味はないけどそばに居たいとか、顔を見ていたいとか、思うようになっただけ。自分でも自分がよくわからない。だって、あの、颯真さんだよ?数学が頭の中の9割を占めてる人でしょ。残りの1割のうちどれだけの割合を占めても、数学には絶対勝てない……。人ならまだしも学問にどうやったら勝てるの。誰か教えてほしい。
と、いうわけで、結論、私は何もアクションを起こすでもなく、今まで通りの日常を送っている。
少し前にお昼ごはんができそうだと言っておいたおかげで、テーブルの用意ができた後、まもなく颯真さんがリビングにやってきた。
2人揃って、いただきます、と手を合わせて食べ始める。
いつも通り、他愛のない話をしながら、いつのまにか食べ終わる。
食後は食器を片付けてすぐに自室に引き上げていくはずの颯真さんだが、今日はリビングにとどまっている。不思議に思っていると、颯真さんが話しかけてきた。
「あの、亜実さん」
「はい?」
なんとなく改まった話し方で、雑談とかではなさそうだ。
「明日の午後、人を招きたいのですが、いいでしょうか」
「お客さんですか?いいですけど。お友達ですか?」
自分で聞いといてなんだけど、颯真さんって友達とかいるのかな……?
「ええ、まあ、学友ですかね。学園時代のクラスメイトたちなんですけど」
いたんだ。しかも複数。ごめんなさい、失礼なこと思って。
「何人くらいいらっしゃるんですか」
「3人です。この前少し話したかもしれないですけど、今度新しく取り組もうと思っている研究を共同でやろうかな、と」
「そうだったんですね!私が来てからからお客さんなんて初めてですね。午後ですよね、準備しておきますね」
「適当で大丈夫です。わざわざ亜実さんのお手を煩わせるような相手じゃありませんから。部屋も余っているし、うちが一番ちょうどいいって話を進められて押し切られただけで。まったく、勝手で困ります」
颯真さんはそう言って、少し眉をひそめているが、本心から嫌がっているようには見えない。なんだかんだ仲のいい間柄なのだろう。
「ふふ、そんなこと言わずに。みなさん甘いものとか好きでしょうか」
「ええ、よく疲れると糖分を欲しがってましたから好きだと思いますよ」
いつも丁寧な颯真さんだが、クラスメイトの話をするときは少し扱いが雑な印象だ。それだけ気を許している存在なのかもしれない。これは明日が楽しみだ。普段とは違う颯真さんを見られるかも!大いに期待できる。
「わかりました。じゃあ、何か作っておこうかな」
「すみません。ありがとうございます、亜実さん」
颯真さんはそう言ってほっとしたように微笑んだ。
私も笑顔で応えながら、友達ってどんな人たちなのだろう、とか、何を出そうかな、とか考えながらわくわくしていた。