23 報奨金の使い道
1ギニー=約100円です。
本日2話投稿の1話目になります。
『銀獅子団』がユフィン温泉街からカルディアナに戻った五日後。彼らは王城に来ていた。
温泉に浸かってのんびりして帰って来た一行は、屋敷の外で帰りを待っている使者たちに捕まった。彼らは『銀獅子団』が戻るまで屋敷の外で寝ずに待っていた猛者達であった。その血走った目の迫力にアレスたちも断ることが出来なかった。
その後、各所で別々に説明するのは効率が悪いので、冒険者ギルド西支部ギルドマスターのゲイブに調整を頼み、貴族街にある「議会場」に一同を集めてあらましを説明。そして質問に答えた。説明と質問の回答はほとんどネネが行った。とは言っても『銀獅子団』が全てを知っている訳ではない。むしろ『銀獅子団』の方が色々聞きたいくらいであった。
結局「異界人」の正体は分からず、その異常な強さが浮き彫りになっただけだった。アレスの進言で、王国軍や王国騎士団、冒険者たちの中から『心眼』持ちと、シールド系・結界系のスキル持ちや魔術を使える者を集め、連携を取って強化に励むことが当面の指標となる。
特に転移に対抗するためには『心眼』が不可欠であり、アレスのようにレベルを上限まで上げている者がいないため、王国と冒険者ギルドが金を出し、真ルーナ教の「神聖所」を使わせてもらえるよう交渉することとなった。
そんなゴタゴタが四日間続き今日に至る。
アレスを先頭に『銀獅子団』の全員とキュイックは、近衛騎士の先導で謁見の間へと続く廊下を歩いている。これから国王の前に出るということで、急遽全員がお洒落してきた。
アイナは生まれて初めてドレスを着た。光沢のある黒のAラインドレスは、胸元の開きが少なく清楚な雰囲気。アイナの美しい銀髪に似合っていた。
さすがにキュイックを頭に乗せる訳にもいかないので、今日はアイナが抱いている。案内の騎士がよく分からない生き物を連れていることにぎょっとしたが、「この子も仲間です」というアイナの一言で平静を装うことに決めた。
「『銀獅子団』ご一行様、ご到着にございます!」
謁見の間の扉の両側に立つ騎士が中に向かって大声を上げた。急に大声を出されたのでアイナが「ビクっ!」となったが、他の五人は冷静だった。
事前に教えてもらった通り、王を見ないよう俯き加減でみんなの後ろを着いていく。そして一緒に跪いた。
「よくぞ参られた。顔を上げてくれ。私がガルシア=アシュトル・カルディアナである。此度の貴殿らの活躍、国を代表して礼を言う」
アイナは恐る恐る顔を上げる。そこには、きらびやかな服を纏い、豊かな髭を蓄えた柔和な顔の男性の姿があった。ウェーブのかかった髪は明るい金色、もちろん髭も金色。玉座から降り、アイナたちと同じ高さに立っていた。
「もったいないお言葉でございます」
アレスが代表して答える。アイナ以外の五人は、各国の王や貴族と何度も会ったことがあるため、こういう場には慣れていた。アイナだけはガチガチに緊張していた。
「貴殿らの功績に報いるため、我が国から『救国の英雄』の称号を、更に報奨金として一千万ギニーを授けよう」
アイナたちは立ち上がるよう促され、黒い燕尾服を来た国王と同じくらいの年齢の男性から、一人一人勲章を授けられた。そして、アレスが代表して白金貨十枚の入った赤いビロードの箱を受け取った。
「冒険者たちが国に縛られないことは十分承知している。しかし、もしまた我が国が脅威にさらされたときには、ぜひ力を貸してくれることを願っている」
そう言って、国王は一人一人と握手を交わした。アイナが握った王の手は、柔らかくて温かかった。
屋敷に戻った一行は、普段着に着替えてからリビングに集まった。
「はぁー、やっぱああいう所に行くのは疲れるな」
「形式的なものって分かってても疲れるわよね」
「メシも茶も出さないなんてちょっとイカれてるっす」
「ん……でもアイナのドレス姿がかわいかった」
「えー。私は緊張して、何がなんだかもう、って感じだった」
ドレスから着替えたアイナの頭の上にキュイックが乗っている。ようやく定位置に収まってご機嫌であった。
