First planで挑戦するのは:2
レミリアから開発の許可を得たエレノア達は、早速エレノアの部屋で会議を始めた。
メンバーは引き続き、公爵家関係者であるエレノアとコーネリア達側付きの侍女たちと、商業ギルド勢のアネット、エリスの七人だ。
「さて……エレノア様の言っている、その……コンピュータ、というものを開発するお許しはいただけましたが……そうなると、次の課題としてはそれを作れそうな人材を確保すること。そのために、前段階としてどのような人材が必要になりそうか洗い出すこと。この二点が、上げられそうですね」
「そうね……」
言いながら、エレノアは侍女に頼んで用意させた紙と筆記具を全員に配った。
「まずは必要そうな人材や物を書き出してみましょうか。ただやみくもに考えていても時間が足りなさそうだし」
「そうですね。それがいいでしょう」
エレノアの提案に全員が乗り、早速それぞれがこの世界でコンピュータの開発をするにあたって必要なものを考え始めた。
エレノアは、まず地球で言うところのプログラム言語に相当する術式をどう構成していくか、そこから考えることにした。
彼女はまず、内部――プログラムに関する部分から考えることにした。
(OSは、オートマタ用のそれを流用すればいいとして……補助用の演算核も必要だよね……)
広く普及させるなら、オートマタ用の術式や擬似人格を封入するための核には、低等級から中等級くらいに抑えなければならない。
そのためにコアとなる核にそれほど上等な術式と擬似人格を封入できなかった場合、オートマタの機能向上のために、複数の魔石を導入することはよくあることであった。
高い等級の物となれば、OSだけでもそれなりに優秀なコンピュータになってくれそうだが、それはエレノアの求めるものではなかった。
ゆえに、核とは別に、演算能力をブーストさせるための機構が必要となる。
そうして、エレノアが必要になりそうなものを紙に羅列していくこと数十分。
そろそろ頃合いだろうと誰かの声が上がり、煮詰まり出していたエレノアは自然とその声に従って顔を上げた。
「まだ最初ですから、根を詰めすぎては先が続かないでしょうし。ここらで、一旦休憩しながら、それぞれの考えを出し合ってみませんか?」
「そうね。私も考えが煮詰まり出してきたし、皆の意見が聞きたいわ」
「決まり、のようですね。では早速ですが、エレノア様からお願いいたします」
コーネリアの声がかかり、エレノアは『え、私から?』と虚を突かれて一瞬きょとんとしたが、即座に気を取り直して自分なりの考えを発表した。
反応は一部を除いては良くも悪くも、『まぁ、そんなところだろう』と言った感じであった。
が、その一部、の部分でアネットとエリスから疑問の声が上がった。
「えっと、ガラス板と、幻影を見せるための魔道具、ですか……?」
「えぇ。厳密にはちょっと違うのだけれど、まぁ似たようなものだと思ってもらっても結構よ」
「何のために必要なのでしょうか……」
「簡単よ。例えば、既存の魔道具の代わりに、これから作ろうとしているコンピュータに計算をしてもらったとして。その答えを、どうやって伝えるのか、ということよ」
「それなら、音声を流せばいいのでは……?」
「それでもいいのだけれど、例えば他人に知られたくない機密情報とかを計算していた場合とかは?」
「あ……それもそうですね。そういうときにも音で伝えたら、知らせたくない人にも知られてしまいます……。なるほど、それでですか……」
アネットの疑問に対しては、それで彼女の理解を得られたのだが、そこまで説明を終えたところで、今度はエリスから別の疑問が投げかけられた。
それは、人間からサキュバスへと変えられてしまった彼女らしい疑問であった。
「待ってください。そうなると、幻惑の呪いに対して耐性の高い人は、コンピュータを使えないのでしょうか?」
「それも大丈夫よ」
エレノアは、そう言うと、幻惑を見せるための魔道具のところに注釈を入れてあることを改めて示す。
皆は、怪訝そうな顔をしながらも、エレノアの説明を聞く姿勢を保つ。
「まず、幻影を見せる魔道具、とアネットさんは言ったけど違うわ。あくまでも幻影のようなもの、よ。実際には、命令に従った発光現象をするだけの単純な魔道具」
例えばこんな風にね、とエレノアが指を指せば、部屋の暗がりにぼんやりと丸数字の1が浮かび上がった。
ただし、丸の内側の背景は虹色で塗りつぶされていて、数字が少し見づらかったが。
「なるほど……確かに、幻影と言えば幻影でしょうね。幻影、と言っても呪いの類ではなく、単純な発光現象であれば耐性など関係ないですね」
この世界には、『映像』という概念はまだ発見されていないため、そこに見えているのにそこに実在しない物はすべて『幻影』や『幻惑』という扱いをされてしまう。そのための、エレノアの表現であったのだ。
