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あらゆる不要な物を取り除いたら、マテリアルとエネルギーのみ残った。

 人類は、かつて無限の可能性を秘めていた。しかし、今は、コストという壁のため著しく押さえられているのが現状だ。それでも、前に進まざるを得ない。 


 世界は、コンプライアンスと人権遵守を主な商品にし、大量生産と消費は形を変えて生き続けている。


 そんななかで、もがいている企業。


 アーニヤ エネルギー アンド マテリアル社。


 宇宙開発の大手企業。外宇宙開発、特にエネルギーの分野で世界のシェアの八割を担っている。


 その本社。敷島は、取締役会の会議に参加していた。彼自身はフェルミオンプラントの責任者であり、AEM社の重役ではないが、現場の意見が聞きたいとのことで参加している。


 いまは、その発表中だ。


「……と、いうことで、総括すると利益も含めたフェルミオンプラントの増産計画は、順調に進行している。先の要望、量子サーバーの増設も計画順調だ。何か質問は?」


 ここに揃っているメンバーは、学校の同級生。腐れ縁の悪友たちだ。この会社は彼らの悪ふざけから始まったもので、立ち上げから誰一人欠けていない。


「ないようなのて、最重要議題にはいる」


 議長が疲れたように言うと、みな、疲れたように笑う。敷島は、苦笑い。


「人類の存続についてか。たかだか一企業の担う問題じゃないだろう」


 敷島の一言をきいて、重役の一人、古澤が苦笑いしながら注意する。


「敷島、言いたいことはわかるが、まて。他の連中の話も聞け」


と、ここで、土木部門の責任者が説明する。


「地球の気温の上昇が緩やかにはなった。しかし、生活環境としては厳しい。平均気温が今後も上昇していく可能性が大きい。まあ、エネルギーの供給、いや、電力供給が安定出来ているのがすくいだ。住宅や関連施設のエアコンの設置が法制化されたからな。しかし、抜本的な対策が取れないのが現状だ」


「むしろ、食料の生産に難がある。気温の変化もだが、土壌の劣化や汚染も、率自体は下がっているが、緩やかな上昇傾向だ。明らかに問題だ。現に、収穫量は、緩やかに減少傾向にある」


「ちなみに人口自体も減少傾向だ。ただ、一人辺りの物質、エネルギー消費量は増加している。ドローンや、個人サーバーの使用頻度が上昇している」


「ああ、身体レンタルもそれに拍車をかけている。あれも問題だ」


「MNOダイブ時の身体を、外部端末を使って労働に使うというあれか」


「ああ、サーバー接続によるリモートワークやゲーム中ならば、体のほうは空いてるからな。それを使えば少なくとも肉体労働者はある程度補完できる。労働人口の減少に対して有効だと政府が積極的に推進したあれだよ」


「使用デバイスの整備で人材雇用も増えるというあれか。たしか、わが社でも試験導入しているな」


「しかし、まだ、解決してない問題とかあるのだが。特に、労働災害とか、事故の際の法的整備が追い付いていない」


「その辺は、わが社の法務部も検討している。なかなか問題が出ないところもあるがね」


「で、だ、話を戻すと、結論としては、百年から二百年のスパンで、地球は、人類の生存に適さない惑星になる。致命的なのば、温暖化による海面上昇とマイクロ波送電によるバンアレン帯の異常だな」


「宇宙開発が推進されたお陰で、エネルギーと資源問題の目処はたったのにな」


会議のメンバーは、おもいおもいに浮かない表情を浮かべた。


「ドローンとVRの技術の進歩が宇宙開発の突破口だったからな。今では自宅にいながらに外宇宙を体験できる。時差や突発的事象には確かに対応出来てないところはあるが、量子通信の発達でなんとか対応し続けているからな」


「そんなに技術が進んでいるのに環境の改善は出来てない。いや、人類一人当たりのエネルギー使用量が多くなって、単純な効率化では対応できない。人口を減らせば別だが」


「人が宇宙に移民するにはコストがかかりすぎる。無理だ。旧時代のデプリが多すぎるために、人を送り込むロケットは、大型化せざるをえない。さらに、補給物資も必要だ。食料や衣類は、地球でないと生産出来ない。ま、宇宙でも作れないことはないだろうが、制作と維持のコストがかかりすぎる。また、危険性も高い。事故がおきたときは目もあてられない。採算性がある農場は、質量からして膨大だからな」


「ドローンを打ち上げて作業させたほうが、人を送り込んで、生活環境を整えるよりは、格段に打ち上げる費用も質量も少ない。おまけに人身事故の可能性もない。」


「ちなみに、今から宇宙に人の生存環境を移転させるとなると、どうなる?」


「完全に自立できる環境は作れないな。経済システムに組み込まないと、移転事業そのものの規模がちいさくなり、実用に耐えられない」


「我々の会社の試算だと、百年単位での宇宙都市を立ちあげるとして、何とか二億人は移住出来る。しかし、地球からの支援があっても、最長で百年程度が維持できる限界だ。単独ではさらに短くなる」


