19 銀獅子団、帰還する
本日はお昼と夕方に2話投稿します。こちらは1話目です。
一か月半後。初夏の日差しが肌に熱く感じるころ、『銀獅子団』はカルディアナに帰還した。
道中、二つの盗賊団から襲われるも壊滅させ、下位の竜種である地竜の五十を超える群れを殲滅し、アンデッドの群れを森ごと焼き尽くしたほか、有象無象の魔物を屠りながら進む『銀獅子団』の四人に、マリウス王子と二人の騎士は鬼気迫るものを感じたが、彼らは一刻も早くカルディアナに帰ってアイナに会いたいだけだった。
王城に王子たちを送り届け、礼に晩餐をという誘いを断固として断り、馬車を借りて大急ぎで西区の屋敷に返って来た四人を出迎えたのは、ペネドラ一人だった。
「おかえりっすー!」
「ただいま……」「なんだペネドラかよ」「ペネドラただいま」「ただいまー」
「え……久しぶりなのに冷たくないっすか? しかも一人酷いのがいた気がするっす」
「ああ、済まん……それでアイナは?」
「アイナっちなら、みんなが帰って来たって聞いて買い物に行ってるっす。ご馳走を作るって言ってたっすよ」
「うぅ……アイナ……」
ヒューイが情けない声を出す。どうやら感動しているらしい。
「とりあえず着替えたらいいっす。男どもは風呂にでも入っとけっす。女どもはどうせアイナっちと入りたがるっすよね?」
「当たり前でしょ? 三か月半もアイナとお風呂に入ってないんだから!」
「ん……アイナの成長を確認しないといけない」
ネネはもう少しで身長を抜かされる。ちなみに胸の方はもう抜かされていた。どれくらい抜かされたかのチェックに余念がないネネであった。
アレスとヒューイは(臭くて嫌われないために)風呂へ、モニカとネネは着替えた後にペネドラとリビングでお茶を飲みながら、アイナの近況について話していた。
「あたしから見て、アイナっちは銀獅子団の戦力になると思うっす。動きは普通っすけど防御力は特級。攻撃もスキルを使えばなかなかっす」
「ペネドラが言うくらいなら……」
「ただ、攻撃は発動に時間がかかるっす。その間無防備になるのが問題っすね」
「ん……一通りスキルを見る必要がある」
「剣と体術は期待しちゃダメっす。アイナっちも頑張ってるっすけどね」
と、屋敷の玄関から元気な声が響く。
「ただいまー! ペネドラお姉ちゃん、みんな帰って来た?」
「帰って来たっすよーって、あれ?」
ペネドラが返事をした時には、既にモニカとネネの姿はなかった。
「 「アイナーっ!」 」
大きな買い物袋を二つ抱えたアイナに、モニカとネネが抱きついた。
「モニカお姉ちゃん! ネネお姉ちゃん! おかえりなさいっ!」
「ただいま、アイナー!」「寂しかった……」
二人がアイナの顔に両側から頬を押し付け、アイナの顔が「むぎゅぅ」となる。頭の上でキュイックが「キュイっ!」と鳴き、大きくなった翼を広げてバランスを取った。
「キュイックもただいま」「ただいまー、キュイック」「キュイキューイっ」
「そこで抱きついていなくてもアイナっちは逃げないっすよ?」
ペネドラが玄関までやって来てアイナから買い物袋を受け取った。
「アレスお兄ちゃんとヒューイお兄ちゃんは?」
「二人は風呂入ってるっす」
「そっか! じゃあ今のうちにご飯作ろ」
モニカとネネから両腕を掴まれたまま、アイナはキッチンに行く。二人の腕をそっと離し料理を作り始める。その姿をカウンター越しに頬杖をついて見つめる二人。
そして風呂からそそくさと上がって来たアレスとヒューイも「ただいま、アイナ」と言いながらカウンターに並んでアイナを見つめる。
「アレスお兄ちゃん! ヒューイお兄ちゃんも! 男の人は台所に入っちゃいけないんだよ? 向こうで待っててね」
アイナに言われてすごすごと引き下がる二人の男。何を隠そう、勇名を轟かせるSランク冒険者『銀獅子団』の二人である。
三か月半ぶりにアイナに会った四人はタガが外れたように見えるが、依頼がなくて屋敷にいるときもほとんど変わらない様子なのだ。アイナが朝出掛けて夕方帰って来るとほぼ同じ光景が繰り広げられる。
地竜の群れもアンデッドの群れもものともしない四人を手玉に取るアイナこそ、実は最強かも知れない。本人には全く自覚がないのだが。
