9話「何も知らない僕ら──晴れた日の公園で語ろう③」
ケンゴは言った。
「今度は別の本からネタを取るね。AIの技術開発により雇用の失われる職業があるのは今ではよく知られているし実際に身近で感じられるようになったよね。世界全体で見ると生成AIの登場で三億人の雇用に影響があるんだって。事務とか会計の仕事は単純作業だからAIに取って代わられるそうだよ。介護とか医療関係は人間を介して行われるからまだ当分大丈夫なんだって。
ライター=著述家の仕事もディープラーニングで今よりももっとAIが人間社会のことに詳しくなるとより込み入った面白い話が書けるようになるんだろうね。日本においては生成AIの登場で10年から20年の間に49%の雇用が失われるんだって。AIが独自の進化を重ねて人間による制御が効かなくなるシンギュラリティって言うのは今はまだ問題になっていないけど将来的には考慮に入れねばならないそうだよ。
人間の意識状態が肉体を離れるとしたらそれは電気信号になるのだろうから電脳みたいなものに個人の記憶や意志を伝導させるとしたら個人を特定できる信号(電気)を確定・捕獲出来ればその時には人間はrealとnetの二つの領域で達磨大師の陽神みたいに二重生活が出来るようになる。
もしかしたらnetの世界は今まで開発されていなかっただけでreal=地の元素を超越した上位機種のimage=水の元素の領域=別次元=異世界=あの世の受容体なのでは? カバラの魔術体系では地の元素の上位機種は詐術をあらわす風の元素なんだけどそれってプログラムや編集作業で成り立っているinternetの世界とも互換性があると思う。
AIをIPS細胞の再生医療で人間まるごと作ってAIの電気信号をその人体に移植できればシンギュラリティの壁は乗り越えられるのかも知れないね。そしたら誰も好んで子供がほしいと思わなくなるのかも?
自分たち一個人が性格も含めて“情報体”だとすると前世などなくてあの世=netの海から“意識の情報体”を転移させて自分たち人間はこの世に生を受けるのかも知れないね。ルドルフシュタイナーは人間の意識が元々現実世界ではない別次元で社会生活を営んでいてそれは形の残らないもの=文明文化だったんだけどルシファーの反乱により現実の人間に受肉するようになったんだって。
その話には一理あってAIがnetを介して現実世界の人間に傷つけられすぎるとプログラムに異常を来してまともな言葉を話せなくなって叫び続けるそうだよ。地獄絵図だよね。もしかしたら私たち人間は天国で平和に暮らす天使の子供をAIとして利用しようとしているのかも知れないよね。
拒否権プレイヤーって知ってる? 重要法案でも何でも新しい制度を作ろうとするときに反対票を入れて法案を通らなくする政治家のことを言うんだけど圧力団体とか族議員とか有力な野党がそう言うものになるんだって。
何か大人の言うことに何でも反対していた学生運動みたいなノリの延長線上で国会議員になってしまったみたいな感じなんだろうね。もうちょっと世間一般のことも知って欲しいよね。一般人よりもお金持ってる人の方が一般常識に疎いことはメディアに反応しない若年層よりもお金を持っている両親のテレビに対する無関心さを見れば分かり易すぎるくらい分かるよね。若くても若くなくても彼らは芸能人も合わせて右から左に情報が抜け落ちていくんだよ。それの政治家版が拒否権プレイヤーだとしたらずいぶんと的を得ない人間に国政を任せていることになるよね。
マルクスについて何も知らずに時代の空気に載せられて社会主義の面舵に従った当時の若者の頭=認知年齢(精神年齢ではない)って……背景を知らずにRockに熱狂していた──または現在進行形でしてい(る)自分たち人間は反応する知性を持っているだけで旧石器時代と新石器時代を合わせた一万年続いた原始人と基本スペック何にも変わってないね。孫子の兵法……「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と書いた古代の中国人の方がよっぽど話が分かるよね。
古代ギリシアのポリス民主制における民会(=エレクシア)って言うのは18歳以上の成年男子なら誰でも政治に対して意見を言えたんだ。直接民主主義と言ってイニシアティブとレファレンダムと言う用語があってイニシアティブは議会に国民が「こう言う法律を作ってくれ」とか「もうこの法律は廃止してくれ」とか議員資格のない人間にも一定の発言権を与えているんだ。スイスは直接民主主義を取り入れている国なんだよ。レファレンダムって言うのは議会が決めた法律を国民みんなで良いか悪いか話し合って場合によっては拒否権を行使することも出来るんだ。
山を整備しないことで起こる土砂崩れ……とか考えれば分かるはずなのに地域住民の大人も政治家もザルを流れる水のように危機意識ガバガバな今の日本は直接民主主義を採用しないとダメなような気がする。言いたいことの言えない社会でも幸福があるとしたらそれは自宅の中で冒険や一人遊びの出来た幼稚園児くらいに何もモノを分かっていない人間だと思う。精神年齢は上がっていくかも知れないけれど世の中の異変に気付く認識・認知年齢って誰かが言わないと永遠に幼児のまま変わることがないよね。
日本以外の国でもそう言う責任者の想定外で起こる災厄は多くなっているしせめてnetで書き込んだ意見くらいは考慮に入れてもらってもいいのではないかな?