「さらに、文化の発展とか、夢のまた夢か」


「いっそ、戦争でも起こすか」


「はっきり言って、人の間引きは非効率だ。極端な人口の減少や物資の消費は人類全体の経済活動に大きな負の影響を与える。そうなると、下手したら、回復のために更にあらゆるリソースが浪費されることになる。経済発展し過ぎてしまうか、加速度的に崩壊するかどちらかだ。どちらにしろ、人類に未来はなくなる」


 メンバー全員ため息をつく。


「とにかく、まだやれることはあるはずだ。もう一度検討して、打開策を打とう」


 もし、あればな、と、敷島は思った。


 敷島は、会議ソフトを終了させた。次に接続するのは仕事場。量子サーバーは敷島をラグランジュ1のソーラーパイル及び、フェルミオンプラント管理オフィスフィールドに接続した。


「あ、敷島部長、お帰りなさい」


「やあ、狭間、問題ないか」


「はい、問題ありません。プラントの稼働、増設、ドローン。計画通りに進行してます。追加の量子サーバーも計画通りです」


「そうか。じゃあ、悪いが早く上がる」


「お疲れ様でした」


 敷島はログアウト。VRギアを外し、ベッドから起きて、リアルを感じた。六畳位の部屋。エアコンの温い風が体にまとわりつく。


 しばらくぼーっとしていた。それから食事でもしなければ、と、立ち上がると、マルチデバイスが電話がかかってきたことを通知する。


「やあ、敷島、久し振り」


「ああ、古澤、さっきぶり」


 敷島の悪友の古澤だ。ほかの連中もだが、気のおけない仲だ。


「実は、リアルでお前の近くに要るんだ。久しぶりに飲まないか?」


「そうだな。わかった。どこでだ」


「お前のアパートの下、居酒屋があるだろう。そこでいいか」


「ああ」


 敷島は、外出着に着替えると、さらに空調服を着た。バッテリーを確認して部屋をでる。共用の廊下は更に気温が上がっていた。汗をかきながらもゆっくり歩く。


 敷島は、一階にエレベーターで移動してから居酒屋に入る。少しほっといるのは、アパートから出なくてすんだから。いくら空調服があるとはいえ、蒸し暑い外は歩きたくない。ただてさえまだ日は落ちてないのだから。


 居酒屋に入ると、古澤がシワのある手をふっていた。


「よう、相変わらず元気だな」


「そうでもない。いくらか生活習慣病の薬を服用しているからな」


「いくつ飲んでいる?」


「二種類だ」


「70でそれは健康だろう。俺は五種類だ」


 やがて、料理が運ばれてきた。食べながら共通の知人の消息等を話す。


 やがて、古澤が切り出した。


「実は、お前に頼みたいことがある。会社の極秘プロジェクトの根幹に関わることだ。と、言ってもたいしたことじゃない。幾らか権利の譲渡と、システムのモニターをやってほしいんだ」


 敷島は、二つ返事で答えた。


「ああ、いいよ。お前とは腐れ縁だ。何となくやってることはわかる。モルモットよりはいい待遇だろうからな」


 古澤は頭を下げる。


「悪いな。求めるのはお前さんの発信する情報全てに関する習得権だ。つまり、お前さんの情報は、AEAM社のものとなる。あと、こちらが本命だが、VR時のデータだな。あと遺伝子情報も」


 敷島は、何気ない様子で古澤に聞く。


「ちなみに、社員のほうはどうだ」


「大体の主要人物は、俺も含めて同意した。社員は、社則で同意したことになっている。あと、社の無料でモニターという形で情報を習得している」


「他にもなんかやってるのか?」


「遺伝子情報なんかはかなり金かけて集めているみたいだ。あと、歴史、文化なんかは無料コンテンツが主みたいだな」


「で、何をするんだ」


 敷島も、古澤も姿勢を正す。


「量子サーバーに、情報を入れ込んで、後世に遺すデータベースを作る、と言うことになっている」


「それ以上聞いてもいいか」


 古澤は、少し迷ってから口を開く。


「多分、人類は今後千年持たないと言うのが我が社上層部の考えだ。そこで、いま、宇宙に増設している量子サーバーに、集められるだけのデータを集めて、シミュレータを作る。それで、世界を一つ保存する。それが裏の計画だ」


