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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
54/66

Forts of succubusを電撃攻略せよ:5

一話にまとめるには長すぎて、この話だけでは短い中途半端な長さ。

悩んだ挙句、4と5に分けたので、今回は短いです。

申し訳ありません。



 室内にもかかわらず、互いの魔法が両者の間を飛び交い、ときたまサキュバスが放った銃弾がエレノアの張ったバリアに弾かれる、という膠着状態は、そのまま完全に夜が明けるまで続けられた。

 しかしながら、やはり補給物資の有無が勝敗の決め手となり、最終的にはエレノア達に勝利の女神が微笑んだ。

 最初に攻撃手段を失ったのは、銃を持ったサキュバスだった。

 彼女たちが扱う武器は、あくまでも極小規模の爆発魔法による爆圧を使用して弾頭を射出するタイプのもので、『火器』に分類されるもの。

 ほかにもタイプはあるものの、彼女たちの扱う銃が火器である以上は、弾薬がなければ武器として使用することはできなくなる。

 ゆえに、弾切れを起こしたサキュバスから順番に魔法による攻撃へと移っていったのは当然のことであった。

 しかし、銃を使用している時点で、半ば『魔法は不得手』という事実を自白しているようなもので、彼女たちによる魔法攻撃は、エレノア達にとっては豆鉄砲のようでしかなかった。

 そして、次に戦線離脱したのは、魔力切れを起こした後衛のサキュバス達。

 弾切れで、銃が使い物にならなくなったサキュバスも含め、彼女たちは魔力あってこその戦力だった。

 それがなくなった以上、彼女たちは戦場において格好の餌食となった。

 そうなれば、あとはエレノア達の――主にカイル、ルルネ、アネットの三人の独壇場だった。

「この時を待っていました……!」

 再び、アネットが室内を縦横無尽に跳躍。

 今度は、後衛を担っていたサキュバス達の、魔法による妨害もないため、すんなりと敵陣営の背後に切り込むことが可能となり、数秒のうちに後衛のサキュバス達を屠ってしまう。

 そして、後衛のサキュバス達を全滅させたところで槍を構えていたサキュバスの一部がアネットの方へと振り向く。

 アネットは、振り向きざまに振るわれた槍を避けるために一旦後ろへ飛びのき、サキュバス達から距離を取った。

 しかし、そうしたところでサキュバス達の前後を取ったことに変わりはない。

 サキュバス達は、圧倒的な力量を持つ三人を前に、じりじりと密着しつつあった。

「くっ……ここまで、ね…………」

 司令官たちの前方からはカイルとルルネが。

 そして後ろからは、アネットが。

 それぞれの得物を手に、じわじわと迫り行く。

 アネットが次に跳躍すれば、あるいは魔法攻撃の脅威から解き放たれたカイルが近接戦に踏み切れば、先ほどまで膠着状態にあったこの戦況は、即座に決着へと向かうことだろう。

 司令官のサキュバスには、もう夢の世界へと逃げ込むしか手段がなかった。

 しかし彼女にも、このアジトを預かる者としてのプライドがあり、彼女とその側近だけが夢の世界に逃れることはそれが許さなかった。

 ゆえに――司令官のサキュバスは、神妙な面持ちになって、

「いいわ……殺しなさい。どのみち、次のシナリオ(・・・・)はすでに始まっている。私が死んでも死ななくても、そのシナリオ(・・・・)の結末に変わりはないのだから」

「次のシナリオ……?」

「どういうことですか、それは」

「それを馬鹿正直に私の口から言う義理はないはずよ。わからなければ……そこにいる、聖女にでも聞くのね」

「…………、」

 聖女。

 この場において、それを示す人物は一人しかいない。

 アネットが、そしてカイルとルルネ、コーネリアが、その彼女に視線を送る(アネットは立ち位置的にサキュバス達が邪魔になり、見えなかったが)。

 視線の先で、唯一司令官のサキュバスの言葉の意味を知るエレノアは、ぎゅ……と、唇を噛むばかり。

 その表情から、サキュバスの言う『シナリオ』がろくでもないことであることだけは確かだと理解したアネットは、とりあえず情報を吐こうとしないサキュバス達にとどめを刺すべく、一歩踏み込んだ。

