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わらしべ聖女様 〜TS転生放逐令嬢の奮闘記〜  作者: 何某さん
アキナイ、戦い、Reversible
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王太子のDucal place攻略記:4


 四人はそのまま公爵家本邸の敷地からも出ると、とりあえず手近なホテルに部屋を取り、そこで様子を見ながら今後の対策を考えることにした。

「参ったな……あてにしていた装備が全然役に立たなかった……」

「それだけ、相手の使ってきた催眠攻撃が強力だった、ということでしょう」

 シリカは、並大抵の『眠り系耐性上昇』では全く歯が立たないだろうと王太子に告げる。

「『眠り系統無効』ですか……。王都内では見たことがありませんね」

「あら、アンネはアクセサリショップに行ったことがあるの?」

「おや。聖職者と同じく必要最低限以外では清貧を求められる聖騎士様がアクセサリですか。アンネマリー殿と言えど、やはり女性ということですね」

「んなっ、失礼な! ルード殿、私はそんな贅沢はしない! 私はただっ、ウインドウショッピングをしていた時のことを言っているだけで……。そんな出鱈目を言うのはやめていただけないか!?」

 ルードがそう茶化せば、アンネマリーと呼ばれた聖騎士が食って掛かる。

 それを見てやれやれ、と思いながら王太子はこの後どうするかを一同に問いかける。

「アラクノイドシルクの護りすら破ってこられるとなると、もう『眠り系統無効』の効果を持つものでないと難しいのではないでしょうか」

「そうですね……。聖女様が今身に着けている衣服には外界からのあらゆる悪影響を遮断する効果がありますし……それは同じアラクノイドシルクを使用しているベールにも同じことが言えますからね」

 つまり、シリカの持つ実質上の催眠攻撃への耐性は、この中では断トツで高いと言える。

 そんな彼女が、聖騎士についで二番目に眠らされて無力化されてしまったのだ。

 残る他のメンバーも催眠攻撃への対策はしてきたものの、シリカほどは高くなく、保険として持ってきた『アウェイクヒールポーション』もあのままでは使い切ってジリ貧以前の問題になることは明らかに見えていた。

「……とりあえず、手段の一つとしては、シリカの付与魔法にかける、というのがまず考えられるな」

「わ、私のですか……」

「失礼ながら、王太子殿下。確かに、聖女様が使用される『レジストバリアー』なら、あるいは敵の催眠攻撃対策の補強策にはなり得るでしょうが……」

「バリアーを破られれば無駄に終わりますから、確実性にはちょっとかけそうな気がしなくもないです」

 レジストバリアーは、各種状態異常への耐性を上げるための魔法だ。

 だが、あくまでも外付けの耐性補強策であり、バリアーを破られた場合はやはり、もともと講じていた対策次第となる。

 ゲームで言うならば、味方自身の状態異常耐性による抵抗判定の一つ前に、レジストバリアーによる抵抗判定(七割の確率でレジスト)が発生し、二重判定(発生判定も含めれば三重判定)になる、と言った形だ。

「まぁ、言わんとしていることはわかる。確かにレジストバリアーはそういう魔法だとエレノアも言っていたしな。バリアーを突破されれば、結局のところ俺達が当初講じていた対策が頼みになる。……だが、俺が言っているのは、その今講じている対策の方の話だ」

「どういうことですか?」

 糸を掴みかねているアンネマリー。その対面で、ルードも訳が分からないと言いたげな表情をしている。

 ただ一人、シリカだけは察したような顔をしていた。

「王太子殿下。それは、もしかして…………私に、エレノア様の真似をせよと……?」

「手段の一つとしては、な。……彼女のもとに行って、師事しているのだろう?」

「そ、それはそうですが……」

 シリカが言い淀むのも無理はない話である。

 そもそも、シリカは未だ、『エイドヒールポーション』と『ミドルヒールポーション』しか作ったことがないのだから。

 その上、そのどちらもエレノア謹製付加価値付きポーションとは違い、純粋にそれぞれの魔法しか封じていないものしか作れない。

 まだ、アクセサリに特殊効果を付与するような段階にはなっていないのだ。

 だが、そんなシリカに対して王太子は言葉を重ねた。

「無論、無理にとは言わない。君がエレノアのもとに通い始めて、まだ半月ほどだしな。それでも、基礎は抑えられたんだろう?」

「え、えぇ、まぁ……」

 王太子の問いかけに、シリカは頷く。

 確かに、ここ数週間、暇を見つけてはエレノアのもとでヒールポーション作りに励んでいた。その結果は見事に結実し、人ではなく物に付与魔法を使用するための基礎は、確かにおさえることはできていた。

「エレノアは言っていた。やることは、変わらないと。モノに新たな特殊効果を付与することも、もともとあった特殊効果を強化することも、基本的にやることは変わらない、と。ただ、素材となる物品からも魔力を供給する必要はあるらしいがな」

「確かに……そんなことを言っていたような、気は致します……」

「そうか」

 ただ、それが自分にできるかどうかは、シリカ自身未知数だった。

 一応、エレノアのもとに通い始めて以降、何度か素材用の野草から魔力を感じ取る、という行為を試みたことはあった。

 元来、エレノアと同じく聖女であるため、魔法適性が高かった彼女は、すぐにその素材の魔力を把握することができたし、なんならエレノアをして、わずか二週間の間で次の段階に行けるんじゃないか、と言わしめる程度には付与魔法の戦闘以外での扱い方にも慣れてきた。

