Forts of succubusを電撃攻略せよ:4
そうして、館の制圧をほぼ完了したころには、窓の外の空がだいぶ白んできていた。
『ハイパームーブ』によってアジトからアジトへの移動時間は一分以下に抑えられているとはいえ、それでも三つものアジトを、それも内部を制圧しながら、というのはなかなかに時間がかかる。
夜が明けてもおかしくはなかった。
それでも、ルルネがマーキングしたサキュバスが逃げ込んだアジトの、最後の一つ。その屋敷も、残すは他のアジトの時と同じく、司令室のみとなっていた。
エレノア達は、その司令室に入る前に、一旦玄関ホールの三階部分に戻って、作戦を練ることにした。
「……あの部屋にいるサキュバスなんだけど、魔力的には、ちょっとてこずりそうではあるけど、倒せないというほどでもないとも思うけどね」
「そうなの?」
「うん。……まぁ、ギルドに来る依頼に例えれば、Bランクの依頼、くらいかな」
「Bランク……かなり強いと思うのだけれど……」
エレノアは、少し前に鏡を介して自分に対して『真実の眼』を使用した際の、自分の能力分析の結果を鑑みて、果たして戦力になり得るのだろうか、と少し疑問に思う。
冒険者ギルドは、『ツイント』にはいわゆる施設としては登場せず、ただそういった組織の管轄する建物が各地に登場する程度の物だった。
場合によってはシナリオやサブクエストなどで登場したりもするが、ただそれだけで、詳しい設定などはファンブックなどにも掲載はされていなかった。
ゆえに、AランクBランクといっても、かなり強いなぁ、とか1ランクしか違わないじゃん、くらいにしかわからなかった。
「まぁ、一般論で言えば確かに強いよね」
「そうですね。まぁ、一兵卒が一班程度の人数で挑めば、半数以上が殺されて引き返さざるを得ない程度の実力はありますが……」
「Bランクの冒険者か、武士の有力者たちが集まれば互角以上の戦いはできるわな」
武士の有力者、つまり武士団の中でも上位に位置する者たちのことだが、それらの人達の実力を知らないエレノアは、やはり自分がどの程度の実力にあるのかはわからないままだった。
ちなみに結論を言ってしまえば、実際の今の彼女の実力は、ナカノヒトの影響もあって魔法の威力が底上げされていることもあり、魔法使いとしてはおおよそシリカと同等以上の力量に到達していた。
唯一、神聖魔法に限っては、信仰心の兼ね合いからシリカに遠く及ばないという弱点もあるが――総評して、Bランク冒険者程度の実力は十分にあるといえる。
とはいえ、それはあくまでも魔法使いとしてであり――前衛としての実力は、あくまでも中堅武士程度の実力しかないのもまた、確かな事実ではあるが。
「とりあえずエレノアさんは俺らのサポートに回ってくれ。実力的にも、それが一番だ」
とりあえず、カイルはエレノアの実力から、後方からのサポートに徹してほしいと彼女に依頼し、どれくらいカイル達の動きに貢献できるかわからなかったエレノアはこれに迷うことなく同意した。
「んじゃ、頼んだ。あとは――コーネリアさんはエレノアさんの護衛に徹してほしい。あんたも、実力的には俺らと同じくらいはあるだろう?」
「そうですね……まぁ、一応Aランクの冒険者として認定も受けていましたから」
「え?! そうだったのコーネリア?!」
「はい。これでも私は、お嬢様を守る最後の一線を任されていましたから」
実力をなまらせないためにも、定期的にAランク冒険者としても活動していたという。
まさかの四人目のAランク冒険者の出現によって、エレノアははやキャパシティオーバーになりつつあった。
「……あなたと手合いをした時に、軽くあしらわれる理由がなんとなくわかった気がするわ」
『ツイント』のチュートリアルバトルにおいても、最終的に王太子が『もてあそばれて終わった気がする』というセリフを吐いていたが、まさしくコーネリアにとっては遊ぶ程度でしかなかったのだろう。