「ぁ――ま、」

 エレノアが、何か言葉を言う前に。

 アネットの凶刃は、瞬く間に二人、四人とサキュバス達に突き立てられ、彼女たちの命を奪っていく。

 そうして、司令官のサキュバス以外を殺し尽くしたところで、アネットは彼女へと向き直った。

「もう一度だけ、聞きます。あなたの言った、『次のシナリオ』とは?」

「何度聞いても同じよ。これ以上、私の口から言うことはない。むしろ、おしゃべりが過ぎたくらいなんだから」

「そうですか……」

 そうして、最後にちょっとした(・・・・・・)やり取りが執り行われるや、アネットは司令官のサキュバスに、その刃を――振るわなかった。

「…………どういうこと? 私を殺さないの?」

 他のみんなを殺しておいて。

 そう言うサキュバスに、エレノアのもとへと戻っていたアネットは首だけ振り向いて、

「エリスのことを考えると、全員を殺すのはよくないですからね。あなた達が彼女をサキュバスに変えたんです。だから……責任をもって、あなたが彼女の今後の生活を支えてください」

 と冷たい声でそう返答した。

 アネットにとっては、親友であるエリスをサキュバスに変えた敵のサキュバス達は、復讐の相手でしかなかった。

 魔族であり、一般的には討伐対象にもなり得る相手で、これまでに行ってきた所業も考えれば十分に討伐対象足り得る。そのため、アネットは今回の一件において、かつて冒険者時代に盗賊団や暗部組織を相手取った時と同じように、手心や道徳というものを一切考えてはいなかった。

 ただ、討伐対象としてしか見ていなかったのである。

 しかしながら、三つのアジトを壊滅に追い込み、あとはこの司令官を倒せばとりあえずは一段落か、という段階に至って、急にその後のことが気になりだしたのだ。

 果たして、急にサキュバスに成り変わってしまったエリスが、今後普通の生活を送ることができるのだろうか、という至極もっともな課題についてである。

 論ずるまでもないが、アネットはサキュバスの生態こそシリカ経由の情報で少し齧った程度こそ知り得ているが、それは敵として相対した時に役立つくらいのものでしかない。

 サキュバスとしての生活上の心得、何が毒で何が食用可能なのか。それらのことは一切不明なままである。

 それに、サキュバスといえばという固定観念こそあるものの、一番重要な『精気を吸い取る』という部分に違いはないであろうことは、予測がつく。

 果たして、それが周囲の人間に害を及ぼすか否か。そのあたり次第では、エリスの今後の生活にも、大きく影響が出てくることは確かだった。

 だから、アネットはその保険のためにも、この司令官のサキュバスだけは、生かしておいた方がいいだろうと考えたのである。

「――エレノア様、そういうわけですから、彼女だけは助けてもらえるよう、()に掛け合ってもらえませんか?」

 アネットなりの考えを知ったエレノアは、少し考えるそぶりを見せた後、わかったわ、と短く答えを返す。

 司令官のサキュバスは、

「…………その考えが、いずれ破滅を呼ぶわよ。せいぜい後悔しないようにするのね」

 と、ただお決まりのセリフを吐くだけであった。


 指令室の窓からは、すでに朝日が挿し込んでいた。

 拘束魔法によって捕縛された司令官のサキュバスは、そのままエレノア達とともに店に連行されることとなり、また行動可能な戦力足りえるサキュバスのいなくなった王都内のサキュバスのアジトは、早朝の冒険者ギルドに張り出された緊急依頼により駆け付けた冒険者達に対し事実上の無血開城。

 ここに、王都内における、エレノアの貴族社会追放劇を発端としたサキュバス騒動はひとまずの終息に至った。

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