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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
メイワクなGood-bye presents
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ひとまずRepayments:1


 翌日。

 エレノアは、懐かしさを感じる豪奢な部屋の中で目を覚ました。

 眠気を紛らわすために目をこすり、そしてぐっ、と伸びをして眠気を振り払う。

「おはようございます、お嬢様。……すっかり、お店の時の習慣が身についておられますね」

「そう、なのかな……」

「はい……。以前この家や、王都邸で生活していらしたときは、もう少し遅くまでお休みしていましたから」

 まぁ、朝早く起きるのはよろしいことですけどね……と、部屋に入ってくるなり声を掛けてきた侍女は、微笑みながらエレノアのそれを肯定的に受け止めているようであった。

「とはいえ、お食事までお時間がありますから……いかがなさいますか?」

「ん~、練兵場で軽く鍛錬、かな……」

「左様でございますか。でしたら、お着換えと軽い湯浴みの用意をしておきましょう。レミリア様もエレノア様とのお食事は楽しみにしているご様子ですし、お食事の時間にはお戻りくださいませ」

「えぇ。それじゃ、コーネリア、悪いけど付き合ってくれる?」

「かしこまりました」

 コーネリアも、ここ最近はもう諦めの境地に入ったのか、特に気にするでもなく、ただ侍女然として主人であるエレノアに付き従っていた。

 コーネリアを伴って、エレノアは小城ともいえるレーペンシュルク本邸の中庭に設えられた、練兵場へと足を運ぶ。

 この練兵場は、ゲーム『ツイント』でもなんどかイベント戦のフィールドとなる場所で、現実でも元々のエレノアの記憶の中に、そのチュートリアル戦にあたる模擬戦の記憶があることから、今のエレノアの中では、特にそのコーネリアとのチュートリアル戦の印象が強く残っているようであった。

(ある意味では、雪辱戦みたいな感じよね、これって)

 実際には、エレノアが追放され、そして奴隷に堕とされたコーネリアと再会して以降に、エレノアからせがんだ形で何度か相対したが――こうして、きちんと整備された施設で向かい合ったのは実に久しぶりのことであった。

 コーネリアと向かい合い、エレノアは刃引きされた模擬戦用の直剣を両手で構える。

 視線の先、コーネリアは逆に自然体そのもので、剣を構えることなく、涼しい顔をしながらいつでもかかって来い、と言わんばかりにエレノアを見据えていた。

 学園の授業に、あるいは公爵令嬢としての英才教育の一環に、武術教練も入っていたため、エレノアもそれなりには近接戦も行える。

 総合力で言えばBランク冒険者程度の実力はあると前に彼女自身聞いた覚えはあるのだが、それは魔法の実力込みでの評価であり、近接戦のみで言えば、彼女は中堅の――つまり、平凡な武士団所属の武士達と一対一で渡り合える程度の実力しかない。

 エレノアの武術の師でもあるコーネリアは、Aランク冒険者と並びたてる程度の実力もある、正真正銘の実力者。

 双方の間に、緊張感の温度差が生じるのは別段、おかしな話でもなかった。

「――いくわ」

「はい」

 エレノアの宣言をもって、模擬戦はそのままスタート。

 彼女は付与魔法を用いて脚力を強化すると、一気にコーネリアの懐に切り込んだ。

「いつもの通り、甘いですね。実力差からくる恐れを隠しきれていません」

「そうは、言っても、ねっ!」

 まるでエレノアを弄ぶように、コーネリアは軽やかにその攻撃を同じ片手用の直剣で受け止め、あるいはいなして躱していった。

 フェイントを混ぜて切り込んでみても、すぐに見抜かれて本命を防がれ、エレノアは終始いいように弄ばれてしまうのであった。

 そうして、しばらく体を動かし続けること十数分。

 コーネリアは、エレノアの猛攻を防ぎながら、空を仰ぎ見て『そろそろ頃合いですか』と呟く。

「エレノア様。そろそろお時間です。軽く湯浴みをして、食堂へ向かいましょう」

「はぁ、はぁ…………くっ、全然追いつける気がしなかった……」

 エレノアは、いつもどおりまったく勝てる気配がなかったことに悔しそうにしながらも、そこには思いっきり体を動かせたことで、すがすがしい気持ちも含まれていた。

 ただ、コーネリアの強さにはやはり、少々思うところがないわけでもないが。

「…………コーネリア、本当にその強さで貴族の出なの……?」

「まぁ、私の場合はどうせお仕えするなら、護衛も担えるような侍女になりたい、という思いが強かったので……」

「すごいわね、本当に…………私には、やっぱり真似できそうにないわ……」

 そもそも、上位貴族に仕える侍女、というのはそのこと如くが、準男爵以上の爵位を得た貴族、ないしその関係者となっている。

 極力怪我などを負わないように、大切に育て上げられる貴族令嬢たちにとって、武術教練というのはほとんど最低限体得すればいいようなものであった。

 最低限、というのは護衛がいなくてもある程度身を守れるくらい、という意味合いなのだが――とかく、そういった風潮が強いゆえに、箱入りになりやすい貴族令嬢たちは、高位貴族の侍女にはなれても、最後の砦としての実力はいないよりかはマシ、別に女性の護衛官を雇うのが普通だ。

 そのため、彼女がその風潮に、貴族令嬢の常識に抗ってそうなったのは、何か深い事情でもあるんだろうな、とエレノアはそこに踏み込みこそしなかったものの――やはり、自身にはたどり着けない領域だな、と思った。

