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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
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月の下のGenocide:2


 ――サキュバスが動く。

 動いたサキュバスが袈裟斬りにされる。

 ――サキュバスが特攻する。

 特攻したサキュバスが魔法で迎撃され、周囲のサキュバスも巻き込んで倒される。

 ――サキュバスが逃げる。

 逃げた先で首元を断ち切られ、頭と胴体が死に別れする。

 エレノアの店の前に現れたAランクの壁にサキュバス達はなすすべもなく、何かしらの行動を起こすごとにその数をどんどんすり減らしていく。

 それも当然であろう。

 Aランク冒険者というのは、RPGに例えればラスダンとまではいかないが、終盤のダンジョンを攻略できるようなレベルの戦力が求められる。

 間違っても、魔族と言えど雑兵クラスが立ち向かって叶う相手ではない。

 そして、サキュバス達には夢魔法で夢の世界に逃げ込むという手段もなくはないのだが――

「夢の世界に撤退するか……? いや、今さら無理だ……あいつを眷属にしたんだ、直に場所が割れる」

 そう。

 彼女たちは忘れてはならない。

 誰に何をしてどうしたのか。

 サキュバス達は、エレノアに近い人物であるエリスを捕らえ、眷属にしたうえで、彼女のもとに()として送り込んだのだ。

 だが、エレノアの方が何枚も上手であった。

 サキュバスと化したエリスが()である意義はすでにないも同然にされてしまっているし、奇襲が失敗したのも彼女が夢の世界を幻視し、いち早く襲撃に気づいたため。

 これについては、エレノアがこの時間帯まで起きていたことも誤算だったが――エリスが気づかなければ、少なくともエレノアが寝静まるまで待つことができただろう。

 それだけ、彼女がエレノア達のもとへ帰ったことの影響が大きかった。

 サキュバス達がその可能性に行きつかなかった時点で、勝敗はほぼ決まったも同然であった。

 エリスがいれば、サキュバスの力が覚醒しつつある彼女は、夢の世界を通じてサキュバス達の魔力の痕跡を辿り、彼女たちの王都内のアジトにエレノア達を導くことだろう。

 そうなればどのみち、待ち受けるのは全滅だ。

 奇襲に参加したサキュバス達は、一つの選択を迫られていた。

 ――すなわち、撤退してわずかながら寿命を延ばすか。それとも、ここで果てるかである。


 戦場を縦横無尽に、そして立体的に立ち回り、サキュバス達を翻弄するアネット。

 そんな彼女を見て、ルルネはひゅぅ~、と口笛を吹いて彼女を称賛した。

「やるねぇ、アネットさん。さすがは、伝説の首狩りアネットってとこだね」

「ありがとうございます。――腕は、まだ鈍っていなかったようで、何より」

 アネットにとっては、敵の多さよりもそちらの方が心配であった。

 なにしろ、冒険者を辞めてからしばらく時間が空いていたのだから。

 たまに古巣に戻っては、面白そうな依頼をあさって腕が錆び付かないようにしてきたとはいえ、それでも商業ギルドの職員をやりながらでは限度があった。

 だから、今回の一件でまだ腕が鈍っていないと計ることができたのは、彼女にとっては僥倖であった。

「まぁ、私達もアネットさんの評価は知っていても、使うスキルに関しては何一つ知らないから、意外と驚いているんだけどね……」

「だよなぁ。よっと……意外とアクロバティックに動くよな」

「『縮地』と『透明化』、そして『気配操作』。私が授かった戦闘向けのスキルはその三つになります。あとは自前で覚えた風魔法ですね」

 それで空気の塊を虚空で形成し、『縮地』と合わせて空中での立体軌道に繋げているのだという。

 どう考えても、暗殺者という範疇を超えているのではないかとは、カイルは突っ込まなかった。

「しかし、相も変わらず手ごたえがない……。まぁ、数が多いですから、拠点防衛という意味では一人では心もとなかったですが」

「それでも、成果が一番上がってるの、何気にアネットさんじゃない。私、魔法使いなのに」

「市街地戦ですからね。大味な魔法は複数の敵をいっぺんに仕留めやすい反面、こうした閉鎖空間ではどうしても使いにくいところがあるでしょう」

「そうなのよねぇ……それっ、『エレキランス』!」

『あうぅっ!』

 などと言いつつも、自分たちに向かってくるサキュバスを巻き込みながら、雷魔法によってカイルのフォローも同時に行うその手腕は、言ってることとやってることが見事に一致していない実例だ、とアネットに感想を抱かせたが。

 とかく、そうした感じで危なげない戦いを繰り広げる三人達によって、サキュバス達は徐々にその数を減らし始めていき――そして。

「あ……ありえない……。あっというまに、何十人もの被害を出してしまうだなんて……」

「くっ、こんなのやっていられないわっ! 退却っ、総員退却よ! とにかく、夢の世界に一人でも早く逃げ込んで!」

 奇襲部隊を取りまとめていたらしいサキュバス達が、もう耐えられないとばかりにそう叫ぶ。

 サキュバス達は、その言葉を聞いた途端、我先にと夜の闇に溶け込むかの如く、煙のように消え去っていった。

 無事であったサキュバス達がいなくなると――後に残ったのは、店先で迎撃にあたっていたカイル達三人と、そして今回の襲撃で命運が尽き、物言わぬ屍と化したサキュバス達の成れの果て。

