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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
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Midnightの奇襲:1


 エレノアとコーネリアが、エレノアの自室でエリスのことについて話し合っているころ。

 そして時を同じくしてシリカ達がレーペンシュルク公爵家でサキュバスに対する尋問を終えたころ。

 エレノアの店の、住居スペースのエリスに宛がわれた部屋では、エリスとアネットが雑談を楽しんでいた。

 もっとも、アネットとしては就寝前にちょっとした雑談をしたかっただけ、なのだが。

「ふあぁ…………さて。それじゃあ、私はそろそろ寝ようかな……」

 一通り話したいことを話して、満足したのだろう。

 大きくあくびをして、アネットはそろそろ寝るとエリスに告げる。

 ちなみに、アネットに宛がわれた部屋はエリスの部屋とはまた別にあるのだが、本人はエリスの部屋に泊まり込む気満々である。

 なんなら、自室とエリスの部屋を二往復して、掛け布団とマットレスを持ってくるほどの念の入りようだ。

「えぇ。……おやすみなさい、アネット」

「おやすみ、エリス」

 就寝の挨拶をして、そのまま寝床――ベッドへと入るアネット。

 そんなアネットを見て、エリスはため息をつく。

 理由は――夜だというのに、全然眠くならない――どころか、昼間よりも活力がわいて来てしまい、何もしないでいる現状が落ち着かない事態に見舞われているからだ。

 目に映り込んでくるその景色も、昼間は人だったと何ら変わりなかったが、夜が更けてくるにつれて、どんどん視界がよくなってきている気がする。

 光がないのに、なぜ昼間よりもよく見える――より遠くまで見渡せるようになっているのか。

 その理由を、エリスは何となく察していた。

 ――夜は、人にとっては休むべき時間帯である。

 そうとはわかっていても、多数のサキュバス達に掛けられた眷属化の呪いによって、急速にサキュバスへと変えられてしまったエリスは、それに倣うことができなかった。

 すでに、本能に近い部分でもサキュバスのそれになり果ててしまっていたのだ。

 眷属の呪いをかけられたのは、サキュバス達の作戦が決行される前日、すなわち昨日のことだった。そして、今日の未明に目を覚ましたころには、もう体は完全にサキュバスになってしまっていた。

 このことに関して、エリスに隷属の呪いをかけたサキュバスは嘲るようにこう言っていた。

『このアジトにいる全員で眷属化の呪いをかけたのだから、完成まで一日もかからないわ。その姿を保っていられるのもせいぜいあと数時間、人としての本能を保っていられるのも、長くて明日の夜までよ。それまでに――せいぜい、人間としての自分と決別する準備をしておくことね』

 ほんのわずかな時間しかたっていないのに、この変わり様――サキュバスの言葉は、まさにその通りであった。

 本来ならばもう、眠っていてもおかしくはない時間なのに、全然寝たいとは思えない。

 むしろ、何かをしていないと落ち着かない。

 無論、人でも職業によっては、夜に動く人たちもいないでもない――が、あいにくエリスがこれまでに携わっていた仕事は事務だ。

 ゆえに、夜働くという事そのものに慣れておらず、そう感じている自分に戸惑いを感じずにはいられなかった。

「…………、」

 何もしていないのが落ち着かない。

 何かをしていたい。

 その欲求に耐えることができなかったエリスは――ふと窓のカーテンを開けて、外の景色を眺めた。

 サキュバスになって夜の、光無き世界でも問題なく物が見えるようになったのは、彼女にとっては新鮮な感覚だった。

 日陰の中に入った程度にしか暗く感じないのに、空だけは星の光がまばらに感じられる真っ暗闇。

 そんな――違和感だけしかない世界。

 つい一週間前までは、普通に空以外も明かりがない限り真っ暗闇にしか見えなかったというのに、ずいぶん変わってしまったな、とエリスは自嘲するようにうっすらと嗤う。

「あいつらは――本命は、今晩だって言ってたけど……全然来る気配がないなぁ……」

 いったい、どうやってくる気なんだろう。

 そう思いながら、再度カーテンを閉めようとしたところで――ふと、すでに感じていた違和感とは違う違和感(・・・・・)を感じ、再度窓の外に意識を向ける。

 見た感じでは、何も変化がない。

 数舜前と何ら変わらない、王都の東門と王宮の敷地の東門とをつなぐ、大通り。

 なにもおかしいものは映り込んでいないはずなのに――エリスは、その風景の中になにか異物が入り込んでいるかのような錯覚にとらわれる。

 その異物の正体を感じ取るために、彼女は無意識のうちに目に魔力を集中させた。

 魔力を集中させた彼女の眼に映り込んだのは――

 先ほどまでは何も見えなかった大通り。しかし、魔力によって通常とは異なる視覚を得た今は、まったく別の風景を映し出していた。

 それだけなら、まだ大して驚きはしなかっただろう。

 しかし、エリスに見えたのはそれだけではなかった。

「――――っ!?」

 視界のあちこちに散見される、サキュバス達。

 エリスがとらわれていたアジトにいたサキュバス達が、揃ってエレノアの店へ突入するその時を待ち望んでいるという、まさに非常事態といっても過言ではない光景だった。

(なに――この、風景は。あそこのお店は青果店だったはずだし、隣の店は野草や花を扱う店だったはず。それにあっちのお店は――違うっ、今はそんなことを考えている場合じゃなくって!)