「宇宙に配置する必要もあるまいし」


「実際、量子サーバーを地上で作るより、宇宙て作るほうが資金や精度の面で有利なんだと。それに、予備として最低三基作って宇宙に飛ばすそうだ」


「飛ばす?」


「外宇宙探査機、と言うことになっている。偵察衛星を含めて、だ」


「大事だな。しかし、資金は大丈夫か?」


 古澤は笑った。


「お前さんのおかげだ。エネルギー関係の利益は莫大だよ。かなり無理がきく。いろんな意味でな」


「そうか」


 二人は、それからよもやま話をして別れた。


 


 それから年月が過ぎ去った。


 敷島は、目をさました。


 アパートの一室。


 顔を洗い、朝食をたべ、歯を磨く。


 もうすぐ大学の講義か始まる。


 服を着替え、教科書とノート、筆記具を準備する。そして、マルチデバイスを探し、敷島は、気づいた。


「ああ、そうか。この世界にはそんなものないんだ」


 納得した。もう時間がないので、アパートの部屋を出て、自転車に乗り、大学へ向かう。


「まさか、学生をやり直すとはね」


 大学につき、講義室に入る。先に悪友の古澤がいた。


「おい、遅刻だぞ」


 古澤が笑いながらあいさつする。敷島は、そんな古澤に笑って答える。


「AEAMの株価はどうだい。燃えているかい」


「いや、量子サーバーほどじゃない。だけど、燃えている」


 二人は笑った。古澤は敷島の(再構築)が成功したことに安堵して。敷島は、そんな古澤がなぜかおかしくて。


「やっと思い出したか。かなりまったそ」


 敷島は、肩をすくめる。


「そりゃこんな電子デバイスもない世界だからな。人格も記憶も一から再構築だからな」


「ま、しかたないか。お前、以前はかなりやられたからな。前の(世界)が崩壊するのを防げたのもお前のおかげた」


「本当、死ぬかと思った。人格再現にかなりかかったみたいだな。とはいえ、何年たった?」


「年、ってほどじゃない。まだ3ヶ月だ」


 敷島は、講義室から、外の青い空を見た。


「信じられないな。俺たち含めて、これが量子サーバー内で再現されてるとはな」


 そう。今敷島がいる(世界)は、外宇宙探査船1038フロンティアの量子サーバー内で構成されている電脳空間なのだ。


「本体の宇宙船がまさかの500mクラスなんてな、小型だしな、ラムスクープドライブ式の」


「因みに1042期の外宇宙探査船も発進したらしい。10日ごとに発進しているか、そろそろマテリアル的に問題が出てきたそうだ。もっとも、他の星系も建造しているらしいが」


 敷島は、笑った。


「おいおい、十年の間違いだろう。全く」


 古澤は、ため息をついた。


「お前、そんな古いギャグ言うなよ。クロック周波数の変更で処理速度や容量に余裕を持たせるための処理だろう」


(世界)と、外の世界とは、処理変換時を一日=一年で変換しているのだ。


 と、ここで、古澤は真面目な顔できりだす。


「で、外部防壁(世界)がまたクラッキングをうけたらしい」


「相手はなんだ。超越者か、外部からの侵入か」


 超越者とは、人の情報因子を排除し、純粋な思考体になったと称する連中で、

人の思考から外れてしまったため、敵対したり、量子サーバーの容量を奪おうとすることが多い。


「超越者だ。いま、第三防壁(世界)で対抗している」


 量子サーバーで再現された(世界)は、主構造(世界)とそれを電子的脅威に対する文字通り防壁となる(世界)で構成されている。


 敷島たちは、その防壁の管理、及び防衛をおこなっているのだ。


 尚、あらゆる(世界)に電子的に再現された人間、ホモ、サピエンス、デジタルは存在する。対情報攻撃に対する防壁でもあるからだ。


「じやあ、行きますか」


 敷島は、そう言ってから、ふと外を見た。そして、呟く。


「俺達って、生きているのか?」


 古澤がその声をききとる。


「どうしたんだ、何か悩みでもあるのか」


「いや、俺達、電子的に再現された人間た。それって、生命と言えるのか、人間の真似に過ぎないんじゃないか、と、思ってな」


 古澤は笑った。


「ある人の言葉を教えてやるよ。生命とは、情報とエネルギーの高度なパッケージだ、ってな。だから、(世界)のなかの俺たちも十分に生命だよ。人だよ。まあ、ホモ、サピエンスから受け次いだものを背負っているから、まだまだ古いものにしばられてるだろうがな」


 敷島は、外から古澤に視線を移した。


「そうだな。そう思うよ。じや、また代わり映えしない戦いにいきますか」


「ああ。今回の(世界)も、魔法を持った(世界)だ」


「なんだよ、またか。よくあきないな」


「そう言うなよ。(世界)の特色を出すには楽な方法だからな」 


そう駄弁りながら、二人は戦うため、(世界)を移っていった。


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