「なるほど。なんとなく、エレノア様が作ろうとしているものの全体像が見えてきた気がしますね……。いろいろな可能性を含めて考えておいた甲斐がありました」
そう言いながら、次に自らの考えを発表しだしたのはコーネリアだった。
「なんにせよ、オートマタの技師を雇う必要があるのは確定でよいでしょう。それから、光魔法に明るい魔法使いの方にも来てもらった方がよさそうですね。彼らの教えを乞う必要がありそうです。……あぁ、そうだ。何らかの専門的な技能を有するオートマタを作る場合は、それの参考になりそうな人を呼んで、オートマタに学習してもらう必要もありましたね。どうしましょうか」
「作表とかはしてもらう必要はあるかもしれないけど、絵画とかを書いてもらうのは今のところはまだ考えていないし……その辺はいいんじゃないかな」
例えば、地図とかを丸暗記してそのまま映し出せ、という命令であれば、低能なオートマタでも魔力があり、光属性の魔法の術式が登録さえされていれば十分可能だ。
現状では必要とは思えなかった。
「知性のブースト用の魔石についてはいかがいたしますか? 何個ほど使用しましょうか?」
「可能であれば等級も今のうちに決めていきたいですね」
「無理じゃないかしら、さすがにこの段階では」
「そうね。彼女が言ったように、この段階で等級を決めるのはまだ早いと思うけれど……個数の目安としては、最初は10個くらいから始めていきましょうか」
そう質問を投げかけたのは、物資の調達を担当することになった商業ギルド勢+エリスの側に控えていたハイ・サキュバスだった。
ちなみに、計算速度については何ら問題視してはいなかった。
計算尺の魔道具が、内部的には瞬時に計算を終えているのは、地球における計算機とほぼ同じ。ただ、使用者がケガをしない範囲内で計算尺を動かすという術式の関係上、若干のタイムラグが生じるだけであることがわかっているからだ。
ただ、物理的制約上、一つの計算しかできない計算尺などの魔道具と違い、想定している構造上、物理的制約を伴わない魔道具なら、同じく同時進行でいくつもの処理が可能となるだろう。
作ろうとしているコンピュータは、そういうものなのだ。
だから、その上限を少しでも上げるために、補助用魔道具の連結は可能な限り行ってきたいとエレノアは思っていた。
もちろん、連結する個数が多くなればなるほど、性能は上がるが同時に制作何度も難しくなる。
よって、多ければよい、というわけでもないことに注意は必要であった。
ちなみに、魔石に封入する術式にもよるが、等級が最下位の魔石を使用した場合でも、平均して1度に4つ程度の演算が可能であることが判明し、しばらくはブースト用の魔石は最低等級の物でも十分であると判断が下されることになるのは別の話である。
そうこうしているうちに時間は過ぎていき、彼女たちが気づけばそろそろ夕食の時間になろうかという頃まで差し掛かっていた。
時計を確認した侍女が慌て気味に時刻を周知し、夕食の身支度を整えにかかることに。
これにより、この日の会議はここで終了となり、以降は翌日へと持ち越しとなった。
侍女たちの手により入浴を終え、夕食へと臨んだエレノア達を待っていたのは、ワクワクした顔のレミリアだった。
エレノア達と表したのは、本日の夕食には名指しでアネットやエリスも招かれていたからである。
最終的にゴーサインを出した彼女ではあったが、なんだかんだエレノアのアイデアを批評しながらも、内心ではやはりどんなものになるのか気になっていたらしい。
レミリアの許可をもらった後の話を聞きたくてうずうずしていたのだろう。
エレノア達が席に着くなり、若干前のめり気味になりながらも、早速その話について聞いてきた。
「首尾はどうかしら。って、さすがにさっきの今じゃあ、まだそれほどまとまってはいないか」
「さすがにね……。ただ、大枠はだいたい決まった感じだけれどね」
「そうなの? 早いわね」
「なにやら、エレノア様の中ではすでに構想がある程度固まっているご様子です。最初はどのように決めていけば分かりませんでしたが、彼女の考えを聞くうちに、方向性が決まっていきました」
「そうなんだ。ふふ、さすがはエレノア達ね。絆の深さを見せつけられた気がするわ」
レミリアに称賛の笑みを向けられて、くすぐったそうにするアネットとエリス。
対してエレノアは、まぁなんだかんだで死地を共にしたようなものだからなぁ、と感慨にふけったりしていた。
実際には、アネットとコーネリア他、歴戦の冒険者たちがいたので死地というほど死地ではなかったのだが――まぁ、細かいことは置いておく。
とかく、滑り出しが順調と分かったレミリアは、期待のこもったまなざしで『絶対に成功させましょうね』と言った後、翌日からは暇ができれば彼女も参加する旨をエレノア達に伝えたのであった。