コーネリアの知られざる本当の実力を知ったエレノアは、頼もしいものを見つけた、といわんばかりの視線を送り続けるのであった。
そうして、入室時の陣形は決まり、いよいよアジト攻略も最終局面を迎えることになった。
三つ目にして最大のサキュバス達のアジト。その司令を務めるサキュバスがいるであろう部屋に、先んじて入ったのはアネットだった。
彼女とカイルが持つスキル『縮地』は、魔法『ショートランド』をそのままスキルにしたようなモノで、超空間を展開し経由することにより、起点と目的地点の間にある通常空間を無視することができるという利点があった。
ゆえにアネットは、『気配操作』のスキルも相まって、相手に気づかれずに部屋の中に忍び込むことができるのだ。
彼女が超空間へ消えたのを合図に、残ったメンバーもまた、扉から司令室へと入室していった。
室内では、中央付近で数名のサキュバス達が待ち構えており、エレノア達が予測していたように臨戦態勢を取っていた。
重厚な盾を持ち、エレノア達の攻撃をすべて防がんとそれを先頭で構えるサキュバス。
彼女らに守られる形で、中衛は槍を構えたサキュバスが槍衾を展開し、肉弾戦を得意とするカイルとコーネリアに備えている。
そしてそのサキュバスに混ざる形で、一人だけ若干の装飾が施されたショートソードを構えている者も混じっており、エレノア達はそのサキュバスがこのアジトの司令なのだろうとあたりをつけた。
司令は、他のサキュバス達よりもエナメルのような皮膜に艶があり、エレノア達が使用している光源魔法の照り返しが強かった。
「ついにここまで来たのね」
「………………」
エレノアの姿を認めたその司令らしきサキュバスは、緊張をはらんだ声で彼女にそう言葉を投げかけた。
彼女は、何も言わないエレノアにさらに言葉を重ねる。
「……まさか、昼行性のはずの人間たちが、こんな時間まで起きてここまで攻め込んでくるなんて…………。本来なら夢の世界にいてもいいはずの時間を、ぶっ通しで動き続けたんだもの、さぞ眠いのではないかしら? ねぇ、エレノア・レーペンシュルク?」
「お生憎様。あんた達が大勢で私の店に押しかけてきてくれたおかげで、眠気なんてすっかり冷めてしまったわ」
「あら、それは申し訳ないことをしてしまったわね」
少しも悪びれずにそう宣う司令官。
そして――
「ところで……先ほどから一人、ネズミが一匹こちらを狙っているようなのだけれど、あなたのお仲間でよろしかったかしら?」
「………………チッ」
エレノア達の方を向いたまま、彼女は先に部屋に潜入していたアネットのこともぴたりと言い当てて、彼女に所在を明かさせた。
おおよそチャンスがあればすぐにサキュバス達に刃を突き立てられるような、遠すぎず近すぎない絶妙な位置。
そこに立っていたアネットに向けて、サキュバス側の魔法使いが拘束魔法を放とうとするが――さすがにアネットはそれにはかからなかった。
アネットは自身の存在が明かされるや否や、『縮地』によって部屋を縦横無尽に跳びまわりながらその拘束魔法を回避。
むしろカウンターで、サキュバス達に手痛いダメージを与えてカイル達の元へと戻ってしまう。
中には、最初に攻め込んだアジトの司令官と同じように、首を刈られたサキュバスもいた。
司令官もそのうちの一体であり、彼女は真っ先に首元を狙われた。アネットの巧みな気配操作で気配の探知を妨害されながらも、何とか致命傷だけは免れたが。
「ぐっ…………なか、なかにやってくれるじゃない……! さすがは、元Aランクの冒険者、というだけのことはあるのね……」
「残念ながら、同じような修羅場は何度も潜り抜けてきましたから」
獲物として定めた盗賊や暗部組織など、数知れず。
アネットの実力は、今相対しているサキュバス程度ではやはり相手にはならなかったようである。
