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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
メイワクなGood-bye presents
60/66

迷惑なGood-by presents:2


 王都の駅、レーペンシュルク公爵領都に向かう鉄道魔導船(レールシップ)の乗り場で、エレノアはベンチに座りながら公爵家で今起こっていることについて考えを纏めていた。

 ちなみに、店は話し合った結果、中核であるエレノアがいなくなってしまうと商品の補充ができなくなってしまうという大問題が発生するため、結局経営の継続を断念。

 一時的に、休業することにした。

 店の前にはその旨を伝えるための掲示物を張り出し、数日の準備期間ののち、予告通りの休業期間を迎えることとなった。

 閑話休題。

(実家が背負っていた借金、ね……まぁ、私も思い当たる節がない、といえばないこともないんだけど……)

 実際のところ、手紙を読んだ時こそなにこれ、と思ったものの、ゲームに該当するイベントがないかとナカノヒトの記憶を辿っていったことで、その片隅にあった一つの情報にたどり着いたのである。

 そのため、その焦りは表層に少ししかでることはなく、周りの目には公爵家没落の危機にあってなお、落ち着き払った行動をする――という、頼りがいのある姉のように映っていた。

 ただ、本人的にはその情報量の少なさに、内心頭を抱えたい心境なのだが。

(というか、ゲーム中じゃリレイズヒールポーションとAリカバーヒールポーションをそれぞれ10本、作って納品するだけの簡単なクエストだったはず……なんだけど、なんか元々の私の記憶が、そう簡単にはいかないって言ってるのよねぇ……。何を見落としているんだろう)

 リレイズヒールは、リカバーヒールのさらにワンランク上にあたる、最上位の治療魔法にあたる魔法だ。ゲーム中では、味方一体のHPを全回復、さらに毒や眠り、麻痺といった能力値低下系を除くステータス異常を一挙に解除するというとんでもない性能を持っていた。

 まぁ、さすがに全体治療魔法に関してもこれに匹敵する魔法があるとさすがにゲームバランスが崩れるからか、『エリアリレイズヒール』などという魔法はイベント専用で、存在こそ語られるものの実際には使用できないようにされていたが。

 ちなみに両方ともアンチミネラリーヒールポーションと同格の値打ちであるため、今のエレノアでも同じようなことはやってやれないでもないのだが――実際にそれをやろうと考えると、どうしても何か見落としているような気に駆られてしまう。

 ゆえにエレノアは、その見落としがなんであるかを、考えている最中なのだ。

 が、しかし――

(あれも違うし、これも関係なさそう……あぁ、もう、一体何が引っ掛かっているのかしらね……)

 考えれば考えるほどに泥沼にはまってしまい、一向に答えは見つかりそうになかった。

 唯一ヒントになりそうだったのは、同行を求めた時のアネットやエリスだろう。

 彼女たちは、エレノアに同行を求められた時、困惑と呆れこそ隠せずにいたものの、実に理にかなった考えだ、といわんばかりに頷いていたからだ。

 ゆえに、その引っかかっているナニカは、アネット達――ひいては、商業ギルドに関係のあることなのだろうとあたりをつけた。

(なら、やっぱり彼女たちに任せた方が正解、なのかしらね)

 これがゲーム中であれば、前述の通りただクエストの課題となるアイテムを作って納品するだけでクリアとなった。

 その際にも、エレノア達の行動に何ら問題を呈するような言動をNPCは発言しなかったため、(クエストの一種故の演出のカットでなければ)ゲーム中のエレノアだったからこそ、問題にならなかった何かがあったのだろう。

(……とはいえ、ゲームとは違って私の所在ははっきりしているし、公爵家についてもお姉様が継いでいるから、借金返済のための資金源に関しても私が動けばどうにかなるはず、なのよね……)

 逆に言えば、そこにヒントがある、とエレノアは睨んでいる。

 エレノアの黙考は、その後鉄道魔導船が到着するまでしばし続いた。


 鉄道魔導船は、外見上は前世の電車を一回り大きくしたようなものだった。

 ただ、その内部はさすがは魔法文明と言ったところか、空間魔法によって船という表現にふさわしい空間が広がっている。

 内部では外周を乗り降りをするための通路が走っており、その通路の内側に空間が広げられた客室が存在する。

 客室部分は8両ほどにまで空間が広げられており、さらに横方向にも幅が5両分広げられている。それが上方向に三階層分。つまり、単純計算で外見の120倍の空間が内部に広がっているのだ。

 ちなみに1編成あたり4両で、うち2両は動力車。つまり客車は内側の2両しかない。

 たとえ2両であっても、内側が内側だ。

 容量は計り知れないほど大きいと言える。

 さて、そんな魔法文明の賜物ともいえる鉄道魔導船に乗車したエレノア達は、レーペンシュルク領につくまでしばし二階の一角に陣取り、車窓を模した魔道具で外の風景を楽しむことにした。