それぞれが愚痴や感想を言い合い、最終的には「アイナが可愛かった」という話がループし始めたころ、アレスが口を開いた。
「で、今回の報奨金の使い道なんだが――」
「そりゃ強化だろ」「強化しかないわね」「ん、強化」「強化っすね!」「……強化?」
「と言うことで、全員一致で『強化』だな」
「アレスお兄ちゃん、『強化』ってなに?」
「ん? あ、そうか。アイナは聞いたことなかったか。今回の強化は、武具の強化がメインだな」
先の「異界人」との闘いで、アレスの大剣「ヒュンデベルク」でも敵を斬れなかった。アイナの『死神の鎌』がなければ倒すことは難しかっただろう。
アレスたちはネネ以外はそれぞれがサブとメインの武器を持っており、これまではそれで十分通用してきた。強くなることを怠っていた訳ではなく、その必要がなかったのである。
しかし、これから先は違う。
「俺たち自身の能力を上げるのは、限界があるし時間もかかる。いつあの『異界人』が襲って来るか分からないから、手っ取り早く戦力を強化したい。そのための武具強化だ」
「ん……私も、これまで杖なしで十分だったけど、今は杖が欲しい」
魔術師にとっての杖。それは魔力の消費を抑え、魔術の効果を増大させるものである。
「ネネの杖もそうだし、俺たちも、最低限アレを斬れるようにしたい。そのために、どんな付与効果が必要か調べ、試す必要がある。モニカの弓や、ペネドラのナックルもそうだ」
「そうなんだ……私も、何か強くなれる武具があるかな?」
「ああ。きっとあるさ。それに、これを機会に防具やアクセサリー類も見直したい」
「じゃあ、とりあえず東区の武具屋さんに行くんだね!」
アイナの無邪気な言葉に五人が顔を見合わせる。東区の武具屋は品質が高いことが評判で、その分お高いのも有名だが、ご近所で最強装備が手に入れば苦労はしない。
「ふふっ。アイナ、私たちは旅に出るのよ。私たちがもっと強くなるために、一緒にあの国を目指すのよ!」
モニカがふんすっ!と立ち上がり「あの国」を指差す。その指先は力強く「北」を指していた。ただ実際に目指す方角は「東南東」である。
「あの国って?」
「 「 「 「 「 ドワーフの国『パタグリュエル』!」!」だっ!」よ!」っす!」
パタグリュエルは、カルデ王国の東、メンネベヌク王国のさらに東南に位置する共和国である。住民の約半分がドワーフ族であり、パタグリュエル産の武具は他国で作られるものと一線を画す。この大陸で最高の武具を求めるならパタグリュエルへ行けというのは冒険者にとって半ば常識であった。
パタグリュエルの首都ヘルムスは、このカルディアナから馬車で三か月かかる。一刻も早く戦力を強化したいアレスたちではあったが、ある重大な問題が一同の頭を悩ませる。
その問題は、今後の『銀獅子団』の存在を揺るがしかねない大きな問題だ。戦力強化と天秤にかけても蔑ろにすることは考えられなかった。それを解決するために、ネネも『叡智』を全開にしてあらゆる方向から打開策を検討するが、どれも決定打にならない。
その重大な問題とは――言うまでもなく、五週間後に迫ったアイナの十五歳の誕生日であった。
アイナが買い物に出掛けている間、大人たちは「あーでもないこーでもない」と知恵を絞った。ヒューイとモニカは知恵を絞り過ぎて早々に熱を出した。アレスとネネ、ペネドラが喧々諤々の議論を交わす。白熱し過ぎて血を見そうな勢いだった。
そんな中、帰って来たアイナが大人たちを問い質し、自分の十五の誕生日のためにパタグリュエル行きを遅らせようとしていることを聞いて、ひとこと言い放った。
「……バカみたい」
アイナの冷たい言葉に大人たちは凍り付いた。しゅんである。
「みんな、本当にありがとう。でも途中で立ち寄った街で、ちょこっとお祝いしてくれたら十分だよ? それより早くパタグリュエルに行きたい! だって旅の間はずっと一緒にいられるんでしょ?」
アイナが発した思いもしなかった言葉が大人たちの胸を打った。きゅんである。
こうして、アイナに関してはとびきりチョロい『銀獅子団』一行は、最強装備を手に入れるため、パタグリュエルへ向かうことを決めたのだった。