そうして六人と一匹はアイナの料理に舌鼓をうちながら、会えなかった時間に起きたことをお互い話して聞かせるのだった。
かぽーーん。
「ちょっとアイナ、また大きくなってない?」
モニカがジロジロとアイナとネネの胸を交互に見る。基準はネネの胸である。何年も前から変わらない平坦な大地がそこにあった。
「ええ? そんなことないと思うけど」
「ん……私はもう諦めた。アイナには頑張ってモニカを超えて欲しい」
ネネがそう言いながら、モニカに向かって両手をもにゅもにゅする。
「いっそもいでやりたい……もいで私とアイナで半分こしたい」
一級の黒魔術使いが、鋭い眼差しでモニカの胸を狙っていた。
「あたしも入るっすねー」
そこへペネドラが乱入する。ペネドラは小柄でお尻も小さく、少年のような身体つきだが、並みくらいあった。アイナにとってモニカは大き過ぎである。ペネドラくらいが理想だった。何の話かは分からない。
「ほんと、アイナは背が伸びたねぇ」
四人で湯船に浸かり、隣のアイナを見ながらモニカがしみじみと言う。二年前は座高も低かったが、こうして座っていてもアイナの成長が分かる。
「ん……私が抜かされるのも時間の問題」
「それに、引き締まってるけど女らしい身体つきになってきたっす」
お姉さん三人に色々言われて顔に血が上るアイナだが、アイナもこの二年でこんな状況には慣れた。
「全部お姉ちゃんたちと、お兄ちゃんたちのお陰だから!」
そう言ってアイナはザバっ!と立ち上がり、三人の姉に背を向けて、腰に手を当てて仁王立ちになった。その後ろを桶にはいったキュイックがプカプカと流れて行く。
そう、アイナも成長したのだ。これが正しい成長と言えるのかはまた別の話である。
* * * * * * * *
『銀獅子団』がカルディアナに帰還した翌日。
アレスは冒険者ギルドに依頼達成の報告と報酬の受け取りに、モニカは全員の武器や防具をメンテナンスに、ネネは調べ物をするために街の図書館へ行った。ペネドラは相変わらず屋敷でのんびりしている。
という訳で、アイナとヒューイが二人で出掛けることになった。二人と言ってもキュイックも一緒である。
アイナは、白い襟のついた袖なしの青いワンピース。素足に黄色いサンダルを履き、つばの広い麦わら帽子を被っている。キュイックは帽子の上に乗っている。
ヒューイは黒いズボンに黒い長袖シャツ。胸元はボタンを二つ外している。アイナと並んで歩きながら、アイナに視線を送る男全員にガンを飛ばしていた。
「――お兄ちゃん、ヒューイお兄ちゃん!」
「お、おう、ごめんアイナ。どうした?」
「そんなに他の人を睨み付けないで。みんな怖がってるよ?」
「そうか。ならいい。怖がらせるためにやってんだからな」
「なんでよ! 私まで変な目で見られちゃうじゃない」
「いや、そもそもアイナを変な目で見る男をだな――」
「もう、いいから! そこのお店でお茶しよ?」
アイナがヒューイの腕を引っ張り、近くのカフェへ入って行く。周りの男性たちが一斉にほっとした。アイナはどうしても目に付く。長い銀髪に人形のような可愛らしい顔。男なら一瞬目を奪われても仕方がない。そのせいでヒューイに喧嘩を売られたらたまったものではない。
(……ん?)
カフェに入ろうとした瞬間、ヒューイの『察知』に妙な気配が引っ掛かる。敵意ではない。何か、こちらを観察するような気配。
立ち止まって周囲を見るがおかしな所はない。妙な気配も消えている。
(気のせいか……)
ヒューイは、アイナに腕を引かれるままカフェへと入って行った。
(へえー。面白そうなニンゲンもいるんだ)
一つの小さな人影が狭い路地に消えて行った。
本日もお読み下さりありがとうございます!
【五月からのお願い】
少しでも面白い・先が気になると思っていただければ、評価・ブックマークをお願いします!
↓の広告の下に☆☆☆☆☆がございます。★でも★★★★★でも思った通りに付けて頂いて構いません!
評価とブックマークが執筆の大きなモチベーションになります。
ぜひ、応援よろしくお願いいたします!