「うぅ……私達、出張などで鉄道魔導船を使用することはありますが、さすがに一階しか使用したことはありませんでしたから……いきなり三階はさすがに緊張します……」

「三階は上位貴族向けの階だからね……」

 さすがに、一番大きなサイズのコンパートメント『ノーブルコンパート』が二部屋に、中くらいの個室『スイートコンパート』が五部屋、合計七部屋の個室しかないこの階は、料金も相応に高く、内装も豪華絢爛。平民がそうやすやすと使えるようなものではなかった。

 エレノアは、側付きの侍女に『公爵家の者らしく』とたしなめられ、泣く泣く一番大きな部屋を取る羽目になったが――早くも、その言葉に従ったことが悔やまれる光景が広がってしまい、いたたまれない気持ちにさせられていた。

 ちなみに二階は指定席のクロスシート席が半分と、もう半分は小さめの個室『コンパート』が六部屋。一階は全席が自由席のクロスシートとなっている。

 アネットは冒険者だった頃に二階のコンパートメントには入ったことがあったようだが、エリスは一階しか使ったことがないという。

 個室席を使用したことがあったアネットはともかくとして、エリスにはやはり刺激が強すぎたか、と思ったエレノアは、侍女たちに断って彼女を伴い、一旦席を外すことに。

 二階の指定席エリアの後ろに設えられた、サロンスペースに移動すると、そこでようやっとエリスは人心地着いたように長く息を吐いたのだ。

「ありがとうございます、エレノア様」

「いいのよ、別に。私も……なんというか、こっちのほうが落ち着くしね」

「……まぁ、エレノア様の場合ですと、納得できると言いますか……なんというか、一か月しか平民として生活していなかったのに、我々の生活にとても馴染んでいましたものね」

「まぁ、ね……」

 とても、その平民に相当する魂が入り込んできて、精神が融合してしまったからなのだとはいえるはずもなし。

 エレノアは、言葉を濁すことしかできなかった。

「……それで、結局どうするおつもりなんです? その、公爵家の件については」

「それなんだよね。……結論から言うと、私のお店から資金供出することって、できないんだよね? 方法の一つとしては考えているんだけど、何かが引っ掛かっているような気がして……決断に踏み込めないのよ。なにか、忘れているような気がするんだけど……エリスさんには、わかる?」

「……そう、ですね…………。わかる、わからない、で言えば……少なくとも、その疑問に対する答えのいくつかを、私は持っています。ですので、それを相談してくださったことに関しては、ご英断だったと思いますよ」

「本当?」

「えぇ。なにしろ……今のエレノア様がうかつに動いて公爵家に手助けすれば、最悪話が余計にこじれる可能性がありますから……」

「そう……やっぱり、今の私だからこそ、なにか問題があるんだ……」

「エレノア様……?」

 気になっていたことが氷解する。

 それと同時に、ゲームにあったクエストとは違う問題になりつつあるという現状を実感し、エレノアは苦虫をかみつぶしたような顔になった。

 ただ、それをエリスにどう伝えればいいのか、エレノアは未だ状況を整理しきれていない。

 エレノアは、詳しくは本邸に着いてからレミリアも交えて、再度話すことにしようとエリスに申し出て、以降はレーペンシュルク領都に到着するまで、どうでもいい世間話に講じるのであった。




 そうして、数時間かけてようやっとエレノア達がレーペンシュルク公爵家の領都、ひいては本邸へと到着すると、彼女たちを出迎えたのはレーペンシュルク公爵の新当主となった、レミリア・レーペンシュルクその人であった。

 彼女は、エレノアの姿を認めると、途端に女当主としての立場を捨てて、一人の姉としてエレノアの元へと駆け寄った。

「エレノア! あぁ、エレノア、よく戻ってきてくれたわね! これで我が家は百人力を得たようなモノよ!」

「お、お姉様、落ち着いてください。私にも、できることとできないことがありますから。と、とりあえずは詳しく話を聞かせてください。それで、今後どうするべきかを話しましょう?」

「あ……うん、そうよね。いくらエレノアでも、頼りすぎてしまうのは問題があるものね……。わかったわ。それじゃあ、ひとまずお昼ご飯にしましょう。あなた達の到着予定に合わせて料理を作らせているから、もうそろそろ準備が整うはずよ」

「ありがとうございます……」

 あまりにも当主らしくないふるまいに、エレノアはあたふたとしながらもレミリアに落ち着きを取り戻させる。

 やはり、公爵として独り歩きを始めた直後にぶち当たってしまった問題に対し、臣下の者がいるとはいえ、限られた人数で解決にあたらなければならない現状に、相当参っている様子であった。

 ひとまず、落ち着かせることに成功したエレノアは、長い移動時間も相まって小腹が空いていたこともあり、レミリアの申し出をありがたく受けることに。

 やはり、腹が減っては戦ができぬ。そればかりか、良い考えも浮かばぬものなのだ。

 エレノアは、頷いてから首を少し傾げて、他の人達はいかがいたしましょう、と聞き返した。

 するとレミリアは、それに関してもぬかりなく、エレノアの側付きの侍女を除き、人数分の食事を用意してあると告げた。

 そして、エレノア達は手荷物を侍女やメイドたちに任せると、レミリア(の侍女)の先導のもと、本邸の食堂へと誘われるのであった。


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