「でも、ありがとう。そのおかげで、あなたは私にとって最高の侍女よ」

「ありがとうございます。これからは、本当にお嬢様の身に付き従えますからね。ずっと……ご一緒させてくださいね」

「あはは……」

 これが異性だったら、ちょっとヤンデレっぽいなぁ、などと思いながら、エレノアは再度彼女にありがとう、と言って、

「……さて。それじゃ、朝食に遅れないようにしないとね」

「はい。……レミリア様は、本当にお嬢様とのお食事を楽しみにしておられますからね」

 その場を後にした。


 ――ちなみにこれは蛇足だが、コーネリアが言ったことは、名実ともにエレノアのみに付き従う、という意味での言葉であった。

 一度奴隷身分に落ちて、王室の計らいで元の身分に戻ったのは確かに事実なのだが……実際には公爵家と再契約の段取りになった時に、コーネリアの方からそれに断りを入れたのである。

 彼女は、どのみちエレノアに仕えるのであれば、正式にエレノアと雇用契約を交わしたいと宣言。

 当主となったレミリアも、問題はないと判断してこれを承諾し、現在は名実ともに主人はエレノアという事になっているのである。




 さて。

 湯浴みを終えて、朝食をとるために食堂へと訪れたエレノア達であったが、そこにいたのはレミリア(と、彼女付きの侍女)のみであった。

 部屋を見渡すと、他には誰もおらず、エレノアはアネット達はどうしたのだろうか、と困惑しながら席に着いた。

「おはよう、エレノア。よく眠れたかしら?」

「えぇ、ゆっくりと休ませていただきました」

「そう。それはよかった」

 レミリアは、それからこの場にはいないアネット達について、彼女たちは食堂での食事では少々緊張しすぎてしまうので、宛がった客室で別途食事をとっているとエレノアに伝えた。

 エレノアはそれを聞くと安心した顔になって、

「それならよかったです。慣れない空間で休むことになって、体調でも崩したのではないかと気になってしまって……」

「そうね。アネットさんは、なんとなく慣れた感じはするけど、エリスさんはやっぱりこうした貴族邸での宿泊には、慣れていない様子だったしね……」

 メイドに確認を取ったところ、エリスだけは、ちょっとだけ疲れが取れきれてないように感じたという。

「来るときも、鉄道魔導船の三階席の雰囲気に耐えがたい感じみたいだったし、やっぱりちょっと無理があったのかな……」

 招待されてしまい、断ることができなかった彼女は、慣れない空間でそれでもあきらめて寝ざるを得なかったのだろう、とエレノアはちょっとだけ彼女を連れてきたことに対して申し訳なさを感じてしまうのであった。

 とはいえ、彼女一人を別待遇にすることもできようはずはなく。

「まぁ、彼女に関しては今は気にかけておくしかないから置いておきましょう」

「そうですね……」

 結論、そうするしかない二人であった。

 それから、ほどなくして二人のもとにメイドの手によって朝食が運ばれてくる。

 食べながら、話題に上がるのはやはりこれからのレーペンシュルク家についての話だった。

「家の経済事情なんだけれどね。やっぱり、ちょっと思わしくない感じなのよ……」

「というと……?」

「うん……予期していなかったことだし、敵の方が何枚も上手だったこともあったから仕方がなかったことなんだけど……やっぱり、サキュバス達に、軍需工場を荒らされたことが、王家や、軍部。それから武門系の貴族たちにはよくないように映ったらしくてね……」

 近く、レーペンシュルク家は軍需産業から撤退することを命じられる可能性が濃厚であることを、エレノアは通達された。

 レーペンシュルク家にとって、軍需産業は大きな収入源の一つであった。

 多額の借金を背負ったところにその可能性は、ダブルパンチもいいところ。

 早いうちに別の産業を発掘しないと、大変なことになってしまうだろう。

 これにより、エレノアのレーペンシュルク家本邸への滞在期間は、より一層伸びる可能性が高くなった。

「分家筋からも、結構非難の声が届いているんだけど……さすがに、ちょっとしんどいわ……」

「そうですね……」

 分家、すなわち殆ど外野に近い者たちからすれば、単純に外敵の工作によって、軍事機密をいいように扱われてしまった戦犯者、という風にしか映らない。

 あまりいい顔をされないのも当然である。

 が、王家がそのことに関しては軍需産業からの撤退に罰をとどめたことで、あまり深く追及もされなかったのは幸いだ、とレミリアは語ったが。

 とはいえ、それがきっかけで分家筋も頼れない状態なので、本当に自分たちだけでどうにかしないといけない状態である。

「まぁ、そのあたりの詳しいお話は、また後にしましょう。ひとまずは――急いで返済しないといけない債務を、どうにかしないと……」

「あぁ、うん。それは確かにそうね……。さっそく、食事を終えたらとりかかるとしましょう。エレノア、お金の準備は……?」

「アネットさんやエリスさんに声を掛ければ、おおむね大丈夫よ」

 資産管理については、おおよそ彼女たちに任せてある状態だとエレノアはレミリアに告げる。

 するとレミリアは、

「商業ギルドの職員にそれをやらせるって、ある意味豪胆ね……」

 よく決断できたわね、と苦笑しながらそうこぼした。

 王国の金の巡りを監視する役割を与えられた商業ギルドにとって、新規気鋭の店の金の動きを、そしてその店の関係者の資産状況を逐次把握できるというのは、とても重畳なことである。

 ただ、それは常に商業ギルドに金の動きが筒抜けになるということも示しており、少しでも金の種を隠しておきたい商人や貴族にとっては、あまり好ましいものでもなかった。

 それゆえの、レミリアの発言であった。

 そうして、今後の予定を話し合いながら朝食を取り終わると、エレノアは食堂を出たその足で、アネット達の部屋へと直行。

 彼女達と、レミリアを伴ってレーペンシュルク領都の商業ギルドへと足を運んだ。


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