 エリスは、慌てて寝入ったばかりのアネットを慌てて叩き起こした。

 その時に、またしても無意識のうちに魔力を手に集中させ、とある魔法を発動させたことに気づかないまま。

「アネット、起きて、目を覚まして!」

「――はっ! 敵襲!? いつのまにっ、ってなんだ、夢か……。あれ、アネット、寝てなかったの!?」

 その結果、アネットはハッとして勢いよく飛び起きてしまい、エリスと衝突しそうになってしまった。

 エリスはそれにまたしても慌てて、回避しながらも状況を説明する。

「わぁ、たしはもう、サキュバスになっちゃったから、夜だと逆に目がさえてしまうの。それより、外をたくさんのサキュバス達が!」

「外? サキュバス? 寝入ってすぐに夢の中で見はしたけ、ど……」

 アネットは、言いながらエリスが尋常ではないほどの緊張状態にあることに気づき、自らもまた同じくらいの緊張状態に入る。

「もしかして、今さっきの夢を見せたのは、エリスなの……?」

「夢って、そんなこと言ってる場合じゃなくて、早くエレノア様達に報せないと!」

「わ、わかったから、押さないで……」

 自分の言葉も通じないくらいに緊張、いや恐慌状態になっているエリスを訝しみながらも、アネットはとりあえずといった感じで彼女が現役時代に使っていた武器二つと毒消しナイフで武装を行い、エリスに連れられるままエレノアとコーネリアの部屋へと向かっていった。

 その傍ら、アネットはエリスから状況を聞くことも忘れない。

「…………つまり、サキュバスになったことで普通とは異なる視覚を二種類も得た。そのうちの片方で、何かしらのチカラを使って潜んでいた大勢のサキュバスを発見した、と。そういうことであってる?」

「そう。あと、サキュバス達を発見した時に見た景色は、その前のただ夜目が聞いているときの景色とは明らかに違ってた!」

 そして、その結果得た情報から、エリスが見たそれは、おそらくサキュバス達が夢魔法を使用して潜伏しているような感じなのだろうとなんとなく察した。

「多分、それは夢魔法ね」

「夢魔法……? エレノア様が言ってた、サキュバス固有の魔法の?」

「そう。だから私も詳しくは知らないんだけど……さしずめ、夢の中の世界に潜んで、機を見計らっているってことなんでしょうね」

 そして、その潜伏もおそらくはもうそろそろ終わるころだろう。

 エリスがカーテンを開けて、外を見た。そしてサキュバス達を目撃して、慌ててアネットを起こした。

 エリスがアネットのいう夢の中の世界の光景を見たのは、無意識とはいえエリスが夢魔法を使ったからだ、とアネットは推理する。

 そしてそれによって、エレノアの店の周辺にサキュバスが集結していることがばれてしまったという事実は、エリスとまったく同じことができるはずの、敵方にも伝わってしまっているであろうことは、想像に難くない。

「急いだほうがいいわね。全速力でエレノア様のもとに向かうわ。エリス、あなたも可能なら戦うの手伝って!」

「え、えぇ!? わ、私も!?」

 戦ったことないんだけど、と言いながらアネットに続いて走り出すエリスであったが、本人が思った以上に走力が出せて、思わずびっくりしてしまう。

「なんでかしら、いつもより早く走れる」

「それは、おそらくサキュバスになった影響でしょ。サキュバスって、夜行性ってイメージ高いし」

「そっか……」

 これなら少しは戦えるかな、でもただの眷属でしかなく、それ以上にサキュバスになりたてで、さらに実戦経験もない自分が役に立てるかな、などとエリスは考え始めたが、ある程度考えたところで今考えても仕方がないことに考えが及び、思考を放棄した。

 なんにしても、今はとにかくエレノアのもとへたどり着いて、彼女にも敵襲を報せないといけない。

 アネットに走る速さを合わせてもらいながら、エリスはかつて出したことがない走力でエレノアの部屋へとたどり着いた。

 と、そこで。

 ――ガシャァン……。

「今のは……!?」

「…………ぁっ、ぃゃ……」

 何かが――おそらくは窓ガラスが割れるような音。

 それとほぼ同時に、神聖な魔力の奔流が、アネットとエリスを襲った。

 アネットはそれを浴びても特に問題はなかったが――眷属の呪いを受け、ほとんどサキュバスになってしまっているエリスにとっては、それだけで一大事だった。

「エリス……?」

「ごめん……アネット。でも、私……この先には行けそうにない……」

「なにを……っ、いえ、わかったわ。なら、あなたはここで待ってて。私がエレノア様達と話をしてくるから」

 悪寒を感じてその場にうずくまるエリスを見て、神聖な魔力によって悪影響を受けているのだろうと瞬時に察したアネットは、彼女をこの場に待機させて、一人エレノア達の部屋へと入っていった。



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