「やっぱり、私では役不足……それでも」
ただで負けるわけにはいかないと、司令官は声を張り上げて部下たちに指示を出していく。
サキュバス達は、下手に近接戦を望めばカイルの、コーネリアの、そして最も警戒しているアネットの餌食になりかねないと判断し、銃や魔法による戦いをエレノア達に挑んだ。
しかも――
「その銃は――ッ!?」
サキュバス達が構えていた銃は、このアジトのほかのサキュバス達が使用していた武器とはかなり意匠が異なっていた。
そして、エレノアはそれに見覚えがある。
「うふふ、気づいたかしら? せっかく、あなたの実家そのものに潜入で来たんだもの、私達がその設備を横取りしないわけがないわよね?」
それは、つまり、レーペンシュルク家が管理している軍需工場がサキュバス達の自由にされているという事であり――エレノアは、その事実が孕む可能性に、いち早く気づいた。
「まさか…………あんた達、私の実家が開発している、アレを……」
「アレ……あぁ、あのデカブツのことね。もちろん、あれも美味しくいただいたわよ。私達の今回の作戦が失敗に終わって、撤退ないし全滅した場合の保険は必要だものね」
「なんてこと……」
「お嬢様、なんのことでしょうか?」
もともとのエレノアの記憶によれば、このアジトの司令官が言っているデカブツは、国家機密にも指定されており、レーペンシュルク公爵家の中でも限られた人しか知らされていない。当然、使用人に対してもかん口令が敷かれており、元々のエレノアはコーネリアにもその守秘義務を守っていたようである。
ざっくりと、その秘匿されていた情報をひけらかせば、エレノア達の陣営に緊張感が走ったのは言うまでもない。
――なにしろ、それと司令官とエレノアの対話をつなげれば、サキュバス達が、人間たちの陣営に先んじて『戦車』や『列車砲』などの次世代大型兵器を配備しているという事になってしまうのだから。
「私達を、全滅させたいのなら好きになさい。もとより、ただでやられてあげる気もないけど――私達が死んだら、その時はそのとき。どちらでも、お好きな運命をお取りなさいな」
その司令官のサキュバスの言葉と同時に、少しの間おさまっていたサキュバスの攻撃が再開される。
魔法銃による断続的な攻撃と、ルルネには遠く及ばないものの、そのまま受けるには少々危険な魔法攻撃。
激しく連発されるそれらの攻撃に、エレノアは思考に奪われかけた意識を慌てて戦闘へと戻し、
「『シールドバリアー』、『ホーリーウエーブ』!」
敵の攻撃に対抗すべく、防御用の付与魔法と神聖魔法による魔法攻撃をどんどん放っていく。
当然敵も黙ってエレノアの神聖魔法を受けてくれるわけもなく、
「『シールドバリアー』、『ヒートウエーブ』」
と、エレノアの魔法に対抗するために、同じ防御魔法を使用したが。
ただ、やはり戦力的にはエレノア達の方が優勢で、エレノアの放つ魔法には敵の『シールドバリアー』の強度が勝るのか、『ホーリーウエーブ』はほとんど敵に影響を及ぼさないで終わるものの、ルルネの魔法はそのこと如くが敵の『シールドバリアー』による障壁ごと敵にダメージを与えていく。
それでも敵の壁役は優秀なようで、ルルネの放つ魔法は『シールドバリアー』を超えてなお、その壁役が持つ盾に受け止められてしまっていた。
「だめだよ……相手の持つ盾が、多分魔法に対して強い防御性能を持ってるんだと思う。『シールドバリアー』もかかっているし、私でもちょっと厳しいかも……」
ごくごく、とマナポーションを飲み干しながらルルネがそう呟けば、アネットが心配はいらないとルルネに返す。
「エレノア様がお作りになった補給物資は、まだ潤沢にあります。このまま続けていれば、相手のジリ貧負けを誘えるはずですから」
アネットの言葉は、まさしく敵の痛いところを突いたらしく、サキュバス達の司令官が小さく舌打ちをしたのをエレノアはしっかりと見ていた。




