14 レベルアップ
2話投稿の2話目になります。
冒険者ギルド・カルディアナ西支部から出たアレスとアイナを待っていたのは一台の馬車。ヒューイが御者席で手綱を握り、中にはモニカ、ネネが座っている。
「すまん、待たせたか?」
「いーや、今来たとこだ。さあ、二人とも乗った乗った!」
アイナが「いいんですか?」と言いながらアレスを見ると「ああ、俺たちの馬車だから遠慮いらないよ」と返す。
王都カルディアナに本拠を置く『銀獅子団』は、拠点としている家と移動手段の馬車を保有している。Sランク冒険者は稼ぎが桁違いだ。平民では望むべくもない莫大な金を手に出来る。だからこそ、一攫千金を目指して冒険者になる者が後を絶たない。
これから向かう神聖所は東区にある。歩いて行けない距離ではないが往復すると日が暮れてしまう。そのため馬車で移動するのだ。五人で向かう必要は一切ないのだが、可愛いアイナの初めてのレベルアップを見逃せす訳にはいかないので全員で行くことになった。過保護である。
窓から街の景色を眺めながら馬車に揺られること四十分。真ルーナ教が管理する神聖所に到着する。高い塀で守られた入口は、真ルーナ教の聖教騎士二人が見張っている。アレスが彼らに冒険者カードを提示すると固く閉ざされた門が開かれた。
中に入るとよく手入れされた公園のような場所で、あちこちに色とりどりの花が咲き乱れ背の低い木が何本も植えられている。その真ん中に四本の石柱が正面に並ぶ霊廟のような小さな建物があった。
「あの中の月水晶に触れればいい。クリスタルが青く光る。光が収まったら一度出て来て?」
「はいっ! 行ってきます」
ネネがアイナに顔を寄せて教え、アイナが「ふんす!」と返事した。勢いは良かったがアイナは緊張していた。キュイックをモニカに預け、霊廟に向けて振り返ると右手と右足が同時に前に出る。ガチガチに緊張しておかしな動きのまま建物に入って行った。
霊廟の中はひんやりとして、アイナの目線より少し低い位置に台座があり、その上に円柱状の透明なクリスタルが鎮座していた。長さ五十センチほどのクリスタルは向こうが透けて見えるほどの透明度だ。それに向かって恐る恐る手を伸ばす。手の平で触れると、触れたところから眩い青の光が溢れ出した。
『どちらのスキルを選ぶ?』
頭の中に優し気な女性の声が直接響いた。事前にネネに教えてもらった通りだ。
「デ、『献身』で、お願いします!」
青い光がクリスタル全体に広がる。それと共に、身体の内側が少しくすぐったいような、少し暖かいような感覚になる。それが十秒もするとなくなり、光も収まっていく。
完全に光が消えたことを確認し、クリスタルから手を離して霊廟から出る。すぐ外で四人が心配そうな顔をして待っていた。
アイナは四人に向かって力強く頷き、もう一度霊廟に入る。続けて『拒絶』のレベルアップを行った。
霊廟から少し離れた場所のベンチに集まり、ネネが懐から大判の紙を取り出してベンチに広げた。それは『スキル鑑定』の効果を付与したスクロールだった。
「アイナ、この魔法陣に手を置いて?」
アイナが手を置くと、ネネがスクロールに魔力を通す。魔法陣が淡い光を放ち、余白に次々と文字が浮かび上がる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
原初スキル『献身』Lv2
・聖属性
Lv1……大切に思う者の死を肩代わりする
Lv2……大切に思う複数の者の非致死ダメージを肩代わりする
派生スキル『天翼』Lv1
Lv1……物理・魔術攻撃防御の結界(範囲:小)
原初スキル『拒絶』Lv2
・闇属性
Lv1……強く拒んだ事象を拒絶できる(強:自分自身/弱:自分以外)
Lv2……強く拒んだ事象を拒絶できる(強:自分自身/強:自分以外)
派生スキル『反射』Lv1
Lv1……物理・魔術攻撃を相手に跳ね返す(効果:弱)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スクロールに記された文字を読み、アイナ以外の四人が言葉を失った。その様子を見たアイナがおろおろする。役に立たないスキルだったらどうしよう?