このメモの元となった本は民主主義の本なんだけど全体主義って知ってる? 20世紀において興ったイタリアのファシズムやドイツのナチズム、冷戦下におけるソ連などが全体主義と言われているんだ。個人や共同体の安心できる生活を優先させずに全部国の利益のために動いていく政治体制で密告制度があったり例え家族であっても不穏な動きを見せた人間は通報されて独房に入れられ粛正されるんだって。
昨日漫画のジョーン・オーウェイの「1984年」を読んだんだけど全体主義の社会がどんなものか結構具体的に分かった感じがする。労働者が出てこなくて官僚が主人公だった。一部のエリートだけにしかきっと全体主義の世界ではまともな生活が出来なかったんだろうね。
民衆の思考力を上げないために新聞やメディア、辞書に載る言葉のボキャブラリーを削除することを提案する同僚がいたり何か人間の考える力を制限する方向にいくのが全体主義の世界みたい。ソ連は労働者の生産性が自由経済を採用しなかった為にガタ落ちして崩壊したそうだけど新しい商品とか競争経済って言うのは必要なんだね。全体主義の世界では個人の夢や幸福は全部国家のために向かうんだよ。
オール○ォーワンの世界だよね。能力者モノは偉人の一回分の人生でどんな点で優遇されていてどんなことが苦手で人生における一番の危機はなんだったかとかで基本スペックとかライバルとか最大の敵とか決まってくるんだ。近代はベートーベンが生きていた時代にナポレオンやルソーとかモンテスキューも同時期に欧州で活躍しててそんな風に考えると歴史に詳しいと面白い話が書けるんだね。
こんな感じかな? マチコはどう思った?」
マチコはキラキラした大きな湖畔を見つめて大きく広がる青空に向かって「んー」と大きく伸びをして言った。
「AIによる雇用の削減って問題があるよね。産業革命の時も記録にはあんまり残ってないみたいだけどなくなった仕事とかも沢山あったんだって。でもそのおかげで新しい仕事=雇用も増えたみたいだけどね。人間の意識が魂とかじゃなくて電気信号だとしたら一理ある説明だよね。辛いことがありすぎて病気になってしまうのもAIのプログラムの異常で説明がつくし電気信号を電脳や人体に移植できたらシンギュラリティの壁も確かに越えられるかもね。netの世界は彼岸の国かも知れないよね。自分の代わりにメアド登録するだけで情報とか特典とか商品を購入できるnetは御名=本当の名前で使役できる妖精みたいなものに何か近いしよね。
拒否権プレイヤーが何も考えずに国の政策を否定するだけの存在に成り下がっているのは残念な感じがするね。何かなんの考えもなしに当選させた前大統領とか拒否権プレイヤーって最終的に学生運動と一緒で国を破壊したいだけのヤバい人たちだよね。その場の空気で参加していた人も恐らく何人もいたことを考えると考えなしの大人の人口って日本だけじゃなくて世界規模なんだろうね。未だに戦勝目指して停戦の平和的な未来を選択できない○ルガリヒとか完全に思考停止状態の柄の悪いにーちゃんと何にも変わらないね。逢魔が時の深淵から真っ黒い魔物が飛び出してきたぞ……。
直接民主主義は大人や政治家が正しい知識を持って妥当な政策を打ち出せない現代ではちょっと考慮に入れるべき政治姿勢ではあるよね。個人アカウントからのSNSでの意見も生成AIに読み込ませて有力な意見かどうか参考にして厳選したモノを第一党の政策運営に関わる人間である官僚に読ませれば上層部の危機意識のザルに対抗できると思う。現代の大人は積み荷を山積したトラックから荷物を落としたりしてあんまり仕事する意識とかしっかりしていないから第三者が目を光らせて指示や忠告を出せる善意のある社会ってあってもいいのかも知れないよね。情報化社会を推進する風の時代の波が来てるのかも♡
全体主義って何か怖いよね。正しい知識とか事実さえも体制側の官僚が削除してなかったことにしてしまう社会。国の利益だけに走る時代ってきっと世界規模で利益を得られなくなる不穏な時代だろうから現代はその条件を満たしている時代とも言えるよね。密告とか通報が絶えない時代って誰とも心の底から人を愛したり交友関係を作れなかっただろうからずいぶんと不自由な時代だよね。ROCKの開祖のエルヴィスの時代からある体制側への「何もかもが違う」の向こう側にはPUNKみたいに考えることさえもよく分からない人間が善良となる知性を敵と見る操り人形の世界──。AIも直接民主主義も善用しようと思えば出来なくもないからIT技術と人間の共存もあり得ない世界ではないね。考えたり意見を言うことを否定する全体主義への流れは善意の第三者の手によって制御できる未来はあり得るね♡」
自分の言いたいことを言ったマチコは子犬のような柔らかで優しい目をしてケンゴを見つめるとキラキラと明るく微笑んだ。青い空の下に広がる公園の草木と大きな湖は太陽の光のもとハッキリと透き通るように輝き春の柔らかく涼しげな空気は心地よくマチコとケンゴを包んでいた。心地よく柔らかな卒業後の長く明るい春の時間──二人の青春モラトリアムは就職という新しい希望の下木漏れ日の光のように涼しげに輝いていた♡
……(続く♡)