 カイル達は、周囲を見渡して、

「…………あ~、これどうすっか……。一応急場はしのいだけど、このままにしておくのはまずいよな……」

「そだね。そのあたりについては、私がギルドに伝えに言ってくるよ。『ワープウォーク』使えばすぐだし」

「そうですか。では、よろしくお願いいたします。私はもう、商業ギルドの職員ですので」

「そんなの気にする必要ないのに」

 と、さすがにこの状態で朝を迎えるわけにはいかないだろうと三人で結論を出し、代表してアネットが冒険者ギルドへ後始末を依頼しに向かっていった。


 そんなルルネを三階の窓から見送ると、エレノアたちも一階の売り場スペースへと向かって移動を始めた。

 カイルが言うように急場はしのいだとはいえ、やはりサキュバスがこの後どう動いてくるかわからない、というのがエレノア達の中でも懸念材料として挙がったためである。

「まぁ……朝になれば王太子殿下やシリカ様も戻ってきますから、あとはシリカ様たちに任せる、という手もなくはありませんけれどね」

「そうね……」

 コーネリアとしては、やはりエレノアには戦ってほしくはないのだろう。

 エレノアとしては、自分に降りかかった火の粉なので、自分で振り払いたい心境なのだが。

 とはいえ、エレノアとしてもシリカ達が無事に明日戻ってくることができたならば、いろいろと忙しくなりそうなのもまた事実。

 目下の問題は、数日後に行われる予定の、国王との謁見だろう。

 そこで、エレノアが社交界から、そして実家から追い出された件について、もう一度その処遇が正しかったのかどうかの議論が行われることになる。

 サキュバス達を王都内に放置しておけば、次はどんな悪さをされるか分かった者でもないし、彼女たちが弱って撤退していった今はチャンスでもある。

 叩けるときが今しかないのなら、遠慮なくたたいてしまいたいとエレノアは考えていた。

「あ、エレノア様。お疲れさまでした」

「ううん、アネットさんこそお疲れ。……今後のことについて、話し合いたいんだけどいい?」

「えぇ、問題ありません。……カイル様は?」

「俺も問題ない。ルルネには俺から伝えれば問題ないだろう」

「きまりね。じゃあ、打ち合わせを始めましょう」

 エレノア達と合流しようと考えていたアネット達と、同じくアネット達と合流しようとしていたエレノア達。

 互いに同じことを考えていたため、五人が合流したのは二階の階段前と、中途半端な場所となり、軽く話し合った結果、一階の食堂で話し合いをすることになった。

「んで? エレノアさんはどうしたいんだ? 俺達としちゃ、この後は冒険者ギルドに丸投げしてもらった方が一番だと思うんだがな」

「そうですね……サキュバス達に魅了される可能性は高いものの、敵の情報を予め開示するのであれば、対策の仕様はいくらでもありますから」

「そうね……まぁ、それが一番なんでしょうけど……」

「てか、ルルネが駆け込んで事情を説明したからな。明日には緊急で依頼が出されるだろうさ」

 カイルは、夜明け頃には緊急で依頼が出され、サキュバス達は少なくとも王都には居場所がなくなるだろうと予測を立てる。

 ただ、それに待ったをかけたのはエリスであった。

「えっと、追撃をするなら、それほど時間はないんじゃないかと私は思います」

「というと?」

「サキュバス達は、多分、夢の世界を通じて王都内のアジトに逃げ込んだんだと思います。それで、さっき見た感じだと、夢の世界も、現実の世界と同じように、広大な世界が広がっているみたいなので……」

「…………なる、ほど……夢の世界、か……」

 さすがにそっちはノータッチだな、とカイルは困ったように頬を掻く。

 そもそも、つい今しがたサキュバスが逃げ込んだ先が、夢の世界なのである。

 であれば、その夢の世界から現実世界の好きな場所に戻ってくることが可能だとするなら、そもそも王都内のアジトを破棄して各地に散る可能性だってありうる。

 そのことに思い至ったカイルは、ルルネをギルドに送り込んだのはいいものの、改めて後で報告に向かう必要性はありそうだと考えた。

「とはいえ、サキュバス達も疲弊しているのは確かだ。少なくとも、アジトに戻っている可能性は高いと俺は睨むけどな」

「確かに、それはそうだね……。エリスさん、あなたが捕らわれていたというアジト、案内できる?」

「え、えぇ……大丈夫、ですけど……」

 エレノアの問いかけに、エリスはそっと目を閉じながら静かに応える。

 眉を顰めて答えるあたり、その場所に行くことに忌避感があるのだろう。

 もっとも、エリスに行われた所業を考えれば、それは当然の話だが。

「わかりました。私が、案内します……」

「無理はしなくてもいいよ? 本当に大丈夫?」

 なんとなく無理をしているような様子のエリスに、アネットは心配しながら再確認をする。

 エリスは、若干目をさまよわせたものの、しかし今度ははっきりと、大丈夫です、やらせてくださいと答えた。

「話は決まったようだな。なら、ルルネが帰り次第――」

「ただいま~! はぁ~、疲れたぁ……」

「おぐぅっ!?」

 意を決したように頷いたエリス。

 それに頷き返したカイルは、早速準備を始めようとして――ちょうど冒険者ギルドから何らかの時空間魔法によって帰還したルルネの足蹴にされ、手痛いダメージを追ってしまうのであった。



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