「えっと、ど、どうなんでしょうか……?」
四人がお互いに顔を見合わせ、ネネが意を決したように口を開いた。
「アイナ、落ち着いて聞いて……」
アイナがごくりと喉を鳴らす。
「アイナのスキルはとんでもなくヤバい」
「そ、それは……役立たずってことですか……?」
アイナの声が震える。
「違う違う! その反対。これは凄いスキルだよ。原初はよく分からないから置いといて、派生でとんでもないスキルが出たね!」
「ほ、本当? これでみんなの役に立てますか?」
ネネも他のみんなも、自分を傷付けないよう嘘をついてるかも知れない。
「役に立つどころじゃない。アイナががんばって派生スキルのレベルを伸ばせば、『銀獅子団』の重要な戦力になるよ」
アレスが横から補足する。他の三人も「うんうん」と頷いている。アイナは目の前のネネをもう一度見た。ネネの瞳に薄っすらと涙が浮かんでいた。ネネだけじゃない。他の三人も涙を浮かべている。
「よかった……よかったね、アイナ」
「う…ぐぅ…う、うわあぁぁぁぁあーん!」
アイナは叫ぶような泣き声をあげながらネネの胸に飛び込んだ。残念ながらそこにはアイナを受け止める弾力はなかったが、ネネは優しくアイナを抱きしめ背中をさすった。その様子を見ながらモニカがキュイックを抱きながら「ぐぬぬ……」と悔しそうな顔をしていた。
門を守る聖教騎士二人が「何事か?」とこちらを凝視したが、ヒューイが「見てんじゃねーよっ!」と凄んだところ何事もなかったことにして元の位置に戻って行った。とんだとばっちりであった。
「さ、今日はもう家に戻ろう。アイナに紹介しなきゃいけないやつもいるしな」
アレスの言葉に、一行は再び馬車に乗り込んで元来た西区へ向かった。ちなみにアイナの隣にはモニカが強引に座り、ネネがジト目で睨んでいた。キュイックは定位置のアイナの頭の上でリラックスしていた。
* * * * * * * *
銀獅子団が拠点とする家は、家と呼ぶのがおこがましい程の立派な屋敷だった。西区の商業地域に近い住宅街にある屋敷は、貴族が住んでいると言われても納得するような威容を誇っていた。鉄製の二メートルの塀に囲まれ、巨大な門も鉄製。実はこの塀と門は見掛け倒しで、実際に屋敷を守っているのは強力な結界を張る魔道具だった。
屋敷の前は馬車寄せを兼ねたロータリーで、中央に噴水がある。先程見た神聖所より良く手入れされた庭では、見事な花々が所狭しと咲き誇っていた。
玄関からずらりと執事や侍女が出て来てもおかしくない雰囲気であったが、さすがにいなかった。
「おかえりっすー。やっと帰って来たっすね」
独特の口調で玄関から出て来たのは一人の若い女性。その頭には丸くて黄色い耳がついており、お尻からはほっそりした黄色の尻尾が生えていた。くりくりした茶色の瞳が好奇心を抑えきれない様子でアイナを捉える。
「お! 彼女がアイナっちっすね! あたしはペネドラっす。見ての通り、獣人で豹人族っすよ!」
「は、はじめまして、アイナです。こっちはキュイックです。よろしくお願いします」
アイナは頭の上からキュイックを抱き上げ、ペネドラに向かってぺこりと挨拶した。
「堅苦しいのは抜きっすよ! ここはアイナっちの家でもあるんすから。みんなは取り敢えずリビングで茶でも飲んどけっす。あたしはアイナっちに家を一通り案内してくるっす」
「相変わらずだな、ペネドラ……」
アレスの呆れた声に耳を貸すことなく、くるりと踵を返したペネドラは「さ! アイナっち、行くっすよ!」とアイナの背中を押して家の奥に消えて行った。
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明日も2話投稿の予定です。
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