 しかし――それでも、その次の段階(・・・・)の説明を受ける前のタイミングで、レーペンシュルク領に来てしまったのだ。

 結果として、シリカは素材の魔力を用いて、モノに特殊効果を付与するその方法が、まだわからないのである。

 まったくやり方が分からない、手探り状態でのマジックアイテムの作成。

 何も起きていない状態であれば、まだ軽々しく引き受けることもできただろう。

 だが、シリカ達が置かれた現状が、彼女に待ったをかける。

 果たして、本当に自分にできるのか、と。

 なにしろ、つい最近まで本当に簡単なヒールポーションすら作れなかったのだ。

 そんな自分が、エレノアが作っているような付加価値付きポーションという段階をすっ飛ばして、一気に耐性効果付きのアクセサリを作るなんて、果たして可能なのだろうか。

 もし、この場にエレノアがいたらどうなっていただろうか、とシリカはこの場にいないもう一人の聖女のことを思い浮かべる。

 彼女なら、王太子とともに今すぐそのために必要な素材を集めに行き、そして帰って来て早々に息をするようにしてアクセサリに特殊効果を付与することだろう。

 そう、息をするように――。

 エレノアが、戦闘面においてシリカの域に遠く及ばないように、シリカもまた、付与魔法、ひいてはそれを用いたマジックアイテム作成という分野においてはいまだ遠くエレノアの域には届かない。

 ――私にも、エレノア様と同じくらい付与魔法が使えたらいいのに。

 シリカはあらためてエレノアの実力を思い知り、力の及ばない自身の身を呪うように、そして後方支援のための知識を与えてくれなかった教会を恨むように、唇をきつく噛みしめた。

「まぁ、まだシリカも付与魔法については学び始めたばかりだしな。焦ることはない。君のペースで邁進していけばいいだろう。気にしすぎるなよ?」

「はい」

 シリカの表情を見て、これは無理かと判断したか――王太子にそう言葉を掛けられ、シリカはとりあえずは、といった表情で頷くのであった。

「しかし、そうなるとあとはどうするべきか……」

「…………そういえば、ルベルト王国に来る前に下調べをしていたのですが……」

 アンネマリーが口を開いたところで、本当にどうしようか、と悩みながらそう呟いていた王太子は、ふっと彼女に視線を差し向ける。

「うん? それがどうかしたか?」

「はい。実は、要注意生物を調べていた際、この辺りの魔物の中ではイネムリダケが特に注意が必要な魔物だ、と文献にはありましたが、それは本当なのでしょうか」

 外国に長期滞在するとなれば、その国の風土や風習などを調べておくのは別におかしいことではない。

 また、この世界ではそれに加えて、その国では魔物たちがどのような生態系を築いているのかも下調べの中に含まれることも少なくない。

 アンネマリーのそれはまさに、その下調べでわかったこの辺り一帯の生態系に関する話であった。

「ん? あぁ、その情報で間違いない。毒キノコとしてのイネムリダケが何らかの原因で魔物になった奴なのだが……もとが毒キノコなだけに、倒しても毒キノコ。あれは害にしかならなくてな、レーペンシュルク領が抱える悩みの種の一つだと聞いた覚えがある」

 王太子は、そこまで言ったところで、アンネマリーが何を言いたいのかを見抜いた。

 つまり、彼女はこの街に、そのイネムリダケ対策になるようなものが売っているのではないか、と言っているのだ。

「なるほど……確かに盲点だったな。イネムリダケなどという、睡眠毒を放つ危険生物がいるんだ。それを狩る冒険者たちのために、眠りを防ぐためのアクセサリがあってもおかしいことじゃない」

「はい……。私どもとしても、金の力に頼るのは気が引けますが……ここはやむを得ません。レーペンシュルク家本邸に巣くうサキュバスを倒すには必要なこととして、恥を忍んで金の力で何とかするしかないかと……」

「なるほどな。君らしい言葉だ」

 話は決まった、と言わんばかりに椅子から立ち上がる王太子。

 続くルードが、そうするのであれば準備は万事オーケーだ、と言わんばかりに出かけ支度を整える王太子に財布を差し出す。

 ――貴きものは金銭を持たない。

 それは男であっても同じことで、また王族であっても変わらない風習でもあった。

「王太子殿下。そういうことであれば、私にお任せを。実はこういうこともあろうかと、いくらか金銭は持ってきております。こちらをご確認ください」

「どれ……」

 王太子がルードから財布を預かり、中身を見てみれば、そこにはかなりの量の金貨が入っていた。

 いくつか取り出してみれば、1万ルメナ、2万ルメナ、5万ルメナと三種類揃っている。

 また、それらに紛れて10万ルメナ貨も何枚か見つかった。

「…………なるほどな。これなら金銭の心配はなさそうだ」

 万が一のことがあっても、現地で物資を調達できるようにとの、国からの配慮であった。

「悔しいですが仕方がないです。敵から手痛い反撃を受けて撃退された今、いつ追手が放たれるとも限らない状態なのですから。私も、ここは悔しがっている場合ではないですよね」

「聖女様…………」

「さぁ、行きましょう。もう間もなく、日が暮れます。夜は敵の独壇場ですよ!」

 シリカの号令の下、一行はこれ以上は迷うことなく、街へ繰り出た。



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